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パニカル!  作者: タナカ
51/98

野原さん





 翌朝。


「………おはようございます」

「おはよう」


 午前8時少し前。

 いつも通り少しぼーっとした頭でリビングに降りると、コーヒーを入れている途中の野原さんに会った。

 うむ。桃ちゃんほどではないが、野原さんの笑顔もほんわかして癒される。

 今井と八巻のかしまし2人組はソフト部の朝練。関西弁セクハラ女、湊は昨日の盗難事件を記事にして朝一で掲示板に張るんだと、早朝に張り切って行ったらしい。桃ちゃんは昨日から学校に泊まり込んでいる。

 ゆえに、寮には俺と野原さんだけで、静かなものだった。

 ………落ち着く。

 テーブルに用意されたパンとサラダを食べ終え、コーヒーを飲みながらゆったりとした時間を味わう。

 そして食事を終えると、登校するのにちょうどよい時間帯になった。


「ごちそうさま」


 食器を洗い場に持って行き、それから机の横に置いてあるスカスカの鞄を手に取った。


「いってきま……」 

「あ、ちょっと待って」

「……?」


 そのまま登校しようとしたら、野原さんに声をかけられた。


「私も一緒に登校していいかしら?」

「え?」


 俺は間の抜けた声を出した。

 野原さんは、管理人兼、この荒田学園の大学生だ。

 当然、俺たち高等部とは学部棟が離れている。

 普段も当然登校時間も目的地も違っており、一緒に登校、などということはこの寮に来てから今まで1度もなかった。


「私、今朝の事件に興味があるから。先輩に詳しい話を聞きたいのよ」

「あ、そうですか」


 納得。


「いいですよ、大歓迎です」

「ありがとう。すぐ支度するからね」


 そう言いながら、野原さんはエプロンを外した。










 野原さんはパッと見、月並みな言い方だが10人いたら10人とも振り向きそうなかなりの美人だ。

 その上家事はうまいし優しいし、嫁にしたいランキングなんてのがあったらダントツで1位を取るだろう。

 カジュアルな女子大生風の格好をした野原さんに、周囲の登校中の生徒たちの視線が集まる。


(はっはっは! いーだろう!)


 俺は堂々と胸をはりながら、野原さんの横を歩いた。


「学校はどう?」

「へ?」

 

 振り向くと、野原さんは優しく微笑んでいた。

 

「楽しい?」

「楽しくはないですが………まあ退屈ではないですね」


 当たり障りのない答えを出す。


「そう、よかったわ」

 

 その答えに満足したらしく、野原さんは笑みを深めた。


「楽しいことだけをやりなさい」

「え……?」


 野原さんを見ると、どこか懐かしそうな顔で前の、学校の方を向いていた。


「どんなことでも、楽しくなければ人生損しますよ?」


 いたずらっぽい笑いで、こちらを向いた。


「先輩に言われた言葉なの」

「桃ちゃんに?」

「ええ………そして私の座右の銘なの」


 恥ずかしそうに首の後ろ辺りをかいた。


「………桃ちゃんらしい言葉ですね」


 元気いっぱいにいかにも言いそうな言葉だった。


「そうね、先輩らしいわ」


 そう言って、野原さんは笑ったのだった。

  









「聞いたか聞いたか!?」


 野原さんと別れ、教室の机につっぷしていると、興奮気味の茶髪男が話しかけてきた。


「………………誰だっけ?」

「洋太だ! 上野洋太! 確かに最近忘れられ気味だったけど! それでも親友を忘れるなよ!」


 ……親友? そだっけ?

 泣きそうな顔で詰め寄ってきたが、「わかったわかった。んで、なんだ?」となだめたらようやく気を取り直した。


「昨日資料庫に泥棒が入ったんだと!」 

「………へー」


 もう聞き飽きたよ、その話題。

 俺は顔を窓の方に向けてぐでーんとしたが、洋太はますますヒートアップしていった。


「犯人はどうやってあの鉄壁と名高いあの部屋に侵入したのか!?」


 ……普通に職員室から鍵盗んでるんだが。


「………それは!」


 洋太はびしいっと天井を指さした。


「天井に穴を開けたんだ!」


 ……うん。予想を上回るアホだな、コイツ。


「俺はこれから資料庫の上、図書館地下3階を調べる! 新聞部の威信にかけて! 隅々まで調べつくしかならずや穴を見つけてやるぞおおおお!」


 そう雄叫びをあげ、洋太は図書館まで走っていった。

 ……授業はサボる気らしい。


(………ま、頑張れ)


 昨日1日考えつかれたため(最も、推理のほとんどは人任せだが)、机から顔をあげる気力がわかなかった。


「おはよう」

「………………」

「返事ぐらいしなさいよ」


 頭上から、ソフト部の朝練が終わったのだろう、八巻の声が聞こえた。

 ………が、正直返事するのも面倒くさい。


「………ねむい」 

「……あっそ」


 むこうも簡単に返事を返しただけだった。

 俺はそのまま寝ることにした。







 そのまま、普通の日になる予定だった。

 洋太が「あったああああああ!」とか叫ばなければ。








くくく……これから怒濤の展開が!(たぶん)

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