魔力の感知
――― 八巻枝理 SIDE ―――
土と、白い家、そして濁った空だけのあるこの世界で。
私は今。
「はぁっ!」
ブゥン!
自分とうり二つの偽物と、結構不毛な争いを続けていた。
「………また消えた」
先ほどまで道のど真ん中でぼけーっと立っていた偽物に向かって思い切りルミナスの剣で斬りかかったのだが、またしても手応えがなかった。
「………なんで?」
速く動いた、というのではない。
あれは幻影だ。
本体が必ずどこかにいるはずなのだが………
「………ご主人〜!」
白く無機質な家の屋根の上から、私の使い魔、オオカミ男がひょこっと顔を出した。
「どうだった!?」
私はこの前捕まえてカード化した使い魔を、さっそくこの訓練で使っていた。
私1人が幻影を作り出している本体を探すより、効率がいいと思ったのだが………
「無理っス〜! もう10回ぐらい攻撃しては消えての繰り返しをくらいましたよ〜!」
「………そう」
………やっぱり難しいか。
しばらく待っているとあと2体の使い魔、もう1体のオオカミ男とドクロが帰ってきたが………
「無理だったっス〜………」
「ムリ、ムリ………!」
強面の顔してるくせに、なんとも情けない顔をしていた。
………どーしろって言うの。
敵に攻撃しようにも、目につくものは皆、幻影。
だから敵の本体が見つからない限り、この訓練はクリアできない。
「なんていうか……人間不信になりそうっス」
「ソウ、ソウ………」
「まるで自分が見えているものが全部幻影何じゃないかって考えるんっスよ」
3体も深刻そうにう〜ん、と唸る。
「………もしかしてここにいる私も偽物じゃないかとか密かに疑ってない?」
「………かもしれないっスね〜」
「ちょっと!」
さすがに自分の使い魔に攻撃されてはたまらない。
「「ってそれはないッスよね」」
「ナイ、ナイ……」
確信に満ちた様子で、彼らはそう言った。
「待って」
「「………?」」
「どうやって私と偽物の違いがわかるの?」
何となく気になって、彼らにそう聞いた。
「どうやって、と言われてもっスね〜」
「偽物はしゃべらないっスし、攻撃したら消えるって特徴はあるんスけど……」
「………ナントナク」
「そうそう、何かこれがご主人だ! ってのがあるんスよねぇ」
3体は和気藹々と話し合った後、こちらを向いて一斉にこう言った。
「「「………カン?」」」
「………あっそ」
私は思わず頭を押さえた。
「………もういい。2人ともご苦労さま。今日は戻って」
「「ちぃ〜っス」」
「………(カタカタ)」
「レルタ」
私がそう唱えると、使い魔たちはカードに再び封印された。
「………人海作戦でもダメか」
……となると。
「ヴェナール、ウィンディ!」
私は剣を取り出すと、『ウィンド』を唱えた。
ビュオオオオオ!
宝玉が光と共に、周囲に私の3倍くらいの大きさの、中型の竜巻が何本か発生した。
………が。
「………効果なし」
偽物の本体どころか周囲の白い家すら壊すことができず、竜巻は消えていった。
「……うむぐぅ」
意味不明なうめき声をあげながら、私はメガネの縁を触った。
………困った。
どうやって本体を見つければ………?
……そういえば、桃ちゃんが言ってたな。
敵を外観で判断するのではなく、魔力の質で見ろって。
「魔力の………質?」
この訓練における重要なキーワード。
正直よくわからなくて、とにかく目の前の敵を倒そうとするのに精一杯だったけど………
これだけの幻影を作る敵の本体を視認して感じるのではなく。
その魔力を感じること。
「………」
手のひらに魔力を集中させる。
魔力光。
本当に光っているわけではないけれど、手のひらに何となく感じる魔力の集中。
今までは手のひらで感じているだけだったけど………
もし………
もし………外の魔力光まで感じることができたら?
「………よし」
1つ息を吐くと私は目を瞑った。
大きく息を吸って、静かにはく。
「………………」
自分の呼吸音、心臓の音までが、少しずつ聞こえてくる。
………少しで良い。
魔力を。
自分以外の魔力を、感じることができないか?
頼るのは五感ではない。
自分自身の、第六感。
………これでダメだったら、もう打つ手はない。
自らの内に感じる魔力の脈動の感覚を覚えて、それを少しずつ外の方へと伸ばしていく。
幻影に魔力はないのだ。
少しだ、ほんの少しでも魔力を感じられたら………
「………………!」
それが本体だ!
私は目を見開いた。
気分は何となくド●ゴンボールです。気を探れとか、そういう感じで。