夕昏
――― 宮内林檎SIDE ―――
「あ〜も〜!! 1度ならず2度までも〜!!」
森の中、アタシは木と木の間を走り抜けながら毒づいていた。
邪魔ばっかして! あの丸坊主め〜!!
「くふふふ……でも、これで勝ったと思わないことね。こんなの小手調べなんだから」
森の中にしかけた罠など、ただの遊びに近い。
………本命は、塔の中にあるんだから。
「………っていっても、今日はもう攻め込んで来ないわね、さすがに」
少しずつ、空が茜色に染まってきている。
昼間ならともかく、夜のこの森は危険だから絶対入るな、と森元先生から厳命されている。
昼間以上に危険とわかってて森に入る馬鹿もいないでしょ。
………たぶん。
とか考えている内に森を抜け、少しずつ木々が少なくなってくる。
ただっ広い荒野に、地平線が視界を埋め尽くす。そして真っ赤に沈む夕日を眺めながら、その雄大な景色に嘆息した。
「………全く。ここがアフリカの大地ですって言われた方がまだ納得するわ」
よりによって火星とか……………アタシたちは宇宙人かっての。
「………と」
その時だった。
ドドドドドドドドドドド……………
「………バッファロー?」
L字形の2本の巨大な角にいのししみたいな体躯、そして群れになり、こちらに向かってただひたすら走るその姿は、確かにバッファローっぽいけど………
「バッファローって、2足歩行だったっけ?」
なわけないじゃんと、自分に悲しく突っ込みを入れる。
……いやだってさ。なんかバッファローの面をかぶった気色悪いムキムキのおっさんみたいなのが走ってくるんだよ。現実逃避もしたくならない?
………とかぐだぐだ言っててもしょうがないか。
「アルデ、グランソレイル……」
杖を取り出してそこまで唱えると、バッファロー(仮)どもが突進してきたので、跳躍してかわす。
「トゥアエネルミトゥスカルメ、ディ、セルミア!!」
詠唱が終わった瞬間。
ドゴオオオ!!!
まるで、突然大火災が起こったかのように。
周囲のバッファローたちが火の海となった。
「く、くくくく……」
炎の中、拳を握り締めながら、私は思いっきり笑った。
「はーっはっはっは!! 前のようにはいかないわよあのクソ坊主―――!!!」
***
――― 委員長SIDE ―――
「……………(ぶるっ)」
「………? どうしたの、委員長」
「い、いや………」
八巻さんの言葉に、僕はなんでもないという風に手を横に振った。
第1班の人たちと森を歩きながら、僕は急に感じた寒気に首を傾げる。
なんだろう………?
「そろそろ日が落ちるわね」
傾きかけた日を見ながら、八巻さんが言った。
「お腹すいた〜………」
「疲れた〜………」
文芸部の土田芽衣さんや鈴木理緒さんが、へたり込みそうになりながら言った。
「体力ないわね〜、と言いたいところだけど………」
周囲を見渡して、八巻さんはため息をついた。
「今日はこれ以上進むのは危険ね。そろそろ野営の準備をした方がいいかも……」
「野営?」
今井さんが、ぴくりとアホ毛を反応させる。
「それって、キャンプみたいなもの?」
「そんな楽しいものじゃないと思うけど………ねぇ、委員長」
「何?」
聞き返すと、八巻さんはバッグからひもと袋(スーパーの買い物袋だった………)を取り出した。
「悪いけど、薪と、できるなら食料を調達してきてくれない?」
「わかった」
食料は、食べれるキノコとかよくわからないから自信ないけど。
「時計はあるわよね?」
「うん」
僕は腕時計を掲げた。
「今が5時だから………じゃ、これからきっかり1時間後の6時にもう1回ここに集合ね」
「それはいいけど………君たちはその間何をするの?」
「………………いろいろよ」
「……………?」
八巻さんは言葉を濁すと、僕から視線を外した。
いろいろ?
「……ま、わかったよ」
「頼んだわよ」
僕は1人、森の中へと入っていく。
「さて、じゃあ私たち女の子は………」
八巻さんがそう言っているのを聞きながら、僕はふと思った。
「………………あ」
非常にマズイ事実に、気づいてしまった。
森の奥に十分入りこみ彼女たちが見えなくなってから、僕は振りかえった。
「……………野営中、もしかして、いや、もしかしなくても。男って僕1人?」
***
………一方その頃。真っ暗な城の地下で。
「迷った―――!!!」
「………言うな。悲しくなるから」
洋太と俺の虚しい叫び声が、木々の間を響いて消えた。
委員長、どラッキー!www




