小林美紀とリーファン
――― 小林美紀SIDE ―――
………どうも、小林美紀です。
………………誰だか覚えてないですよね。髪型は三つ編み、めがねをかけてます。いつもは教室の隅で1人で本を読んだりぼーっとしたりしてます。
………それだけです。
すみません、私みたいなのがちょっと出ただけなのにしゃしゃり出て………………ううう。
………どもってすみません、しゃきっとします。
……すー、……はー、…………
では、自己紹介はこれくらいにして、話を進めようと思います。
***
私の所属する7班は、攻撃に参加せず、現在唯一お城の警備に周っています。
今私がいるのが、先ほどまで2−Bのみなさんで食事をしていた大広間。食器は片付けられていますが、大きくてアンティークでいかにも高そうな大テーブルが目をひきます。
そしてこの大広間のさらに奥には、10mぐらいだろうか。非常に大きな扉があり、その奥が玉座、つまり私たち2−Bの王様役の西村先生がいるところなわけです。
………さて、12時にこの篭城戦が始まってから、そろそろ1時間が経過しようとしています。
私は今、失礼して大広間の椅子に座らせてもらっています。
あと4人の班員の内3人は城の門や高台で、他クラスが攻めてこないか警戒しており、今ここにいるのは私と………
「う〜、暇ですネ、ミキ」
先ほどからお城の中を行ったり来たりしている、このクラス唯一の外国からの留学生、リーファンさんです。
リーファンさんは髪を後ろでお団子のように一まとめにくくっていて、それがとてもかわいらしく、日本語も頑張って勉強しているし、物怖じしなくてとても明るくいい人なんですけど………
「………そうですね」
「うーうー! 暇ネ暇すぎネ〜!!」
……少し落ちつきがないのが玉に傷な人です。
「そうだ!」
ぴこーん! と頭に豆電球が出てきそうな勢いで言った。
「隣に桃ちゃんいるよね?」
「………確かにそうですけど」
「何をしているのか覗くネ!」
「だ、ダメですよ」
私は慌てて立ちあがると、語尾を強めて言った。
「中には入るなと、言われてるじゃないですか」
「………『パンドラの箱』、っていう話をご存知かネ?」
うふふふふ、と怪しげに笑うリーファンさん。………ごめん。かなり不気味です。
「あれは『やるな!』と言われたら逆に『やりたく』なるという、人間心理をよく知っている話ヨ」
「………え、と」
「つまり!」
にやりと歯を光らせた。
「ここで私が覗きたくなるのは、むしろ人間心理の必然ネ! しょうがないネ! 不可抗力というものヨ!」
「単なるいいわけにしか聞こえませんよ」
「ちょこっと覗くだけネ、のーぷろぶれ〜む!」
「ちょっとでもなんでもダメです。下手なことをしたらみんなに迷惑がかかるんですよ?」
「………ふむぅん」
ゆずる気のない様子の私を見ながら、リーファンさんは真面目な(?)顔であごに手をあてます。
そしてしばらくすると、私の肩に手を置いて、真剣な目で見つめてきました。
「………ミキ」
「………なんですか?」
……少し真面目な雰囲気が漂ってきたので、私も真面目に話を聞く体勢になります。
「みんなに迷惑がかかるかもしれない、ミキはそれを恐れているネ?」
「え、ええ………」
ぱっちりとした二重の瞳が、優しげに細くなります。
「他の人のことをそんなに一生懸命考えられる、それはとても立派なことネ。すごい思う。けどネ……………それだと、ミキ自身はとても不幸になるネ」
「………なんでですか?」
……他人に迷惑をかけないようにすることのどこが悪いというのだろうか?
「他の人のために自分を抑えてるからヨ」
「う………」
………まぁ、それはその通りですが。
「ですが私のような人間は表に立つよりはこうして裏でひっそりとしていた方が……」
「『私のような』……そう言って自分を見下してはだめヨ」
「………!」
ずきっと、その言葉は身に染み渡ります。
「ひとに迷惑をかけることを恐れてはだめネ。私も中国から来たから、最初は言葉がわからなくてB組のみんなに多大な迷惑をかけたネ。けど………それに関して、私は後悔してないヨ。あの迷惑があったからこそ、今、こうしてミキと話せる自分がいるんだからネ」
「………うう」
ダメ。
……なんだか、納得しかけている自分がいます。
「………なぁに、大丈夫ヨ」
からからと、リーファンさんは無邪気に笑った。
「2−Bの人たち、みんないい人ネ。多少迷惑をかけたぐらいで、どうこういうような人はいないヨ」
「………!!」
ズガーン!!
今、多大な電撃が私の中に走りぬけていきました。
「さあ! いざ行くネ! 我らがために! そしてしいてはみんなのために!」
あ、あああああああ………
あ〜!!
***
……結局。
私は玉座へと続く扉を少し開けて、リーファンさんと一緒に玉座に座っている西村先生を盗み見ることとなりました。
「………すみません、お父さん、お母さん。先立つ不幸をお許しください」
「ほうほう……これが玉座ネ!」
自殺寸前の人みたいな心境の私と対照的に、リーファンさんは嬉しそうに玉座をきょろきょろ見まわしている。
……ちなみに、玉座に先生を押しこめ生徒たちを入らせないようにするのは、先生が生徒たちにぽろっとでもアドバイスするのを防ぐためと、玉座に生徒たち全員が詰め掛けて王将の役目である先生を全員で守る、なんて事態にならないようにするためらしい。
……仮に生徒全員が王将を守ったりするようなことになると、非常に決着がつきにくくなりますからね。
……としばらくぼーっと考えていると。
「………う〜ん、これはまずそうですねぇ」
体育館並の無駄な巨大さを持つ豪奢な部屋に、西村先生の独り言が響きました。
「……何がまずいんだろネ?」
「……さぁ?」
見たところ、西村先生は玉座に座ったまま、大きな水晶をじっと覗き見てるようです。
「………さすがに彼らにプテラロイドはきついですかね。
……あまり使いたくはなかったのですが、仕方りません」
そして、にゃむにゃむにゃむ………と水晶玉の前で呪文を唱える西村先生。
……何を言っているのか、小声すぎて聞き取れません。
「………!」
そして、詠唱が終わった瞬間。
カアアアアアッ!
青い水晶が、真っ白な光を放ちました。
小林美紀にリーファン。2人も見慣れないキャラが出てきましたが……ちょいキャラです。www
特に小林美紀。この子の性格は好きなのですが、語り口調が難しく、書くのも苦労しましたから。