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パニカル!  作者: タナカ
52/98

桃ちゃんたちの青春時代





「なっ! なっ! 俺の言った通りだったろ! 俺すげぇ!!」

「………………」


 現在、午前中の訓練が終わった後、昼休みの図書室の地下3階、資料庫前。

 ………俺は二の句が告げずにいた。


「はいはい! みんな下がってー!」


 先生たちが必死になって野次馬たちを遠ざけている。


「泥棒はあの資料庫の天井に穴を開けたんだ! そしてあの穴から悠々と侵入したんだよ!」


 洋太が力説する。


「………んなバカな」


 こんなことあるはずないといくらそう思っても、資料庫へ続く穴が出てきたという現実は消えなかった。


「周囲のヤツらが濃すぎるせいで最近全然活躍できなかったけど! ついに! ついに俺にも日の目が! 部長――! 俺は! 俺はついにやりました――!」


 甲子園出場が決定したチームのキャプテンみたいに、洋太は笑いながら滂沱(ぼうだ)の涙を流していた。

 ………………アホもたまには役に立つ?

 うれし泣きしている洋太を横目にそんなことを考えていたとき。


「な……………!」

「………ん?」


 隣で驚きの声が聞こえたから振り向くと、そこには今は大学にいるはずの野原さんがいた。


「野原さん。どうしたんですか? 大学は?」

「ま、まーくん!? い、いえ! なんでもないの! 大学は、えとちょうどお昼休みだから!」


 ぶんぶんと首を振りながらも、野原さんはあからさまに挙動不審だった。


「怪しい………」


 ちなみに、これは俺の声ではない。

 隣ですっかり調子に乗っている洋太の声だった。


「ぎくっ!」


 しかし、そんな洋太の声にあからさまにびくっとする野原さん。

 ………何借りてきた猫みたいになってんだこの人。


「あなた………………」


 洋太はたっぷり間を置くと、目がねを直す振りをした後、びしいっ! と野原さんを指差した。


「ズバリはんにぶおわっ!」

「野原さんを指差すなドアホ」


 失礼じゃねーか。

 俺は洋太を裏拳一発で黙らせる。


「ふ、ふえ………」

「はい?」


 野原さんの方から声がしたので見てみると、なんとそこには目の幅いっぱいに涙をためた野原さんがっ、て…………!


「の、野原さん! どうしたんですか!」

「ふええええええ!」


 ちょまって何がいったいどうしてえええええ!


「ちょ、落ち着いてくださいって!」

「ご、ごめんなさいいいいい!」

「わけわかんないですって!」


 泣いていた。

 なぜかしらないが、野原さん大泣きだった。 


「ちょえ、何?」「誰か泣いてる?」「魔ーが?」「泣かした?」「うわ、さいってー」「さすが魔ー。人非人だな」


 ………周囲の野次馬から、あらぬ誤解を受けていた。


「…………………」


 ………帰りたい。

 切にそう願った。 


  


 











 野次馬はすっかり出払われていた。

 この図書館は、現在地下3階のフロアのみ、桃ちゃんと俺、野原さん、そしてなぜか「報道の代表者として!」とか言いながら居座っている湊の計4人。

 その貸しきりみたいな状態になっていた。


「………………なるほど、そうだったんですね」


 桃ちゃんが腰に手をあてて、野原さんを見据えた。

 野原さんは珍しく泣き崩れ、近くのソファに座って顔を手で覆っていた。


「つまりこの穴は犯人がやったものではなく、聡美ちゃんが昔に作ったものであると」

「………はい」


 ぐすり、と野原さんは鼻をすすりあげた。


「なんでそんなことしたんですか?」

「………だって先輩、言ったじゃないですか」


 赤く潤んだ目を桃ちゃんに向ける。


「楽しまなければ、人生損しますよって」 

「………あの頃の聡美ちゃんはあまりに元気がありませんでしたからね。発破をかける意味でも、確かにそう言ったのは覚えてますけど………………

 ……随分やんちゃしたんですねぇ」

「うう……あの頃はこの学園にいろいろ面白い噂が流れたじゃないですか? この学園の地下には人造人間の研究所があるとか、この図書館にはアレイスターの魔道書の原書があるとか………………

 そんな噂聞いたら、調べたくなるのも仕方ないじゃないですかぁ」

「………まぁ気持ちはわかります。そこら辺は私も人のこと言えませんから」


「………あの〜、桃ちゃん?」


 話しについていけないらしく、湊がそろ〜っと手をあげた。


「いつの頃の話しをしとるん?」

「私たちが高校生の頃、つまりはちょうどあなた方ぐらいの年代の時ですよ」


 桃ちゃんはきょろきょろと辺りを見まわすと、「ありましたありました!」と言いながらある棚に走って行った。

 それはこの学園の歴史書が置いてある棚だった。


「ほら、この頃ですよ!」

「「………へ〜」」


 俺と湊は、桃ちゃんの手に余る大きな本を覗き込みながら、感嘆の声をもらした。

 そこには桃ちゃんが真中でピースサインをしている、卒業写真があった。

 ………姿形が、今とまったく変わってねぇ。


「私たちがこの学園に在学していた頃の写真です。この頃は生徒会長とか魔術研究会の部長とかいろいろやっていまして、結構苦労してたんですよ?」

「魔術研究会!?」


 湊が感嘆の声をもらした。


「それってもしかしてあれ!? 大学顔負けのいろいろな魔術の研究開発をやっとって、日本魔術界の精鋭のほとんどがこの研究会出身、ここに入れば出世間違いなしって言われとった、あの魔術研究会なん!?」

「その研究会ですよ〜。最も、私の代でつぶれちゃいましたけど」


 たはは………と桃ちゃんは苦笑いした。


「………何かあったん?」

「形あるものはいつか必ず壊れる………そういうことですよ」


 ふっと、桃ちゃんはどこか遠いところを見ているような、そんな目をした。


「………………」


 なんとなく湊もその重苦しい空気を感じて押し黙る。

 ………だが甘いな、湊。


「どっかの部長が研究会の資金を全部使った上に、禁止されてる呪文を使いまくって警察沙汰になったからだとか聞きましたけど」

「あうっ!」


 途端にあ〜、とかう〜、とかいいながら、挙動不審になる桃ちゃん。


「そ〜なんですよ!」


 野原さんが立ちあがって力説する。


「その事件の原因が何だか知ってますか!? 先輩が『エクスカリバー作りましょう!』とか言ったからですよ!? ありえないですよ作れませんよいくらなんでも! しかも理由がそのとき流行ってたゲームに出てきてかっこよかったから、っていうですよ! なんですかそれは! なのに先輩ったら強引に計画を推し進めて……!」 

「………………わ、私も昔はやんちゃだったってことですよ」


 若気の至りですね〜、と言いながら平和な顔を作る桃ちゃん。

 ………ほんと、この人は。

 湊の目も、じとっとした目に変わっている。

 さっきとは別の重苦しい空気が辺りを支配した。


「は、話がそれましたね。とにかく、この穴は聡美ちゃんが昔作ったもの、ということで正しいんですね」


 目の前にある真っ暗な地下資料庫への穴を指差しながら言った。


「………そうです」


 野原さんはそう言った後、力が抜けたように再びソファに腰掛けた。


「確認が取れてよかったです」

「え? どういうことですか先輩」

「この穴ですけどね」


 桃ちゃんが穴に手を伸ばす。


 きぃん! 


 甲高い音とともに、桃ちゃんの手が弾き飛ばされた。


「うわっ!」


 湊が驚きの声をあげる。

 ……てか色気ねぇ、湊の叫び声。


「……とまあこういう感じにですね。私が仕掛けた結界は壊されていなかったんですよ。ですからこの穴を犯人が使ったという可能性は最初から低いなと、考えていたんです」


 それに、そうでないとなんでカギを盗んだのか意味不明ですしね〜、と桃ちゃんは付け加えた。


「………あれ? 確か桃ちゃんがこの資料庫のセキュリティを強化したのってこの前ですよね? だったらその時にこの穴気づかなかったんですか?」

「あー……監視カメラと赤外線センサーの設置、それにカギを取りつけて、ラストに私の結界を部屋全体にはっただけですから。

 実はあんまりよく見てなかったんですよね〜」


「………うぉ〜い」


 さすが桃ちゃん。しっかりしてるように見えて結構いい加減。


「………ですが聡美ちゃん、よくやってくれました!」

「は?」


 野原さんが口をぽかんと開ける。

 桃ちゃんはくくく、と忍び笑いをしながら、びしいっと穴を指差した。


「これは思わぬラッキーですよ!」

「ラッキー……?」


 野原さんが首を傾げていると、桃ちゃんはにやりと笑った。


「これでわざわざ急いで部屋のドアのカギを開けなくても、中に入れます!」

「あ………」


 なるほど。

 ドアを開けなくてもこの穴から入れるから、あとは桃ちゃんの結界と中の赤外線センサーとやらを外せばOKってわけか。


「さ、みなさんはそろそろ午後の授業に行ってください。私はこれからここの結界とセンサーを切った後で、ここに入って中の点検をしますから」

「ええ〜! ウチもここに残りたい〜!」


 湊がぶーたれた。


「ダメです。学生にとっては勉強が本分ですから。しっかりそれを(まっと)うしてから、また来てくださいね」

「………ま、諦めろ」


 俺は湊に、諭すように語り掛けた。


「………へ〜い」


 まだ口がの●たクンみたいな形になっていたが、どうにか納得したらしい。


「じゃ、いきましょうか」


 無罪放免となったので、もうすっかりもとの調子に戻った野原さんがそう言った。


「それでは、また放課後に会いましょうね〜!」


 桃ちゃんに見送られて、俺たち3人は図書館を後にした。













「………………ちっ」


 その時、本棚の影で舌打ちする者がいたことに、俺たちは気づかなかった。









お〜、久しぶりによく書きました。www

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