桃ちゃんガッテム!
翌日、朝のHRの時間帯の2−B教室。
席に静かに座っている2−B全生徒に向かって、教壇の前で(背が届かないので台座を使って、だが)桃ちゃんが厳かに告げた。
「………みなさんも知っての通り、昨晩、我が2−B生徒たちを狙ったテロ行為が行われました」
………テロ?
言い過ぎでは?
とか言う命知らずは、この場にはいなかった。
「みなさんがモンスターたちに襲われたのです!
幸い彼らもそれほど強くなく、何名かの軽傷者が出た、という程度ですんだのですが………ですが!」
バンッ! と教壇を叩く桃ちゃん。
……おー、こりゃ怖い。
徹夜明けだろうに、元気だな桃ちゃん。
「………桃ちゃん、かなりキてるな」
「だな」
後ろから洋太が話しかけて来たので、こっそり同意しといた。
「これは我が2−Bへの明らかな宣戦布告です!」
拳を天高く握りしめ吠える桃ちゃん。
「屈してなるものですか! みなさん! あのような卑劣な者に後れをとらないよう、訓練もビシバシやるので覚悟してくださいね!」
『お、お〜………』
今でも一杯一杯な生徒たちが、元気なさげに答えた。
「………ところで西村先生」
「なんですか? 枝理ちゃん」
度胸の良い八巻が、手をあげて質問した。
「犯人の目星はついてるんですか?」
「………………」
沈黙する桃ちゃん。
「それらしき犯人は捕まえて、一応尋問しているのですが………」
それらしき犯人……昨日俺が捕まえた侵入者のことだな。
「………何も知らないみたいですし、それ以上の犯人の手がかりは今のところありません。正直に言って、ゼロに近い状態です」
で・す・か・ら! と桃ちゃんは声を張り上げた。
「いつあんな敵が現れてもいいように! 特訓です! みなさん!」
『………………』
もはや声もあがらなくなった2−B生徒たちだった。
「本当に並じゃなかった………………がくっ」
「………まー確かに」
午前中のグラウンドには、2−B生徒たちの屍が山のようにあった。
今は特訓と特訓の合間の休憩時間である。
生徒たちはいつもなら水を飲みに行ったりするのだが、今日はその元気もなくみな地面に突っ伏してだらりとしていた。
「気合いの入れ方が半端なかったからな」
「………まぁ、けど仕方ないのかもね。この特訓してないと、昨日のモンスターたちにも勝てなかっただろうし」
壁に寄りかかったまま、息切れしている委員長がそう言った。
「そういや、委員長のところはどんなモンスターが来たんだ?」
「カマイタチ、ってヤツだったのかな。イタチの姿をしていてね、風の攻撃をしてきた」
………捕まえたらすごく便利そうなモンスターだな。
かわいいし。
「………ちなみに、そいつ倒した後どうしたんだ?」
「……? 西村先生が引き取ってくれたよ? 先生、1人1人の生徒の家に訪問してくれていたみたいでね」
「へー……」
んなことしてたのか。マメだな、桃ちゃん。
「………ちょっと待ってください」
汗を拭いていた桃ちゃんが、こちらの話を聞きつけてやってきた。
「それ、本当ですか、委員長」
「………? 本当です、というか西村先生がしてくれたんじゃないんですか」
「………………私はそんなことしてませんよ」
「「はいっ?」」
俺と委員長の声が重なる。
「私はあの後学園での後処理に追われてましたから、みなさんの安否は電話で確認するのみに止めていました。まーくんにも昨日は電話しましたよね?」
「ええ」
「委員長にも電話したはずですが……」
「あ、はい。………さっき訪問したのに安否確認してくるのは少し変かな、とは思ったのですが………」
委員長が戸惑いながらそういうと、桃ちゃんが下を向いて考え出した。
「ちょっとみなさん! 集合してください!」
桃ちゃんのかけ声で、思い思いに休憩していた生徒たちが集まる。
集合して座り込んだ生徒たちを前に、桃ちゃんが緊迫した表情で言った。
「みなさんにお聞きしますが、昨日私が家を訪問した、という方はどれほどいらっしゃいますか?」
桃ちゃんがそう聞くと、なんとびっくり。
俺、今井、八巻以外のほとんどの生徒たちが手を挙げた。
「………………してやられました」
桃ちゃんはうつむき両拳を握りしめる。
ゴゴゴゴゴゴゴ………
『………………』
その姿、まさに鬼神のごとし。
「……モンスターの回収が目的でしょうね。人の姿を無断で使うとは………
みなさん!」
『はいっ!』
桃ちゃんの大声に、生徒たちがはじかれたように声をあげた。
「予定変更です!」
やっぱり強くなるには修行が必要ですよね! 少年漫画じゃないんですけど!