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パニカル!  作者: タナカ
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ちょっとしたイベント

 どこまでも澄み渡っているかのような、青く透明な世界が広がっていた。

 意識がぼやけている。感覚もほとんど無い。

 ただ、心地よい幸福感だけが身体に満ちていた。


「………………………」


 静寂の中で、微かに人の声が聞こえる。

 何を言っているのか分からない。

 ただ俺はずっと、その声を子守唄にしていた。


「失敗だと!?」


 いきなり大きな声を出した。

 …………失敗?

 何のことだ?


「くそっ!!」


 そして何かいらついた大声と共に、

 パリン

 ガラスが割れるような音がした。 



 

 



***







「………………しまった」


 また見てしまった。

 朝もやが出ているような薄暗い時間帯に、俺は自分の部屋のベッドの上で目を覚ました。

 先ほどまでの夢の中で感じていた幸福感はもう無く、代わりにあるのは、なぜか吐き気がするほどの嫌悪感。


 なぜかは分からないがこの夢を見ると、夢を見ている時とは逆に猛烈にむかむかするのだ。

   

「時間は………げ、五時?」


 起きるには2時間30分も早い。

 寝直そう。

 俺は瞬時にそう決定付けると、横になって目を瞑った。


 ……………………………

 ……………………

 ……………


「………眠れん」


 30分ほどして、自分の意識が完全に覚醒していることを自覚すると、俺は背伸びをした後で自分の部屋を出た。

 床が抜けるんじゃないかと思うほどぎしぎし音が鳴る廊下を歩き、階段を降りてキッチンへと行く。


「あら、早いのね」


 そこにはお茶の入ったコップを片手に持った、外見は粗悪なくせに性格は几帳面な女、八巻枝理がいた。


「悪夢を見たからな」

「へー」


 八巻は興味なさそうに相づちをうつと、コップを持ったまま奥のキッチンに消えていった。


「さて……」


 何をしよう?

 普段は起きないような時間のため、俺は暇を持て余していた。


 俺は何となく八巻の後について行くと………


「おっと、にんじんがまだ残ってるな? ふふふ、上等上等。この枝理ちゃんがおいしく調理してあげるからねー」

「………………」


 俺は八巻に気づかれる前に即座にキッチンから引き返した。

 俺は何も見なかった。

 そう自分に言い聞かせながら。







***







 俺たち寮生の登校時間はバラバラになっている。

 7:00。ソフト部の朝練のため今井麻衣、八巻の二人が寮を出る。

 8:00。桃ちゃんが職員会議のために早めに出る。

 そして俺、三河 正志は8:20。

 歩いて学園に行ってぎりぎり間に合う、という時間に寮を出た。


 俺は予鈴を聞きながら教室に入ると、そこには元気バリバリという様子の洋太がいた。


「ハッハッハ! 今日の俺は調子がいいぞぉ!」


 昨日回復呪文を受けたおかげで絶好調らしい。


「足に羽が生えちゃったぁ!」

「それ、言いすぎ」


 ぼそっと、誰かがそう呟く声がした。

 俺ではない。


「さぁ桃ちゃん! 来るなら来い! 今日の俺は一味違うぞぉ!」

「………一緒だろ」


 またしてもまた誰かがつっこみを入れた。

 さすがに気になったので辺りを見まわすが、それらしい生徒は見当たらない。


「だぁっはっはっは!」

「………うるさい」


 …………誰だろうな、このつっこみ。

 ま、どうでもいいか。







***







「ひぃ〜………はぁ〜………」

「はぁーい! みなさん! あと半分残ってますよー!」


 午前の訓練中の生徒たちが集う学校のグラウンド。

 想像通り、洋太及びクラスのほぼ全員が半死半生になっていた。

 あーあ。


「ちょっと先生!」

「はい?」


 死屍累々となっている生徒たちの前で平然と立つ桃ちゃんの前に、とある青年教師が立ちはだかった。

 ええと………確か2年A組担任の………


「ああ、森元先生。こんにちは〜」


 森元というらしい。

 すぐに忘れそうな名前だが。   


「こんにちはじゃありませんよ! ひどくありませんかこのありさま!」


 さわやか熱血教師っぽい森元教師は、ひーひー言いながらへばっている生徒たちを指してそう言った。


「ひどくありませんよ〜。これは愛の鞭ですから」

「こんなのは愛の鞭と言いません! 単なるシゴキです!」


 森元教師、名前を覚えるのが面倒なので教師A(A組担任だし)、が熱弁を振るう。


「こんなんじゃ生徒たちがかわいそうですよ!」

「まあ今はつらいでしょうけど………」


 桃ちゃんは熱っぽい目で生徒たちを見た。


「これが後に快感に変わるんですよ〜………」


 教師Aが絶句する。信じられないという表情で桃ちゃんを見ていた。

 桃ちゃん。Sっ気全開だ。


「あなたには任せておけません!」


 おお。なんと言う青いセリフだ教師A!  


「これから彼らの面倒は私が見ます! あなたは引っ込んでいてください!」

「そうはいきませんよ」


 にやりと桃ちゃんが笑う。


「私にも立場がありますから」


 うん。生徒のためにと言わないところがいかにも桃ちゃんだ。


「くっ! なんて人だ!」

「ふふふ。では、こうしませんか?」


 桃ちゃんは面白そうにぴっと指を立てる。


「どちらが教師としてふさわしいか、生徒たちに決めてもらうんです」


 多数決か何か取るつもりか? 

 明らかに不利だぞ桃ちゃん。


「1週間後に勝負しましょう」

「勝負?」

「そう。私の生徒たちの代表と、あなたのA組の生徒たちの代表とで、模擬戦をします。あなたの組の生徒が勝てば、私は教師を辞めます。ですが……」


 楽しそうに桃ちゃんは笑った。


「私の組の生徒が勝てば、一つだけ、私の言うことに絶対服従すること」


 な、なんという素敵な条件を!

 何を要求するつもりだ桃ちゃん!


「………ふ、良いでしょう」


 自信ありげにそう答える教師A。


「じゃ、楽しみにしてますよ〜」


 こうして、A組とB組の間で桃ちゃん主催のちょっとしたイベントが起こったのだった。







***







「………あ」


 午前中の訓練が終わった後で気づいた。


「今回、俺何もしてねー」


 楽なのはいいことなのだが。

 ちょっと寂しかった。 



 









今日ちょっと急いで書いたので、読みづらいとこがあったらすみません。

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