侵入者
――― 西村桃子SIDE ―――
「う〜ん………よいしょ!」
私は結界とセンサーを解いた資料庫の中に入った。
中は前に入った時同様、真っ暗で汚かった。
「………掃除した方がいいですかねぇ」
そう独り言を言いながら、私は穴から漏れ出てくる光を頼りに、入り口近くにある明かりのスイッチをつけに行く。
その時、なにやら天井に気配を感じて、私は上を見上げた。
瞬間。
ゴトン
「………………ん?」
何か大きな物が動く音と共に、急に辺りが一寸先も見えない、本当に真っ暗になった。
「……………」
………穴が、塞がれた?
「………一体誰が?」
私はあごに手をあてて考える。
まあ辺りが暗くなっただけで、さほど問題ではないのだけど。
………コツン
「……………!」
穴がふさがれたと同時に、何か落とされたらしい。
突然悪寒を覚えた私は、バッとその音源から離れた。
何か小さな物が落とされたのか。
………なんだろう?
しゅー………
「………………む」
私は眉をひそめた。
………何かのガス?
催涙ガスみたいなものか、それとも吸えばお陀仏になるようなものか………
まぁそれでも。
「………つまらないことをしましたねぇ」
大したことではない。
私は目を閉じると、静かに両腕を広げた。
――― ? ―――
「………よし」
今資料庫に投入したのは、2次大戦の時の副産物で、軍事用に開発された細菌兵器だ。
多量に吸えば人の命を平気で奪えるシロモノ。
不意打ちでこれをくらえば、いかにあの女でも………
ドガァン!!
「………!」
突然、図書館に破壊音が響き渡る。
「………『紅の魔女』と謳われた私が、ずいぶんとなめられたものですね」
「………!」
不意に生じた声に、冷や汗が大量に流れ出る。
「………バカな」
振り返ると、そこには平気な顔をした、ターゲット。
西村桃子がいた。
「ガスを使うなら気づかれないようにする必要があります。そうしなければあんなガス、結界を張れば一発ですよ」
ターゲットは、身体の周囲に薄く魔力の膜をはっている。
薄く笑うその表情が、ぞっとするほど恐ろしく感じられた。
「………」
「………さて、覆面さん? あなたがどこのどなたかは知りませんが」
………くっ、逃げ………………
「ここまでの狼藉を働いたのですから、覚悟はできてますね?」
「………ひぃっ!」
喉の奥から悲鳴が漏れた、その直後。
意識が真っ黒に染まった。
「………あれ?」
放課後になり桃ちゃんが心配になった俺が図書館に行ってみると、そこはまた野次馬ができていた。
「………おい」
「おお、魔ー」
俺は近くにいた洋太を捕まえた。
「これなんだ?」
「いや、何か爆発騒ぎが起こったみたいで」
「爆発?」
………また物騒な。
野次馬をかき分けて、騒ぎの中心らしき資料庫の方に顔を出してみると、そこには桃ちゃんが1人で穴を見ながらたたずんでいた。
「………桃ちゃん?」
「ああ、魔ーくんですか」
振り返ってにっこり笑った桃ちゃんだったが。
………なにやら今までで一番恐ろしい表情をしていた。
「………な、何があったんですか?」
後ずさりしながら聞いてみる。
「………ねぇ、魔ーくん」
「はい」
「私はですね」
しゅるっ
言いながら、桃ちゃんは自分のツインテールの髪の、赤いリボンをほどいた。
「………………」
思わず、絶句する。
首を振って髪を整えるその姿は、子供っぽい桃ちゃんなのに、なぜか驚くほど似合っていた。
「出し抜かれるのが、1番嫌いなんですよ」
「………………」
そこには、ストレートロングとなった桃ちゃん。
そして、今までに見たことがないほど真剣な目をした桃ちゃんがいたのだった。
……昨日とは一転、あまり書けなかった。orz