新たなカード
庭先で桃ちゃんと電話している最中。
「あ、それとですね。そのモンスターたちなんですけど」
桃ちゃんが思い出したかのように言った。
「そのまま放置しておくのもいけませんし、だからといって殺すのも嫌でしょう? ですから、カード化して封印してください」
「カード化って………どうやるんですか?」
「前に私がガーゴイルを封印するときに実演して見せたでしょう? 媒体を、あなたたちの場合はルミナスの剣ですが、それを通して呪文を唱えるんですよ」
「………呪文がわかりません」
「これは元々2年の後学期に習うものですから、無理もありませんね。
教科書のp235に書いてありますから、それを参考にしてください」
「わかりました」
「頼みましたよ。では私は他の生徒たちの安否も確認しなければいけませんので、これで失礼します」
そう言うと、ピッと電話が切れた。
「この子たちをカードに封印すればいいのね」
「……そうです」
隣で俺と桃ちゃんの電話を聞いていた野原さんがそう言った。
「主人、誰にする?」
玄関先の階段に腰掛けた八巻が、治療道具をしまいながら何気なく言った。
その言葉に、大げさに腕に包帯を巻いている今井がぴくりと反応した。
「魔ー以外なら誰でも!」
「………今井、なぜ俺を外す?」
俺が小憎らしいのはよくわかるが、俺だって軽い怪我したんだからな。未だに頭が痛いし。
「せめて理由を言え」
「だって魔ーが主人になったら、呈の良い子分だとか何とか言って、確実に悪用しそうじゃない」
玄関の地べたに座りっぱなしのまま、今井はきつい視線をこちらに向けた。
………まぁ、否定はしない。
「………じゃあ麻衣ちゃんがなる? 主人」
八巻が苦笑しながらそう提言したが………
「それはまぁ、かまわないけど………」
あまり乗り気じゃなさげに、目を回しているモンスターズを見つめた。
………確かに、あれのカードをもらっても正直嬉しくないわな。
ドラゴンとかそういうもっとかっこいいのか、もしくはポ○モンみたいにかわいいのでないと。
雑魚カードなんて正直いらん。
………それに。
「今井がカードを持っても、うまく扱えそうにないだろうしな」
「なんでよっ!?」
「………お前、頭悪いだろ。普通に」
「ぐっ」
今井、大ダメージ。ぐさりと今井の胸に剣が突き刺さった、かのようによろけた。
「が、学校の成績は関係ないでしょ!」
しかし、すぐに復活。アホ毛も元気にピンと伸びた。
「学校も普段の生活も両方だよ、お前の場合」
「なんですって! それ言ったらあんたなんか脳みそ腐ってるでしょ! そのあんたに頭の心配されるいわれはないわよ!」
「………おーい」
「………ケンカになっちゃったわねぇ」
八巻と野原さんが遠巻きに苦笑している。
……どうでもいいが、止める気はないのか、2人とも。
「………じゃあ聞くが、このモンスターのカードを手に入れたとしよう。何に使うつもりだ?」
「え、えーと………」
俺、逆襲。
今井はしきりに上を見たり周りを見たりして、うーうー唸った。
「………給仕?」
「モンスターの使い方が俺と大して変わらんじゃねーか」
便利に使いたいだけだろ、それじゃ。
「だ、だって! それ以外に何に使えっていうの!」
「普通は戦闘に使うだろ。それをお前、うまく使う自信あるか?」
「ぐっ………」
「はい、今井主人候補脱落」
ぶっぶー、と大きな罰点を手で作る俺。
「うっ………ぐぅ………」
今井は悔しそうに唸ったが、それ以上言い返してこなかった。
自分には向いてないと、多少は自覚しているらしい。
「………ということは、枝理ちゃんしかいないわねぇ」
野原さんが八巻を見た。
「私ですか?」
八巻が意外そうに自分を指さした。
………まぁ、順当だろうな。コイツなら頭もいいし、面倒見もいいだろう。
「野原さんじゃダメなんですか?」
「私だと、私生活ならともかく、戦闘では使えそうにないから」
そう言うと、たはは……と笑った。
「先輩ならよく持ってたんだけど………」
「桃ちゃんが?」
初耳だ。使っているのは見たことないが………
「ええ。昔は1000枚以上のカードを入れたカード入れまで持ってて、凄かったのよ。今は自分の研究の手伝いとかに使ってるみたいだから、私生活ではそんなに見れないけど………」
「へぇ〜………」
感心した。今度見せてもらおうかな?
「まぁ、とにかくだ。アイツらの主人役は………」
俺は脱線した話題を元に戻すと、八巻を見据えた。
「八巻決定」
「………わかったわよ。仕方ないわね」
八巻はため息をついた。
「ソレイユ、サネスペルミナ………」
カンペを左手に、右手にはルミナスの剣を持った八巻が、ぐったりしているモンスターたちに向かって呪文を唱える。
「ヴリミエプロジェアエグピアル、ヤマキエリナミエトムメートルサルヴィテジュリエテー、
メルサヴィア!」
カァッと、周囲を光が満ちた。
まぶしさで一瞬目がくらむが、光が収まると、さきほどまでモンスターたちがいた所に、3枚のカードが落ちていた。
「………これが、カードか」
自分の初めてのカードを、八巻はしげしげと眺めた。
「あ、私も見せて!」
今井も興味あるらしく、それをのぞき込んだ。
俺もちらりと見てみるが、いつぞやのガーゴイルの時と同じく、茶色く古びたカードにそれぞれ狼男とドクロの姿が写っていた。
『Werewolf』が2枚と『Spartoi』が1枚あった。
………これ、どう見ても男向けだよなぁ。
まぁ、娯楽用のカードじゃないから、別にいいんだろうけど。
「さ、こんな所にいつまでもいたら風邪ひいちゃうわ」
ぱんぱん、と野原さんは俺たちに注意を促すように、手を叩いた。
「中に入りましょう」
「そうですね、寒いですし」
俺たちは寮の中に引き返した。
……やっぱり予定より長引きますね。この話、本来なら書くつもりなかったのですが………