勝負つかずの鬼ごっこ
「………っと!」
「………………」
開始早々。
俺はルミナスの剣を持つと、目の前の俺の偽物を捕まえようと瞬時に攻撃した。
が、そいつは残像のように自分の姿をぶれさせる。
「………消えた?」
………んなバカな。
驚いて周囲を見渡すと、白い家の少し離れた入り口の影に、いつの間にか偽物がいた。
「………」
………想像以上に動きが速い。
そう考えていいのか?
「………やな予感がする」
俺は攻撃を止め、しばらくそいつを観察する。
生気のない目でこちらを見ている、……不気味なことこの上ないもう1人の俺。
どうやら攻撃してくる意志がまるでないらしく、ぼんやりしているだけで動こうともしない。
一見、隙だらけに見えるが。
………試してみるか。
俺はそう決めると、手に持っているルミナスの剣を振りかぶると、
「はっ!」
シュッ!
偽物に向かって思い切り投げた。
剣は風を切り裂きながら高速で偽物に近づくが、それがそいつに到達する瞬間。
………ブゥン
また偽物の姿がおぼろになり、消えた。
「………なんだ、ありゃ」
俺はじっと偽物を見ていたが、どこかに移動した、という気配はまるでなかった。
……というか、単に消えただけに見えたのだが。
ついでに俺が投げた剣は偽物に当たらず、そのまま建物の奥に吸い込まれていった。
………おかしい。
ただ素早く動いて消えた、というのとは違う。
霞 と相手してるような気分だ。
とりあえず、俺は建物の中に入る。
白い壁と土以外に何もない建物だった。
そこの壁に当たって落ちている剣を拾うと、周囲を見渡した。
今度はこの建物の隅の方に、偽物がいた。
試しに歩いてそいつの元に言ってみれば、俺との距離が1m弱になったところで、そいつの姿がブレて、また消えた。
「………はぁ」
もうこのままじゃ埒があかん。
………ていうかアレ、本当に実態があるのか?
ホログラフィとかで作った虚像じゃなかろうな?
「………待てよ?」
……そういや桃ちゃん言ってたな。魔力の質を見ろって。
いや、魔法も使っていない相手にどうやってとか、詳しいやり方はさっぱりわからないから置いとくとして。
重要なのは………どうして魔力の質を見る必要があるのか?
………桃ちゃん、侵入者が自分の偽物使ったからって、キレてたよな?
ということは、こういうことが二度とないように、俺たちに偽物破りの手段をマスターさせたいはずだ。
偽物破り。
これは、そのための訓練なのだとしたら。
………もしかして、あの俺の偽物も、実は偽物なのではないか?
「………………」
俺は部屋の中を見渡す。
するとまた隅の方に、偽物が佇んでいるのが見えた。
……が、それは無視して俺は外に出た。
相変わらず苔みたいな緑色をした空を見上げ、周囲を見渡す。
一見、誰もいないように見えるが………
「………!」
バッ!
俺は唐突に白い建物の上まで飛び上がった。
すると、真っ白な屋根の上にもう1人。
偽物の姿があった。
見つけた!
俺はにやりと笑うと、そいつに向かって突進するが………
「………」
ブゥン………
「………またかい」
とらえたと思った瞬間、また消えた。
………が、ようやく俺はこのゲームの趣旨を理解した。
1番に見つかる偽物は囮で、実は俺の見えないところに1人、下手したらもう何人か偽物が潜んでいるわけだ。
そしてこの偽物の中から、実態を持つ『アタリ』の偽物を見つければいいのである。
なるほど。そういや人当てクイズとか桃ちゃん言ってたな。
………ならば。
「………くくくく」
実は普通の戦闘より、こういう小賢しい真似をする相手との戦いの方が断然好きだったりする。
……なぜか。
倒し甲斐があるからである。
俺は見晴らしのよい天井からぐるりと周囲を見渡した。
本当に地平線までこの白い家以外何もないが、とりあえず天井に偽物らしき姿はない。
………てことは、地上のどこかに隠れてるわけだ。
俺は天井から地面に降りた。
今度は扉の隅の方で、例の偽物の偽物がぼんやり佇んでいるが…………
………俺のやることはとてもとても単純だ。
「………………」
俺は目を瞑る。
唯でさえ音のない空間が、さらに静かになった。
自分の呼吸する音や、心臓の音が静かに聞こえる。
床、壁、天井、などなど。
そんな中で、俺は必死に気配を探した。
………少しの音も、聞き漏らしてはいけない。
霞ではないものが発する、俺以外の音、俺以外の存在を探すために。
……まだまだ文章能力が低いため、この異様な空間をうまく書けている気がしませんが。
自分そっくりの人間が傍にいたら、いったいどう思うんでしょうね(双子は除きますが)?
………相当気持ち悪いんじゃないかな〜と、私は想像していたりします。