籠城戦スタート!
――― 今井麻衣SIDE ―――
無事、8班×5人の班分けもすんだ。
魔ーたちの班は地下宝物庫の散策に渋々だが行った。そしてもう1班を城に残し、残りの6班×5人=30人が城門前に集まっていた。
ちなみに11時30分ごろに、お城の大広間でのこと。
いつの間に編集したのか、各クラスの代表(ウチのクラスは委員長)による『勝つぞ!』という宣誓を取ったビデオを見させられた。
その映像には、委員長の真面目で実直な宣誓や、D組のエルさんみたいに『勝って当然』という雰囲気の宣誓など、色々あった。
「…………!」
私は拳を握り締めた。
だんだんと『篭城戦』、月一のクラス対抗の実力戦が始まるのだ、という実感がわいてきたのだ。
そして今、正午12時少し前。
そこで私たち、城外に出て他の組に攻め込む予定の班が一同に集まっている。
巨大な橋を渡りきり、その先にはうっそうと茂る木々がドン! と密集している森がある。
今から見知らぬ森へ、あそこに入るのだ。
ついに篭城戦の火蓋が切って落とされる!
なんだかわくわくしてきた!
「いよっし! やるぞ〜!」
「うん! その意気ですよ麻衣ちゃん!」
私の気合に、桃ちゃんが呼応してくれた。
「さて、私からの最後のアドバイスです」
見送りをしてくれるらしい、桃ちゃんが胸をはって言った。
「これから先は森、海、山、至るところにモンスターがいます。ですが恐れることはありません。みなさんでも十分対応できる強さのモンスターばかりですから。
余裕があれば、モンスターをカード化してみるのもいいかもしれません。
頑張ったらそれに呼応した成績及び豪華賞金が貰えますので、頑張ってくださいね!」
『賞金!?』
その言葉に、ほぼ全員が目の色を変えた。
………実は私もその1人だったり。
「うふふふ………学園は太っ腹なのです! 期待しててくださいね!」
それともう1つ。
皆さんに青い魔法書をお配りしたと思います」
ああ、そう言えばそんなのをもらったな、と思いながら私は小型のバックの中をちらりと見た。
桃ちゃんはポケットに手を入れると、メモ帳程度の大きさの青い本をポケットから取り出した。
「これは『記憶の書』といいまして、任意者が魔法を使えば離れていてもそこに文字を書き出すことができます。
私たち先生が戦闘の経過をそこに筆記しますので、暇が出きれば逐次確認してください。くれぐれも落とさないでくださいね!
この戦闘にタイムリミットはありませんから、その本に『戦闘終了』と書かれたら、そこで終わりです。ちなみに………」
桃ちゃんは、ふっと黒く笑った。
「例年通りだと最低でも終了まで2,3日、下手したら1週間ほどかかりますから、覚悟していてくださいね」
「うわ………」
日を跨ぐのか、と私たちはげっそりした。
「以上です! ………そろそろですね!」
桃ちゃんが腕時計を見る。
私も腕時計を見ると、こち、こち、こち………と秒針が12時に向かって進んでいた。
3,2,1………
ごーん!!
12時ジャストと同時に、お城のほうから大きな鐘の音が聞こえた。
………なんでこれだけお寺みたいな鐘の音なんだろう?
「では、スタートです!!」
『はい!!』
桃ちゃんの号令に、私たちは返事をすると同時に、一斉に森に向かって走り出した。
***
――― 今井麻衣SIDE(引き続き) ―――
「……………」
うっそうとしげる森の中を、ざっざっざっと駆け足で進んで行く。
「麻衣ちゃん! 上!」
マッキーの声が後ろから聞こえた。
咄嗟に上を見上げると………
ぶ〜ん!
「げ!!」
蜂というより鳥みたいな大きさの大蜂が、私に向かって針を突き出してきていた。
「はっ!!」
いきなり襲ってきた大きな蜂を、私は剣でなぎ払って打ち落とした。
「マッキー!」
「わかった!」
私の合図に、マッキー(八巻枝理ちゃんね)が打ち落とされた大蜂に剣先を向け、
「ソレイユ、サネスペルミナ………」
と呪文を唱え始めた。
羽を僅かに羽ばたかせて抵抗していた大蜂だったが………
「………メルサヴィア!」
マッキーがカード化の呪文を唱え終えると、大蜂は光に包まれた後、はらりと1枚のカードになって落ちた。
「ほいっ、一丁あがり!」
マッキーは大蜂の絵が書かれたカードを手に取ると「よし、これで4枚目!」とご機嫌そうに言った。
カードを覗き込んでみると『Killer Bee』と書かれてあった。
「い〜な〜! 私も欲しいな〜!」
「欲しいの? なら次のモンスターは麻衣、カード化してみる?」
「………う〜ん」
カード化の呪文、難しくて覚えてないからなぁ………
「けど、あんまりかわいくないね、そのカード」
ひょこっと、私と同じ班の中居りりかが、顔を出した。
「そりゃ、モンスターだからね」
マッキーは苦笑した。
「けど私ならも〜ちょっとかわいいのがいいな〜、ハムスターとかオコジョとか……」
「だよね〜!」
「私は猫がいいな〜! 魔法使いっぽいじゃん!?」
さらに後ろから2人、土田芽衣と鈴木理緒が話しにのってきた。
この3人、実は同じ文芸部の部員で、別名文芸部の「おしゃべり部員」なのだ。
話し出したら止まらない。「イタチ!」「キツネ!」「チワワ!」とどんどん話しが進みアイディアが出て行く。
「…………ペットじゃないんだから」
「………だね」
私がマッキーと苦笑していた時だった。
ぷるるる………とマッキーのポケットから電話が鳴った。
ここ、電話つながるんだなぁ……と少しびっくりしながら見ていると、マッキーが少し嫌そうに電話に出た。
「もしもし?」
「なぁ、今、パンツ何色?」
明らかにマッキーの表情が嫌そうにゆがむ。
森の奥の方をよく見てみると、こちらに向かって手を振りながら「わーい!」と子供みたいにはしゃいでいる男子グループが見えた。
「………殺されたいのね」
マッキーはぼそっとそう言うと、足元にある小石を取った。
ビュッ!
小さく『ウィンド』の呪文を唱えると、風に乗った小石が弾丸みたいに男子に向かって飛んで行った。
「あっはっは! 君たちとはこんなに離れているんだよ? どうやって俺を殺すってほぐぅ!!」
「うわっ!?」
本当に当たった?!
かなり驚いたが、マッキーは涼しい顔で首をひねっていた。
「……まだまだね。頭狙ったつもりだったのに、腹になっちゃった。あれじゃダメージが小さいじゃない」
マッキーはフラグ争奪戦の日から今までずっと、こつこつと魔法のコントロールの練習を積み上げてきたのだ。
………ほんと、うまくなったものだ。
………私も頑張らないとなぁ。
はぁ〜……と私はため息をついた。
………最近、籠城戦のルールとかそんな状況説明ばっかしであんまり面白くないんじゃないかな〜と危惧してます。