助っ人
「………………」
こつ……こつ………こつ……………
ゆっくりと廊下を歩く。
後方数十メートルの曲がり角ってところか。
後ろにいるヤツの位置は。
………さて。
「………ふぅ〜」
俺は1つ息をはくと、精神を集中させ、体内の魔力を均一にさせる。
『逃げるが勝ち』に記されていた、結構役立つ気配の消し方である。
視線の先には曲がり角があり、そこを抜ければ図書館へ一直線だ。
「………………」
さて、うまくいくかね?
こつ……こつ………こつ……………
俺は何気ない風を装い、気配をなるべく消した状態で角を曲がった。
トッ………
曲がり角に入り後ろのヤツの視界から消えた瞬間に、俺は飛び上がった。
「………!」
慌てて俺を追う怪しい人間A(なんとなく、今命名)
しかし角の先の廊下を見渡しても、俺の姿はない。
怪しい人間Aが、何が何だかわからず困惑している隙に。
俺はその様子を、天井から見ていた。
………気分はスパイ●ーマンである。
「……ほれ」
「………!」
俺は後ろから、首筋に手刀をあびせた。
「……んで?」
こいつ誰なんだ?
気絶したそいつを見下ろすと、黒子みたいに全身を真っ黒な衣装で包んでいる。体型からして男。身長は俺より少し高いぐらいか。
「……ま、いーや」
とりあえず縛って動けなくした後に桃ちゃんにでも引き渡そう。
そう思ってなんか周囲に縄の代わりにあるものでもないかと探した時………
「きゃああああああ!」
「………ん?」
どこからか悲鳴が聞こえた。
――― 今井麻衣 SIDE ―――
「う………あ………」
身体が……動かない。
この場にいてはいけない。
逃げなきゃ………
そう思っても………震えるだけで足が動いてくれない。
「グルルル……」
月明かりに照らされ、黄金の瞳を持った怪物の姿があらわになる。
それは机の倍の背丈を持つ、巨大なオオカミだった。
ハッハッハッ………
荒い息をあげながら、こちらに巨大な瞳を向ける。
………食われる。
逃げろ。
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ………!
「グワアアアア!」
「……………ひぃっ!」
ドッ!
ついに、大きな口を開けてオオカミがこちらに向かって飛び出した。
その瞬間。
ゴスッ!
「グギャッ!」
「………え?」
突然何かが、オオカミの頬にぶつかる。
オオカミはそのまま吹っ飛び、
ガシャアアアアン!
盛大に窓を割って、2階のこの教室から下へ落ちて行った。
「大丈夫?」
「え………?」
誰かが助けてくれたのか………
そう思って声がした方を振り返ると………
「うあ………」
「ドーシタ?」
そこには真っ黒な肢体、コウモリのような羽、細長いしっぽを持つ化け物。
子供ぐらいの大きさの、ガーゴイルがいた。
「きゃああああ!」
「ナ、ナンダ!?」
ちょっと何々!? 一難去ってまた一難? なんでこんなことに―――!?
「………………大丈夫」
「え?」
ぽん、と誰かに肩を置かれた。
「……ガーちゃんは敵じゃないから」
「オッ、ご主人!」
ガーちゃんと呼ばれたガーゴイルは、ふよふよ浮くと、嬉しそうにその声の主の肩にとまった。
ちょ………!
なんでこんなところに?
「………雹ちゃん」
「………………久しぶりです」
そこには、深紅の瞳と銀髪を持った、日本人離れしたスタイルと美貌を持つ女性。
………雹ちゃんがいた。
沢木雹。
作者はたまに勘違いしそうになりますが、チビではありません。成熟した女性です。
小さいのは桃ちゃんと湊で十分です。