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パニカル!  作者: タナカ
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2年A組とB組




 荒田学園戦術科、2年A組。

 森元教師を中心とした元気集団で、恐らくバイタリティでいったら俺たちB組の何倍もあるだろう。

 まだ27歳の青年教師、森元のモットーは『楽しく学ぶ』ことで、何となく青い行動や発言は目立つが、それでも生徒たちの評判はよく、A組はいつも楽しそうだ。


 いわば、桃ちゃん率いる俺たち戦術科B組とは対極にある存在といっていい。

 そんなA組とB組だが、客観的に見てA組のほうが優秀だ。

 授業の進み具合が全然違うからだ。

 A組は体力トレーニングをすでに終わらせ、魔術基礎訓練を今やっている。それに比べ俺たちB組は、未だ体力トレーニングばかりだ。

 基礎とはいえすでに魔術を使える連中と、未だにひいこらトレーニングするだけの俺たち。


 ………この2組が模擬戦をやったところで、結果は明らかなのではなかろうか?


「無理ですよ先生!」


 昼休み。

 昼ご飯を食べずに、目がね坊主の委員長が桃ちゃんに向かって抗議している。


「僕たちまだ体力トレーニングしかして無いんですよ! 勝負の勝敗どころか模擬戦すること自体まだ無理ですって!」


「まだ1週間あります」


 桃ちゃんはその体躯のわりに余裕に満ちた様子でそう言った。


「あなたたちがA組を倒す準備をするには十分な時間ですよ」

「あ、じゃあ!」


 いまいち影の薄い男、佐藤太一が嬉しそうに口を挟んだ。


「体力トレーニングはこれで終わるんですね!?」

「10年早いですよ〜」


 桃ちゃんの容赦無い言葉に、嬉しそうな顔をしていた佐藤はそのまま固まった。


「トレーニングが終わらない……」「そう、地獄は続くのね……」「けど負ければ次の日から森元教師の授業だぜ?」「けどなぁ……」


 ひそひそ話をしていた生徒たちは一斉に桃ちゃんを見た。


「……?」

『はぁ……』


 不思議そうに首をかしげる桃ちゃんに、彼らは一斉にため息をついた。

 もし、桃ちゃんがこんな子供みたいなかわいらしい容姿をしていなかったら、次のA組戦、全員が間違い無く負けようとするだろう。


 しかし、だ。

 桃ちゃんのかわいらしい笑顔、しぐさ、そして実はちょっとだけ泣き虫なところ。

 なんだかんだ言ってB組のアイドル的位置にいる桃ちゃんを裏切ることは、連中にはできなかった。


 まあ、気持ちはわかる。

 桃ちゃんかわいいしな。

 さて、しかしどうやってA組に勝とうか?

 魔術訓練もなにもせずに、ぶっつけ本番の模擬戦で。


「勝負は3本勝負。先に2本先取したほうが勝ちです」


 生徒たちのそんな雰囲気にも露知らず、桃ちゃんはニコニコと模擬戦のルールを説明した。


「大丈夫ですよ。相手は魔物でもなんでもありません。ただの人間です。私たちが勝てない道理などありませんよ」


 それまでみんなで頑張りましょうねー! とガッツポーズを取ると、桃ちゃんはそのまま教室を出ようとした。


「で、ですが先生。せめて基礎魔術の習得だけでも……」


 委員長が未練がましく、教室から出て行く桃ちゃんをひきとめる。


「大丈夫ですよ!」


 桃ちゃんはドアからこちらに向かって顔だけを出して、ウィンクした。


「私はあなたたちに無駄な努力を絶対させませんから〜!」 


 それだけ言って、桃ちゃんは今度こそ出て行った。







***







「ですから、今日では、『魔女狩り』は単なる迫害ではなく、かつて、ごく少数ですが確かに存在した、魔女たちへの民衆の畏敬の念、及び彼女たちの神秘的力を危惧した教会が………」


 現在、B組では魔法歴史学の授業が行われていた。

 講師をしているのは桃ちゃんではなく、魔法歴史学の教授として有名らしいかっぷくの良いおばさん教師だった。

 この学園では午前中の訓練の時間は桃ちゃんなど、クラス担任が授業を引き受け、午後からの授業は、各教科専門の先生が教えてくれるようになっている。


 ……朝の訓練と昼の授業逆にすればいいんじゃね、とは思うが今まで創立から20年ほど続いてきた規則なのでしょうがない。

 朝の訓練で疲れた多くの生徒たちが、こっくりこっくり船をこいでいた。

 俺も寝よっかなー、とぼーっとしながらそんなことを考えていたとき、


 ぽん


 とどこからかくしゃくしゃに丸めた紙が飛んできた。

 なんだと思い中を見てみると、


『どうやってあのA組に勝とう? BY洋太』


 横の席にいるジャジャ馬男、洋太からだった。  

 ……ま、暇だしな。付き合ってやるか。


『どうもこうもないだろ。桃ちゃんが大丈夫って言ったんだから信じろ』


 そう書いた紙を洋太に渡した。


『いや、けどなんつーかこのままじゃダメっぽい雰囲気がぷんぷんしてないか?』

『だから? 1週間で俺たちにできることなんてたかが知れてるだろ?』

『魔ーがこっそり俺たちに呪文を教えるとか何かないのか?』

『誰が魔ーだ! それと、俺だってそんなに呪文知ってるわけじゃねー!』


 俺が『宝剣』の使用について、恐らくこのクラスで唯一の経験者である(桃ちゃん除く)ことは確かだが、だからといって他人に教えられるほど達者なわけじゃ無い。


『けど、このままじゃ確実に俺たち負けるぞ? 桃ちゃん泣いちゃうぞ?』


 ………………それは困る。

 ……………………………………………………………

 ……しょうがない。


『放課後、教室に残っとけって生徒全員に伝えろ』

『了解!』


 桃ちゃんの訓練の邪魔をしない程度に、なんかやりますか。 


 




2年C〜E組が忘れられていますが、彼らは後で派手に登場する、はずです!

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