推理してみた
寮に帰ると、午後8時過ぎになっていた。
うがぁ〜! 長く学校にいすぎた。もの凄く損した気分になったぞ。
「おかえり!」
エプロン姿の野原さんが、食器洗いをしていた。
……薄情者どもめ。先に飯食いやがったな。
「おー! まーやん! よー帰ってきたな」
「湊……げ!」
リビングには顔を真っ赤にした湊がいた。
片手には缶チューハイがある。
「……野原さん」
「あー、ジュースと間違えて飲んじゃったのよ」
たはは、と笑いながら野原さんは苦笑した。
湊は酒に弱い。
チューハイで酔えるほど、だ。
「あたしゃー酔ってないぞー! うーい!」
……出た。酔っぱらいがよく言う言葉ベスト5。
「よーよーねーちゃん! いいケツしてんじゃねーか!」
……しかも湊のやつは酒癖が悪い。
笑いながら野原さんの尻に手を伸ばしていた。
「あー、湊ちゃん? 私洗い物しなくちゃならないから………」
「そんなことより、ねーちゃんも飲め飲めぇ!」
「きゃっ!」
湊は無理矢理野原さんを引き込むと、ぐいっとチューハイを煽らせた。
「んぐっ! ……ぷはっ! もう、湊ちゃん!」
「ぐははははは!」
椅子に足をついて缶チューハイ片手に親父笑いする湊。
……あかん、見苦しすぎる。
「ほっ!」
ゴスッ
俺は湊の首筋に手刀をたたき込んだ。
「ぐほっ!」
机につっぷしながら昏倒する湊。
……これ、実は結構危ないらしいから、よい子はまねしないでね。
「ほっ………助かったわ、まーくん」
「いえいえ」
乱れた髪を整えながら、野原さんはふうっと息をついた。
「……ところで、先輩は?」
「桃ちゃんなら、今日は学校に泊まり込むそうです」
「……何かあったの?」
「ええ」
実は……と俺は学校であった資料庫の盗難騒ぎを話した。
「………まさか」
「……? どうしたんですか」
「う、ううんっ! 何でもないの!」
野原さんは慌てたように首を横に振った。
………? 何か心当たりでもあるのかねぇ。
「………どうやったのか」
少し遅い夕食を食べ、部屋に戻った俺はそのままベッドに横になっていた。
犯人は職員室の鍵をいつの間にか別の鍵と入れ替えていた。
………しかし、どうやって?
職員室は基本、常に職員の誰かがいるものだし、学校が終わる頃には職員室の鍵は閉めることになっている。
それともう1つ。
あの後桃ちゃんが監視カメラを穴が開くほど見たが、見たところ盗られた物はなかったそうだ。
これでは盗難事件として扱いにくいので、桃ちゃんは警察にどう話そうかと迷っていた。
犯人が何らかの方法で鍵を盗み、あの資料庫に入ったのだとして………いったい何が目的で………………
「どわぁ〜!」
あかん。頭脳労働は俺向きじゃない。
まぁ、だからといって肉体労働も俺向きじゃないけど。
いうなれば逃げ専門?
「くおらぁ〜! まーやん!」
頭をかきむしっていると、さっき昏倒させたはずの湊がいきなり部屋に入ってきた。
ちっ。回復の早いやつ。
「ひどいやないか! 人を問答無用で気絶させおってからに!」
「だがおかげで、多少酔いは覚めただろ?」
多少顔は赤いが、それでも先ほどみたいな泥酔に近い状態ではなくなっていた。
「んな問題かああああ!」
どかーん、と爆発する湊。
あー、うるさ。
そうやってしばらく怒鳴っていた湊だったが。
「………あかん。よー考えたらまーやんに説教なんて聞くはずないわ」
途中で説教を止めると、壁に手をついて落ち込み始めた。
「………おっ、そうだ」
「………なんやねん」
湊がもの凄く不機嫌な声を出してきたが、無視。
下手な鉄砲数打ちゃ当たるというしな。
湊に事件のことを話してみよう。
「いや、実はな………」
資料庫に怪しい人影がそして部屋の鍵はいつの間にかすり替えられており密室トリックー! みたいなことを湊に少し誇張して聞かせた。
「ほほぅ………本格サスペンスやな」
うむ、さすが湊だ。
さっきまでの不機嫌はどこへやら。今は事件のことに興味津々になっている。
「うーん………わかった!」
「おお!」
てぃきーん! とびっくりマークが出そうな勢いだった。
「鍵屋さんがやったんや!」
「………うぉい」
あの人たちなら合い鍵作り放題やし! とか言いながらヒートアップしている湊に、俺は呆れて諭した。
「あの鍵は特注だからそうそう合い鍵なんぞ作れねーし、それにあそこのセキュリティは桃ちゃんの結界もはってあるんだぞ」
「なんと!」
それは盲点だった! みたいな雰囲気で叫んでいる湊。
やっぱり脳みそスポンジだ、こいつ。
見た目は利発そうな中学生に見えるんだが。
ぼさぼさしてる髪を整えたら、結構美人になりそうなのにな、こいつ。
「そうや!」
またしても、てぃきーん! とひらめいたって顔をした。
「まいまいにも聞いてみよう!」
………出た、人任せ。俺もだけど。
ついでにまいまいとは今井麻衣のことな。かたつむりみたいで本人はかなり嫌がってたが、このあだ名。
「まいまい〜!」
だが湊は楽しそうに部屋から出て行った。
さて! 次はいよいよ密室サスペンス(?)解答編です! 君にこの謎が解けるか!? 解けたらすごい! マジすごい! だってヒント1つも出してないから!
ついでに、次回でパニカル連載50回目です! いやー、よくここまで来たもんだ。