くさっ!?
「「………………!!」」
バンッ!!
宝物庫へと先に入った俺と龍二は、ドアを開けた瞬間、突然たちこめた臭気にすぐドアを閉めた。
「………どうした?」
洋太が不思議そうにこちらを見る。
「くさかった」
俺は簡潔にそう言った。
「鼻が曲がりそうだったっス」
龍二は鼻を押さえ、涙目でそう訴える。
「くさい?」
少し興味を引かれたらしく、洋太はそっと鉄のドアを開けて………
「くさっ!!」
バンッ!!
悲鳴をあげると、さきほどの俺たちと同じように、すぐにドアを閉めた。
「何の匂いだったの?」
後ろの方にいた坊主委員長が聞いてくる。
「……ドリアンとクサヤを混ぜて腐らせたような感じ」
中々的をえた表現をしたな、洋太。
しかし委員長は説明がさっぱりわからなかったらしく、小首を傾げた。
洋太はそんな委員長には構わず、ひたすら嫌そうに言葉を続ける。
「酔いそうな甘ったるさと強烈な刺激臭が……………とにかく、強烈だった」
洋太があーもう嫌だ、という風にドアから距離を取ってうずくまった。
「入るのは無理っス。どう考えても」
洋太と同じように「……少し鼻に臭いが残ってるっス」と言いながら、心底嫌だという風にドアから離れる龍二。
だが、根性なしとは到底思えなかった。
「……俺もあれを嗅ぐのは2度とごめんだ」
あの臭いを思い出して、俺も一瞬、嘔吐感を覚える。
それほどの臭いだ。
仕方ないから引き返そう………そんな雰囲気が場に立ちこめる。
しかし………その時だった。
「………………クロワシリエ、モンティコル」
愛すべきメタボ、沼田五郎が消え入るような声で呟いた。
ヒュウン……!
それと同時にこの場にいる沼田自身を含めた5人を取り囲むように、簡易結界が張られた。
「えっ!?」
委員長が沼田を驚きの表情で見る。
「………これで臭いは遮断できる」
沼田はこともなげにそう言うと、右手に持った杖を懐に戻そうとして……
「おまっ!? それ、リーフの杖!?」
洋太の驚愕の声が、その手を止めた。
『リーフの杖』
補助呪文、特に回復系の呪文との相性に特化した杖だ。
パッと見、どこぞの神官が持っていそうな形をしており、白銀の柄と先っぽに拳大の白い宝玉がつけられている。
………本来ならE組補助科の人間が持っているはずの杖だった。
「………デザインが気に入ったから、買った」
……いや、気に入ったから買ったって。
一応、車1台分の値段はするはずだぞ?
「そういや沼田って、親父が大病院の院長やってるって聞いたことがあるな」
洋太がぼそっと呟く。
「………………」
沼田は趣味のこと以外ではほとんどしゃべらないので、洋太の言葉には答えず、そのまま大事そうに杖を抱えると黙ってしまった。
「………とりあえず、行くか」
「了解っス」
「行こうか。結界、頼りにしてるよ、五郎」
「………………わかった」
そんなこんなで、俺たちは無事、宝物庫に入ることができたのであった。
***
『第8班、宝物庫へ無事潜入』
***
――― 八巻枝理SIDE ―――
「……へぇ〜、魔ーのヤツ、ちゃんと頑張ってるみたいね」
薄暗い森の中で、『記憶の書』に書かれた言葉を読みながら、私はそう言った。
「だね。アイツらのことだからサボってると思ってたけど……」
横から麻衣ちゃんがひょっこり私の『記憶の書』を盗み見る。
……その時だった。
「ぎゃー! 何このカブトムシー!!」
「でかっ!? てか角ありすぎでしょ痛そうこっち来るな〜!!」
「うぎゃー! 食べられるー!!」
………あのおしゃべり3人娘は、いったい何やってんだか。
「麻衣ちゃん」
「ん」
麻衣ちゃんが地を蹴ると、カブトムシに向かって一足飛びに近づき、ルミナスの剣を振り上げる。
「はっ!!」
ドゴッ!!
木にたたきつけられ、カブトムシがぴくぴくと動きを止める。
私はそいつに歩み寄ると、
「………メルサヴィア!」
ついでにカード化の呪文をかけて、一丁あがりだ。
「いえ〜!」
「うん」
ぱんっ! と麻衣ちゃんと2人でハイタッチした。
『X Beetle』
……クロスビートル、かな?
さっき変なスライムみたいなのもカード化したし、これで6枚目
順調、順調♪
「「「うああああ〜ん!」」」
「「………!!」」
突然の大泣き声に、びくぅっ!! と身体をすくませていると、3人娘たちは私たちに向かって駆け寄ってきた。
「「「ごわがっだよ〜!」」」
「「おお〜、よしよし……」」
抱き着いてくる3人の頭をよしよしとなでる私と麻衣ちゃん。
「何あれ!」「かわいくない〜!」「虫いや〜!」「きしょかった〜!」
「「………」」
怖いとかいうより、虫への嫌悪感の方が大きい気がするのはなぜ?
「……あらあら、もう泣いてるの?」
「「「「「……!!!」」」」」
突然、どこからか女の声が響いた。
瞬時に周囲を警戒する。
私たちでも、B組の誰かでもない、誰かの声。
………つまりは、敵。
「怖いのは、むしろこれからなのに……」
不気味な声が森の中に響く。
しかし、木々、空、とぱぱっと見渡すが、周囲に人影はない。
「アンタらも馬鹿ねぇ、何の警戒もせずにまっすぐ敵陣まで来るなんて……」
ヒュッ!
「…!? 後ろ!!」
バッ!!
私の叫びと同時に、みんなはジャンプして背後から襲撃してきた何かをかわす。
ズドドドド!!
「……げ」
木の枝に止まった麻衣ちゃんが、嫌そうな声を出した。
飛んできたのは………矢だった。
それも10本近い、大量の。
「……あの生意気な眼がね坊主がいないのは残念だけど」
……いったいどこから?
そう思って矢の飛んできた方向や、声のする方向を探ってみるが、どうしても人の気配が見つからない。
「……まぁいいわ」
くくくく………とこみ上げるような笑い声が聞こえた。
「せいぜい、頑張ってあがいてね」
***
『第1,2,3班、『トリックスター』と接触、戦闘』
今回の題名。実は著者が激笑いしてます。wwwwww