宝剣の強さ
「今日は宝剣の種類について説明しますね」
休み明け、午後の授業。
珍しく桃ちゃんが、訓練ではなく教壇で教鞭をふるっていた。
「あなたたちが持っている宝剣、これはルミナスの剣という、というのはもう習いましたね。他に魔術科C、D組のスキュアの杖、補助科E組のリーフの杖などがありますが………」
背が届かないため台座を使い、ツインテールをふりふりさせながら黒板に文字を書く桃ちゃん。
うむ、かわいい。
「さて、これら宝剣の強さとはどこで決まるのでしょうか?」
そう言うと、周囲を見渡した。
全員、ささっと目をそらす。
だって当たるの面倒だし。
「では委員長!」
「うえっ!」
生真面目な性格ゆえに、露骨に視線をそらせなかった委員長が生け贄になった。
「え、えっと………剣の能力とか?」
「40点ですね〜!」
桃ちゃんがさっと腰から小刀を出した。
やばっ!
「罰ゲーム〜!」
ごおっ!
委員長に向かって、炎の固まりが発射された。
「ぎゃ――――!」
ちゅどんっ!
かわいそうに、委員長はご臨終した。
「委員長………いいやつだった」
俺は洋太と2人で手を合わせた。
ちーん。
「剣の能力は相対的な部分が強く、それを宝剣の強さの価値基準にすることは難しいです。
………というわけで。さーあ! 次! どんどんいってみましょ――!」
元気な桃ちゃんに反比例して。
『……………』
全員、無言。
桃ちゃんが片手に持っている小刀。これも宝剣の1つであり、桃ちゃんは「いっちゃん」と呼んでいるものであるが。
能力はこの通り。無詠唱の火炎呪文である。
たまに生徒たちの粛正のために授業や訓練中に使われる。
桃ちゃん恐怖授業の中核をなすアイテムの1つである。
「………」
「誰かいませんかー? でしたらこちらから当てますよー? では麻衣ちゃん!」
「はいっ!?」
今井が裏返った声をあげる。
「ズバリ! 宝剣の強さを決めるものとは!?」
「え、えーと……」
ひたすら視線を巡らせるが、いい考えは浮かばないらしい。
アホ毛がせわしなく動く。相当テンパってるみたいだ。
「……材質?」
「う〜ん……60点ぐらいですね〜!」
サッと、今度は懐からさっきとは別の小刀を出した。
「罰ゲーム〜!」
「きゃああああ!」
びりいっ!
今度は電撃が今井を襲った。
桃ちゃんの小刀マーク2、「ぬっちゃん」である。
能力は電撃呪文。くらえば今の今井みたいに、しびれて動けなくなる。
「次〜! では洋太くん!」
「サーイエッサー! 見当もつきません!」
「論外ですね〜!」
「うぎゃあああああ!」
さっきの委員長みたいに火だるまになる洋太。
「では魔ーくん! 何かわかりますか?」
………あ。俺に来た。
ま、いーが。
「値段」
簡潔にそう言った。
「うん。80点。合格点ですね」
『えええええ〜!!』
生徒たちが不満そうな声をあげた。
ええい。うるさいな。
「ちなみに満点の答えは『宝玉の希少性』ですね」
そう言いながら、桃ちゃんは自分の小刀の宝玉を皆に見せた。
「こうした宝玉は採取するのが非常に難しいのです。そしてこの宝玉が希少であればあるほど、能力は強力になり、当然値段も跳ね上がります。ですから宝剣の価値はほぼ、この宝玉の値段で決まるといっていいです」
指輪とかジュエリーみたいですね〜! と笑う桃ちゃん。
「つまり、です」
桃ちゃんはくるりと黒板の方を向くと、台座の上で精一杯伸びをしながらこう書いた。
宝剣の強さ=値段
「自分の宝剣にどれだけお金をかけたか。それが強さに直結するわけです」
………また歯に衣着せぬ言い方を。
「最近では強力な宝剣を持つことがお金持ちのステータスにする流行があるみたいですが。お金持ちは戦わないくせに、宝剣だけいいの持ってどうするんですかね。まったく意味ないですよ」
ぶーぶー口をとがらせる桃ちゃん。
………まぁとにかくです、と桃ちゃんは締めくくる。
「皆さんも自分の持っている宝剣に満足せず、近い将来高価な自分用の宝剣を持つことをオススメします、ということで、今日の授業はおしまいですっ!」
そしてちょうどいいタイミングできーんこーんかーんこーん、とチャイムがなった。
「ではまた、夕方のホームルームで会いましょう!」
そう言うと、元気よく去っていった。
『………………』
残ったのは、疲れた顔でうなだれている生徒たちだけだった。
パニカルも、そろそろ最後が近づいている予定です!………予想外に長引かない限り。