お城で作戦会議!
時計は午前11時を指している。
テーブルは片付かれ、生徒たちには食後の紅茶やコーヒーが振舞われている。
「…………さて」
一応2−B生徒たちの代表と言うことで、眼がね坊主の委員長が席から立ちあがり、委員長らしく厳かに周囲を見渡した。
「……………………………………………どーしよう?」
………しかし、ひとしきり悩んだ後、そんな情けない声を出した。
まったくたよりにならなさそうだった。
時間は少しさかのぼって、午前10時30分ごろ。
みなが呑気にがつがつ食事にがっついていて、桃ちゃんの説明が一通り終わった時だった。
「説明は以上です。何か質問はありませんか?」
「…………あの」
「……? なんですか、美紀ちゃん」
小林美紀。
三つ編みに丸眼がねという典型的な地味女で、教室の隅でいつも本でも読んでるようなヤツで、いつもは空気みたいに存在感の無いヤツなのだが………
こいつが真っ先に我らの危機に気づいた。
「け、計画とか………そういう細かいのはどうするんですか?」
真っ赤になってたどたどしくだが、どうにか小林は言葉をつむいだ。
………正直声が小さすぎて、聞き取りづらかったが。
だがまぁ、質問はもっともだ。
さっきから桃ちゃんはここの地理や篭城戦のルールの説明ばかりで、肝心の戦略を何も言っていなかったからだ。
「ああ、なるほど」
しかし桃ちゃんにはしっかり聞こえたらしく、1つ頷くとにぱっと笑った。
「今回は私は一切関与しません。ですから、攻め方もグループ分けも、皆さんでやってくださいな」
『えええええ〜!』
驚き兼不満の声が生徒たちから漏れた。
「当然です。これはもともと皆さんの実力を測るための試験なのですよ? 私が関与してどうするんですか」
「ですが、僕たちここの地理も実践経験もほとんどないんですよ!?」
委員長が必死に抗議の声を出す。
………が。
「ていうか、それがルールなのですよ」
桃ちゃんは間髪入れずそう言った。
ぴっと指を立てると、「いいですか?」と言いながら、注意を促すように指を振る。
「私だけではありません。他のクラスの先生方も、篭城戦スタートと同時に『王の間』、つまりはこの奥の部屋にある玉座に篭もりっぱなしになります。
その間生徒たちへのアドバイス等は一切不可。
私たち教師陣にできるのは、唯一、水晶で戦闘の経過を見守るだけです」
ヒッキーになりそうです〜、と今から憂鬱そうな顔の桃ちゃん。
………しかし、他生徒たちも驚くほど意気消沈していた
「こんなよくわからない異世界で桃ちゃんのアドバイス無し………」「絶望的……」「オワタ」「例えるなら……?」「RPGでコマンド『何もしない』をひたすら繰り返すようなものか」
「モンスターが現れた!」「しかし勇者たちは何もできない!」「なぜなら指揮するプレイヤーがいないから!」「ああっ! 無残に殴られる勇者!」「ひどい! たかがスライムにフルボッコだ!」「鬼!」「悪魔!」
以上、途中からの漫才は洋太&沢木龍二の2人組でした。
「あーあー。聞こえませ〜ん」
生徒たちのうめき声を、耳を塞ぎとことんまで無視する桃ちゃんだった。
………とまぁそんなこんなで。
現在、俺たちは篭城戦開始1時間前という遅すぎる時間に、作戦会議をしていた。
「何か意見ある?」
委員長がすがるような声でみんなにそう問い掛ける。
「どうしよう?」「まずは洋太を囮にして、相手が油断したところを影から弓矢で!」「なんで俺がそんな役を!?」「とりあえず隣にいるA組の連中を襲おう!」「………A組の本拠地は天空の塔だぞ?」「あ………」「どーやって攻め込めっちゅうねん!」「いっそのこと攻めずに全員で城を守ったら?」「「それだ!」」「………いや、守るだけじゃ勝てないでしょ」
ざわざわしながらも様々な意見がでるが、ぶっちゃけどれもイマイチだった。
「あーもー!」
バンッ!
突然大きな音がしたので見てみると、八巻がテーブルを叩いて、立ちあがっていた。
「ほら、今更じたばたしてもしょうがないでしょ! 当たって砕けろ! 通用するかどうかはともかく、今私たちにできる最善の策を練りましょ!」
『おお〜……』
生徒たちから感嘆の声があがる。
………んが。
「で、肝心の策は?」
「…………………う」
八巻、沈黙。
ほれ、やっぱり無策だった。
「………まず、班分けをします」
あ、策を搾り出した。
「生徒は全部で40人いるから、とりあえず5人×8班。班を決めたら、それぞれ城を守る班、攻め込む班、情報収集の班という風に役割を分担します」
「お〜……!」
すごい。急場で出した割にはかなりまともで有効な策だ。
「………………俺からもいいか?」
「黒部くん?」
……またしても珍しい。普段は発言なんかしない黒部が意見を出すとは。
「………先ほど使用人の方からこの城の地図を貸してもらったのだが」
『………?』
生徒たちが首を傾げている間に、黒部はばさっと古そうな地図を広げた。
黒部は地図の下の部分を指差した。
「………この城の地下、どうやら宝物庫があるらしい。
………そこに何がしか使えそうな武器や資料があるのではないか?」
………何となく、第7話『放課後作戦会議』を思い出しました。