それは序章にすぎなかった……
俺たちは魔王の城のようなこの城(別名、桃ちゃん城らしい)の大広間に通された。
そこには巨大な細長いテーブル(豪華な純白のテーブルクロス付)と、その上にほかほかと湯気を立てたうまそうな豪華料理の数々があった。
『………………』
ごくり、と誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
ステーキ、伊勢エビのように巨大なエビの姿焼きなどなど。一生お目にかかれないような豪華料理が目の前に無造作に置かれているのだ。
………食べていいのか、どうなのか。
椅子の近くでまごついている生徒たちを後目に、桃ちゃんは、
「よいしょっと」
遠慮なくテーブルの1番奥、上座に座ると、パンパン、と手を叩いた。
「皆さん、お好きな席に座ってください。少しお昼ご飯には早いですけど、ここにあるものは学園から皆さんへのおごりです。好きなだけ食べて結構ですよ」
『おおおおお!!』
生徒たちの歓声があがる。
するとまるで欠食児童のように、思い思い料理にかじりついた。
「ただ、お昼からは籠城戦がありますので、それに影響がない程度に食べてくださいね?」
桃ちゃんはちらりと時計を見ながら言った。
……みんな食い物に夢中で、ろくに聞いてなさそうだが。
「うみえええええ! とっちゃ! ばっちゃ! うみえええよおおお!」
特に洋太が田舎っぽい方言をしゃべりながら、嬉し泣きしていた。
「……………すみません」
「なんですか?」
俺は近くで給仕をしていた、金髪のメイドさんにこっそり尋ねた。
「この料理、原料ってどこから仕入れてるんですか?」
原料は何なのか、と言わないところがミソである。
現地調達(材料、モンスター)とかだったらこわいじゃん。
「……お察しの通りですよ?」
メイドさんは俺の問いにあえて明確に答えず、にやりと笑った。
………なんとなく食欲が失せる俺だった。
ごーん、ごーん、ごーん………
しばらく食事をしていると、大きな鐘の音が部屋に響いた。
この大広間には人間2人分ぐらいの巨大なアンティーク時計があり、その時計は今ちょうど午前10時を指していた。
「では、食べながらでいいので聞いてください」
桃ちゃんは立ち上がり、パチン、と指を鳴らす。
するとどこからともなく現れた執事さんが桃ちゃんに台座を持ってきた。
………管理教育が行き届いてるな〜、さすが桃ちゃん。
「薄々感づいている方もいらっしゃると思いますが、ここは今までの『既存の空間にちょっと手を加えました。てへり』みたいな、なんちゃって異世界ではありません。
正真正銘、今までいた所とは異なる時系列、異なる空間の場所なのです」
桃ちゃんはポケットから手帳を取り出すと、そこからカードを何枚か取り出した。
「ソルパ!」
そう桃ちゃんが唱えると、ぱっと、桃ちゃんの隣に天体の模型が現れた。
綺麗なオレンジ色をしており、大きさは人ぐらいと結構大きい。
「みなさん火星はご存じですよね? これはその模型なのですが………」
そしておもむろに桃ちゃんは懐から指揮棒を取り出す。
そして火星を顔に例えたら頭の部分、ちょうど十円禿のように白くなっている部分を指揮棒でとんとん、と叩いた。
「今私たちがいるのは、ここです」
『うえっ!?』
生徒たちの驚きの声が重なった。
「マジっすか!?」
ツンツン髪の沢木龍二が、目をまん丸にしながらそう叫ぶ。
「大マジです。なぜこんな所に、とか色々説明しだすと異分子理論とか相対性力学とかにまで広がって、とかく長くなりすぎるので省略します。
ろくに説明はしませんが、まぁ納得してください。
ここには酸素も植物もありますが全て魔法の力で世界を改変した結果、ということです」
………魔法、本気で万能。
「重要なのはここからですよ。
籠城戦の本筋について説明していきます。まずはこの地図を見てください」
桃ちゃんは執事2人に大判の紙に書かれた地図を持ってきて広げさせた。
真っ白な紙に、真ん中がくりぬかれた星形のクッキーのような茶色の大陸が描かれている。
「五芒星の形の大陸が見えると思います。この星の部分の天辺がA組の領地、そこから時計回りにB、C,D,E組の領地となっています」
ぱん、ぱん、ぱん、と紙を指揮棒で叩きながら説明していく。
「ちなみに、真ん中が海でぽっかり開いてますが、そこの海底には周囲一体を管理する管理施設があります。不用意に近づかないほうがいいですよ?」
「………? 何か危険があるんですか?」
委員長が何気なく質問したところ、桃ちゃんは「うふふふふ……」と黒く笑った。
「セキュリティ機能により、侵入者は排除されます」
「………………」
物騒な言葉に、委員長絶句。
「では細部の説明を続けます。まずは星形の大陸の天辺から、2-A領地、この辺りは荒野部になっています」
ぐるぐると、指揮棒を大陸の天辺の辺りで回す。
「そして敵軍本拠地は『天空の塔』と呼ばれる、文字通り天まで届く高い高い塔が、そうなります」
「「はいっ?!」」
洋太、委員長を筆頭に、驚きの波が生徒たちに広がっていく。
しかし桃ちゃん、当然のようにガン無視する。
「ここは我々2−Bがいる、平野部。本拠地、桃ちゃん城です」
だからそのネーミングはどうかと………
生徒たちの物言いたげな雰囲気をやっぱり無視して、桃ちゃんは簡潔に説明を続ける。
「2−C、山岳地帯。地理的にはここが1番厄介なのですが………本拠地は地下迷宮です。
2−D、なぜかここだけ雪原地帯ですが……本拠地は貴族の館。
そして最後に2−Eは、森林地帯。本拠地は森の中の隠れ里になっています」
『………………』
桃ちゃんが一息つく。大広間には、シーン………と沈黙が支配した。
「あ、あの……1ついいですか?」
「なんですか?」
今井がそっと手をあげた。
そしてぷるぷる震えながら、ずっと我慢していた物をはき出すように叫んだ。
「なんでどこもそんなに物騒なんですか!?」
全員の声を代表するように、思いっきりつっこんだ。
「………なんでと言われましても」
桃ちゃんはぽりぽりと頬をかくと、こともなげに言った。
「やるなら派手な方が面白いじゃないですか」
「そんな理由ですか!?」
今井、大絶叫。
「てかド●クエ!? ド●クエなの!?」
「似たところはありますね。
あと各地で気候変動が激しいですが、そこは防御呪文で対処するので、寒い〜、とか熱い〜とか感じることは、あまりないのでご安心ください。
ちなみに各地にはモンスターが生息してますので、敵地に攻め込む時は要注意ですよ?」
「こわっ!」
今井のつっこみがさえ渡っていた。
さあ! 最後らしく華々しく行きますよー!
収集がつかなくなるかも……と少し心配してますが。




