暗闇からの使者
夜中の学園は静かで、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。
「………………さて」
今井はとっととどっか行ってしまったし、とにかく桃ちゃんのところに行こう。
俺は靴箱で靴を履き替えると、図書館に向かって歩いた。
廊下に明かりはほとんどなく、外から漏れてくる街頭の明かりを頼りにしなければならなかった。
こつ……こつ……と無人の廊下に俺の足音が響く。
「……………………」
こつ……こつ…………………かたん。
「………?」
歩いている途中で、何か物音がした気がして、後ろを振り返った。
しかし、耳を澄ましても何の音も聞こえず、何の気配もない。
「………空耳か」
俺はそう独り言を言うと、そのまま歩き出した。
階段を登る。
………………………さて。
後ろのヤツ、どうしようか?
――― 今井麻衣 SIDE ―――
夜中の教室は、物陰から何か出てきそうで、正直怖かった。
だからマッキーについてきて欲しかったんだけど………
「しょうがないか」
忘れたのは自分のせいだし。
私はそう自戒しながら、
ガラッ
2ーB教室のドアを開けた。
………………………
「うわー………雰囲気ある………」
トイレの花子さんとか、死の13階段とか、学校で怪談話が多いわけがわかるような気がする。
……やだやだ。
私はさっさと教室の電気をつけようとした。
………けど。
「……………あれ?」
パチッ、パチッ
いくらスイッチをON,OFFにしても、電灯がつく気配がなかった。
「………停電?」
確かに学校の電灯はついていないが、外の街頭とかはついている。
………なんで、この学校だけ。
うわ〜………ついてよぉ………
パチッ、パチッ……と何度もスイッチを触るが、どうしてもつかない。
………その時だった。
ゴトッ………………
「………………!」
教室の隅の方で、音がした。
暗がりでよく見えないが、音のした方を見る。
「………………ひっ」
私は声にならない悲鳴をあげた。
「グルルルル……………」
「い………」
そこには、人間のものとは到底思えないような、黄金に光る鋭い眼を持った、
「グアアアアアア!!」
怪物がいた。
「いやあああああ!」
腰が抜けそうな思いをしながら、絶叫した。
――― 西村桃子 SIDE ―――
「………ここまでやりますか」
私は今、管理室にいた。
ついさきほどのことだ。
学園に張り巡らされている電線、それが一斉に破壊されたのだ。
私は嫌な予感がして、監視員の宮松さんを迎えに行った、ちょうどその時だった。
「くくく………貴殿が『紅の魔女』か」
窓から差し込む月光が、目の前の侵入者の横顔を照らし出す。
目の前にいるのは、袴を着た年若い青年だった。さらさらした髪に、とても整った顔立ちをしている。
日本刀の形をした、真っ赤な宝玉を持つ宝剣をこちらに向けて、上段に構えていた。
「………………」
攻撃をしようにも、身のこなしに隙がない。
………間違いなく、暗殺や護衛、そういった道のプロだ。
「もっ、桃ちゃん!」
私の後ろには宮松さんがいる。
「宮松さんは動かないでくださいね?」
「お、おう………」
宮松さんを私のすぐ後ろにかばうと、その男を見据える。
「………誰に雇われたんですか?」
「それを言うと思うか?」
「………ですよねぇ」
私は苦笑しながら、背中に冷や汗をかいていた。
「目的は、この学園のメインコンピューターですか?」
「ああ。本当なら平和的に資料庫の盗難騒ぎに乗じて、学園のコンピューターをいじくろうと思っていたのだがな」
………なるほど。道理でほとんど何も盗らなかったわけだ。
目的は資料庫の中身でなく、資料庫を開ける際に学園の全ての電源が落ちる。その瞬間だったのだから。
……まったく。聡美ちゃん様々ですね。
「とにかく、私はその後ろの親父を亡き者にしろとの命令が出ていてね」
侵入者は薄く笑う。
……やっぱり、宮松さんが狙いか。
20年ずっとこの学園の管理をしてくれている宮松さんは、この学園のセキュリティ、電子関係についての最高責任者といっても過言ではない。
この学園のセキュリティを破壊しようと思ったら、この人が邪魔になるのは当然だろう。
「おとなしく渡してくれまいか」
「そうすると思いますか?」
「……それもそうだな」
くくく、と侵入者は、嬉しそうに笑った。
「交渉決裂というわけだ」
言葉の割にはそうなることを期待していたような、そんな感じがあった。
………戦闘狂というものだろうか。……………ますます厄介だ。
それに、学校に送り込まれたのがこの男だけとは思えない。一応他の残っている先生たちは強いから大丈夫だと思うが、生徒たちがまだ残っていないとも限らないのだ。
……とにかく、早くこの男を片付けなければ。
「………私に挑んだこと、後悔してもらいますよ!」
そう叫んだ瞬間。
私は地を蹴った。
最後の敵が見え隠れしてきました。桃ちゃん大丈夫か!?