認めない
「あら………?」
寮に帰ると、野原さんが夕飯の支度をしていた。
「先輩は?」
「………今日もまた、学校に泊まり込むそうです」
……あれは相当ムキになった表情だったからな。
「2日連続泊まり込みかぁ………あんまり望ましいことじゃないわねぇ」
「そうですね」
何食べてるのか知らないが、睡眠、食事、下手したらお風呂とかそういったものまで適当にやっているかもしれない。
「「ただいまー!」」
「あ、お帰りなさい」
今井と八巻がソフト部の練習から帰ってきた。
「おなかすいたー! 野原さん、今日のメニューは?」
「メインは肉ジャガよ。そろそろできるから……」
「おっけ〜! ……って、あ」
今井がしまった、といった顔をした。
「どったの? 麻衣ちゃん」
八巻が不思議そうな顔をした。
「………ど〜しよ〜、マッキー」
「だからその呼び方はやめてって」
八巻の抗議も意に介さず、今井は肩を落としながら言った。
「カバン忘れてきちゃった」
「………おいおい」
八巻が呆れた声を出す。
「しょうがないじゃん! うっかりカバンを机の上に置いたまま!」
「…………はぁ〜」
「どーしよ〜!」
意外と本気で困った顔をしている今井に、八巻は頭痛もちのように頭を抱えた。
「……とってきなさいな。今日も宿題あるんだし」
「え〜! 今から〜!」
「しょうがないでしょ? 明日も学校あるんだし。それにここから学校までそう距離ないんだから、別にいいじゃない」
「………一緒についてきてくれない?」
「い、や!」
「イケズ〜!」
「自分のまいた種でしょ?」
やいやい騒いでいる今井たちを後目に、野原さんは手早く料理をテーブルに並べていく。
「まあまあ。2人ともお腹すいてるでしょ? とにかく夕ご飯を食べて、それから行きましょう? ね?」
「「は〜い」」
野原さんの声で、2人は荷物を部屋の隅に置くと、席に着いた。
野原さんは料理を並べながら、俺をちらりと見た。
「………ねぇ、まーくん」
「何です?」
聞き返すと、野原さんは申し訳なさそうに言った。
「私ね………実はこれからちょっとレポート書かなきゃならないの」
「ああ、でしたら食器洗いかわりにやりましょうか?」
ま、いつもお世話になってるし、それぐらいならいくらでも………
「ううん、それは別にいいんだけど………」
キッチンに戻ってごそごそとなにやら準備した後、ハンカチに包まれたお弁当を渡してきた。
「……これ、先輩に届けてきてくれない?」
「ああ、なるほど」
放っとくと、桃ちゃんこういった栄養系の気遣いまるでやらないからな。
「いいですよ」
「ありがとう!」
野原さんは嬉しそうにそう笑った。
………俺は、このお願いを受け入れたことに、後でちょっとだけ後悔することになる。
そして8時近い時間。
夕食を食べ、さぁ桃ちゃんにお弁当を届けに行こうか、と学校にむかって行く最中である。
「………なんであんたと一緒なのよ」
「………………知るか」
………なぜか俺の隣には、ぶすっとした顔をした今井がいた。
さて、なぜこんな状況になっているのかというと。
「あ、魔ーも学校に行くんだ。だったら麻衣ちゃんも一緒に行けば? 最近物騒だし」
……という八巻の一言がトリガーになった。
無論、俺も今井もそれは拒否した。
が、「それもそうね!」と八巻の後押しをした野原さんの言もあり、結局一緒に寮を出ることになってしまった。
「………………」
「………………」
会話がない。
……まぁ、なんかこいつには嫌われてるっぽいから、当然といえば当然か。
それに、正直変に会話がはずむより、こういう方が気楽でいい。
「……………認めないからね」
「……………何が?」
俺が聞き返すと、今井はそっぽを向いたままで言った。
「あんたがアタシに言ったことの全て」
「………………?」
俺は首をかしげることしかできなかった。
……が、今井はそれだけ言うと満足したのか、そのままダダダダ! と学校に向かって走り出してしまった。
………なんのこっちゃ。
………さて。そろそろネタが切れてきましたよっと。




