桃ちゃん城!
目を開くと、巨大な城壁が目の前にそびえ立っていた。
『………………』
2−B生徒全員、唖然とする。
BGMをつけるとするなら、これだろう。
ぱぱらぱっぱぱ〜!
『でけー!』
ウオオオオ! とうなり声のような大声と一緒に、何名かの生徒たちがそう叫び声をあげた。
石造りの灰色の壁に三角屋根、そのてっぺんにはパタパタと赤い旗が風で揺れており、周囲は堀池で囲まれている。
中世ヨーロッパ風の、荘厳な雰囲気が漂っていた。
………旗に2−B軍と書いてあるのがめっちゃシュールではあったが。
そんな典型的な城塞を間近にして、俺たち2−B生徒たちはそろって開いた口がふさがらなかった。
………凄い。
山ぐらいの高さと規模があるぞ、この城。
「ふふふふ……ここが我が2−B軍の本拠地。『桃ちゃん城』ですよ!」
「名前ださっ!」
桃ちゃんが嬉しそうに言った言葉に、洋太が突っ込んだ。
………確かに。ネーミングはかなりイマイチだった。
しかし桃ちゃんは洋太の声を華麗にスルーして、
「では皆さん。作戦会議をしますので、中に入ってくださいな」
そう言うと、目の前の木橋を渡り始めた。
『………………』
桃ちゃんの声にも返事できないほど、みな呆気にとられていた。
城壁の中は、よく手入れされた立派な庭園になっていた。
その真ん中には噴水があり、近づくと微かにこちらにまで水しぶきが飛んでくる。
「すげ〜……!」
さっきからそればかり言っている洋太が、綺麗な噴水や女神のブロンズ像を見ながら呟いた。
「ヴェルサイユ宮殿みたいね」
はぁ〜……と感嘆の息をつきながら、後方で八巻がそう言うのが聞こえた。
「ほんと! どこかの王さまが住んでそうね!」
今井がわくわくしながらキャーキャー叫んでいる。
俺もきょろきょろ辺りを見回しながら、ふと思い至った。
「ここ、いつ手入れしてるんですか?」
「手入れしてませんよ」
「……は?」
俺が何気なく聞いた言葉に、桃ちゃんはこともなげにそう答えた。
………待て。
「じゃあなんでこんなに綺麗なんですか?」
「………全ては魔法です」
かけてもない眼鏡を直すふりをしながら、桃ちゃんは堂々と言い放った。
「魔法で全てが解決するんです!」
アハハハハ! と後方から魔王の笑い声が聞こえてくるような堂々っぷりだった。
「……さいですか」
何か追求できないような雰囲気があったので、俺はそう言うだけに止めた。
「へぇ〜、便利な魔法があるんですね〜!」
後ろから密かに話を聞いていた八巻が、俺の真横からひょっこり顔を出した。
………空気も読まずに。
「どんな魔法なんですか?」
……興味津々な八巻だったが。
「あ〜………」
桃ちゃんは若干言いにくそうに言葉を濁す。
「………?」
不思議そうに桃ちゃんをのぞき見る八巻。
「………八巻」
お前、未だに桃ちゃんの性格を理解してないな。
俺はさりげなく話題を変えようと口を開いたところで………
「「「お帰りなさいませ、ご主人さま」」」
ユニゾンする3重の声が、俺の言葉をかき消した。
………ご主人さま?
違和感バリバリのその声がした方をふと見ると……
「「……はいっ!?」」
城の入り口辺りに、3人のメイドと執事がいた(ちなみに男女比2:1)。
驚いた俺と八巻の声が重なる。
……いや、お城なんだし従者の1人や2人、いて当然だとは思う。
………思うんだが。
「あ、お留守番ごくろうさま〜!」
俺たちの驚きは余所に、桃ちゃんはとててて……と3人のもとに駆け寄る。
「留守中、変わりはなかったですか?」
「特に変わりはございません」
若い執事の1人が桃ちゃんにそう行って頭を下げる。
そしてメイドの方がこちらに来ると、スカートの裾を持って恭しく俺たちに頭を下げた。
「ようこそおいでくださいました。城内には皆さまの歓迎パーティーの準備が整っておりますので、どうぞご遠慮なくお入り下さい」
『………………』
生徒全員、ごくりと息をのむ。
さーあ、皆さんいってみよ〜!
『ありえね――――――!!』
何度目か知らない、全員そろっての絶叫が広い庭に響いた。
………ノリで書いたら、なんか予想以上に凄い規模のお城になってしまいました。