料理対決! ……どころじゃなかったり
夕方、近くのショッピングモールで買い物をした。
休日っぽく、多くの人が来て賑わっていた。
「………なんでこんなことに」
「さあ?」
そんな場所で、俺は八巻と2人で歩いていた。
隣で八巻が頭を抱えている。
少し前のこと。
「買い物に行きましょう!」
すっごいノリノリで桃ちゃんがそう宣言した。
しかしそんな桃ちゃんに、野原さんはにっこり笑いつつも、
「それはかまいませんが、食品のバカ買いを防ぐために、私と枝理ちゃんで監視します」
有無を言わさぬ様子でそう言った。
「えー! 自由に買い物したいですよー!」
そうぶーたれる桃ちゃんだったが。
「い・い・で・す・ね!」
「………はい」
桃ちゃんを気迫でうなずかせた。
その迫力たるや、傲岸不遜な桃ちゃんですら引き下がってしまうぐらいだった。
それで、買い物は俺と八巻、桃ちゃん野原さん今井の2グループに分かれたわけだ。
「………それで、何を買うつもりなの?」
八巻は野原さんから預かったガマ口財布を手でもてあそびながら言った。
「サンマ」
俺は即答した。
「………他に何かないの?」
「男の料理にそれ以上期待するなよ」
「……そ」
八巻はがっくりと肩を落とした。
そして日が暮れ、俺たちは買い物を終えて寮に戻ってきた。
「料理をするからにはたくさんの人に食べてもらいたいですよねー!」
買い物から帰った直後。
桃ちゃんはにっこり笑いながら、超小型携帯(ボタン型)を取り出した。
その結果。
「どもー」
「……なんで私が」
なぜかD組の湊とエルがこの場に来ていた。
「料理勝負の審査をして欲しいんです!」
「いつの間にそんなことに?!」
八巻が愕然としていたが、甘いな。
流れ的にそうなるに決まってるだろ。
「勝負は3ポイント形式です」
桃ちゃんは人差し指を立てながら、心底楽しそうに言った。
「うまいと思った方に1点入れてください。先に3ポイント先取した人が勝ちです」
作りますよー! と桃ちゃんは腕まくりをした。
………俺も作るか。
俺も珍しく少しはりきりながら、寮の外に出た。
サンマを調理するために不可欠なもの。
倉庫に封印されているあるものを取り出すために。
1時間後。寮の食卓に俺、桃ちゃん、今井の作った料理が並んだ。
ケース 1 俺の場合
「サンマ焼きだ」
俺はそう言って胸をはった。
寮の外で、俺は七輪で、うちわ片手にひたすらサンマを焼いていたのだ。
サンマはフライパンで焼くよりこうした方がうまいのだ。
………が。
「……味がタンパクですわ」
「そやなー」
エルと湊が不満げにそう言った。
………あ。
サンマに塩まぶすの忘れてた。
ケース 2 桃ちゃんの場合
「ハンバーグー! 桃使用!」
「桃!?」
桃ちゃんは猫の形をしたハンバーグだった。
そのハンバーグは火が通っていたから、食べたら死ぬというレベルではなかったが。
「……あの桃。デザート用じゃなかったんですね」
しまった………と野原さんが肩を落とした
「ある意味すご! なんでハンバーグが甘いんや!」
「ふふふ……秘密です」
桃ちゃんが嬉しそうにそう言った。
………どーやったんだ、桃ちゃん。
ケース 3 今井の場合
「ふふふ………これこそまさしくカレー」
「カレーに謝れ!」
最後に今井が出したのは真っ黒カレーだった。
茶色ではなかった。
焦がしたのか? それにしてもこの黒さはないだろう?
「ぐっ………」
俺の言に言葉をつまらせると、
「しょうがないでしょ! 料理なんてほとんどやったことないんだもん!」
ちくしょー! と逆ギレしながら自分の作ったカレーをヤケ食いしようとする今井。
「だ、だめー! 落ち着いて!」
八巻がどうどうと今井を落ち着かせる。
………あれ食うと腹壊しそうだからな。
「うふふふ………」
「……なんですか?」
桃ちゃんが笑いながら俺に近づいた。
「投下!」
「むぐぅ!」
隠し持っていた黒カレーが入った皿を、俺の口につっこんだ!
「はいちゃいけませんよー!」
「むぐ、むぐごお!? (な、なんで!?)」
「せっかく作ったんですから、食べませんと」
だからって俺につっこむことないでしょう!?
「………仕方ないですね」
野原さんが妙に疲れた様子で立ち上がった。
時計を見ると、8時過ぎ。結構遅い時間になっていた。
「何か簡単なものでも作りますか」
「すでに私たちの夕食は食べる気なし!?」
ちょっとショック気味の今井。
「いやいや。食べる以前の問題やろ」
湊が冷や汗を流しながら言った。
「まったくですわ」
エルもなんか疲れた顔をしていた。
「く………ならリベンジですね!」
桃ちゃんが勢い込んで言った。
……が。
『止めて!』
その場にいたほぼ全員に止められた。
………てな感じで夜がふけていくのだった。
……実は、こういう平和なギャグっぽいのを書くのがかなり好きだったりします。