地下の階段で不条理を叫ぶ
正午。つまりは12時ジャストの時間。
俺たちの周囲は暗く、静かだった。
どこからともなく吹いてくる隙間風に身を震わせる。
こつ……こつ……こつ……
いかにも、な感じの古びた地下階段を、『フレア』で火をともしながら歩いていた。
「いや〜便利だよな〜! フレアがあるとさ〜!」
魔法を使っているのは洋太だ。
俺たちはつい先週、初級呪文を一通り習ったところだった。
………といってもいきなり全部使えるわけがないから、各自『適正』のある呪文だけを、ということだったが。
洋太の適正は『火』であるらしい。八巻や今井みたいにいきなりドバァッ! と魔法が使えたわけではないが、
「魔ーから教わった後もこつこつ練習してたんだよ! はっはっは! 俺すげー!」
自力で頑張って、今の野球ボールぐらいのフレアは出せるようになったらしい。
「はいはい、すごいねー」
「………隊長。空元気っスか?」
ハイテンションな洋太に俺と沢木龍二がぼそっと追い討ちをかける。
すると洋太はピシッ! とその場で固まった。
「………………!!」
そしてぷるぷると震え出す。
「こんなに……こんなに俺すごいのにさ………なのになんで、なんで!?」
洋太の憤りに呼応するかのように、炎が大きくなった。
「なんでこの班には男しかいないんだあああああ!!!」
洋太のバカ叫びが、木霊しながら先に地下へと降りて行った。
「黒部えええええええ!!!」
洋太はここにはいない、無愛想な空手男、黒部へと怨嗟の念を送っていた。
***
時間は少しさかのぼって、城の大広間。
食後のお茶も飲み終わり、これからの方針も決めて、さあ班分けをしよう! という時だった。
「それじゃあ5人組の班分けをするから、各自適当に分かれてね」
八巻の号令で、みんなが適当に班に分かれる。
「Hey! そこのチミたち! Me! と一緒の班に………」
洋太は自分の班に女の子を入れようと躍起になっていたが………
「凛〜! 一緒の班になろ?」
「そうね。あと悠ちゃんも入るけど、いい?」
「もちろん!」
「………………」
洋太は当然のごとく、女子たちに無視された。
まるで空気のように。
「魔あああああ………!」
よよよよ………てな感じで気持ち悪く泣きついてくる洋太。
しかし、同情なんかしてやらん。
「日ごろの行いが悪いからだ」
「俺が何をした〜!」
「覗きとかセクハラとか下ネタとかだろ?」
女子に嫌われる行動オンパレードだ。
完全に自業自得じゃねぇか。
「黒部く〜ん!」
「………なんだ?」
そうぐだぐだやっていた時、近くにいた黒部が女子の1人に声をかけられていた。
………誰だっけ、アイツ? 茶髪ぎみの髪に丸っこい瞳の女だ。
そこそこ元気な女子一味、ということぐらいしか知らんヤツだった。
「班一緒になろ?」
「………俺と一緒にいても楽しくないだろう?」
黒部がそう言って申し出を断ろうとするが………
「そんなことないよ! ね、みんな?」
「「「うん!!」」」
「待てええええええ!!!」
その瞬間、洋太1人で大絶叫。
「なぜ黒部!? そいつ確かに顔はいいけど性格は根暗くんだぞ!? なのになぜ俺じゃなくて黒部ぇ?!」
「うっわ、上野くん友達をそんな風に言うんだ」
「サイッテー」
「せめて納得できる説明ぷりいいいいず!!」
「はいはい、おとなしくしようね、洋太」
それ以上墓穴掘ると女子たちの視線の温度が改善不可能なほど下がるぞ?
ゴスッ(手刀の音)
「はぅっ?!」
……こてっ(洋太、気絶のお知らせ)
てな感じでわいわいやっていたら、必然的に俺たちは余りものの班に回された。
***
………というわけだ。
「………なんで、なんで黒部!? いや、アイツがそこそこいいヤツだってのは知ってるけど! そうなんだけど! でもなんでえええ!?」
「そりゃあ隊長。黒部はかっこいいっスから」
龍二の言葉に、「だな」と俺も付け足す。
「運動神経もいいしな。空手部だからか、喧嘩も強いらしいし」
「それにアイツ、話し役としては失格だけど聞き役としては結構重宝されてるっスよ? だから意外と俺たちよりも社交性あるかも………」
「納得いかあああああん!!」
どかん!
と固そうな石の壁に拳を打ちつける洋太。
「いってえええええ!!!」
………洋太の憤りは、当分続きそうだった。
洋太が叫んでいる間に、俺たちの班の班員を説明しよう。
俺たち5人の余りもの班。
つまりは俺、洋太、沢木龍二、眼がね委員長、そして沼田五郎である。
沼田五郎とは、まぁ単なるメタボを想像してくれたらいい。そしてその上オタクという、女子から総スカンくらいそうな人間だ。
今も俺たちの後ろの方で。
「ふふふふ……」
「どっから持ってきたんだ!?」と言いたくなるような何かアニメキャラのフィギュアを見ながら、怪しく笑っていた。
………まぁしかし意外と他人には優しく、男子から、特に委員長とか地味系の人間からはそこそこウケはいいのだが。
沼田は委員長とペア組んでるうちにどんどん班が決まって行って、気づいたら余ってました、というわけだ。
今は後ろの方で委員長と歩きながら、趣味の話に没頭している。
「よくできてるね〜、それ」
「ふふふふ………そうだろうそうだろう! このキャラはミーナたんと言ってね! キャラ的にはむしろマイナーで、おかげでフィギュア化されなくて困ってたんだけど!
なんとこれは! それを見かねた俺が! 一から俺が作り出した一品なんだよ! 愛をしこたま込めてね!!」
「うっわ、すごい」
「委員長も何かお気に入りキャラがあれば作ってもいいけど? 好きな俳優、女優でも可」
「ほんと? じゃあさ………」
「……正直、ついていけん」
アニメとかバラエティとか、2−Bのヤツらは結構見てるらしいが………俺が住んでる寮にはテレビが居間に1台あるきりだから(しかも流れてるのがほぼニュースとかサイエンスチャンネル)、好きなテレビなんぞ見れない。
……ゆえに言ってる内容がさっぱりわからない。
「そうっスか? 話としては面白いし、すごい話だと思うっスよ? フィギュアって作るのかなり苦労するらしいし」
俺の独り言を聞いた龍二が、そうフォローを入れてきた。
「あっそ」
ぶっちゃけどーでもよかった。
「あ、そろそろっスね」
龍二の視線の先。
古びた階段の終着、囚人でも入れてそうな古びた鉄の扉が見えた。
地下の宝物庫の入り口である。
場面転換の印として『*』を入れてみました。
少しでも読みやすくなっていればいいな〜と考えております。