とある休日
フラグ争奪戦から数日後の休日の寮。
「ぷはぁ〜………」
「ぷはぁ〜………」
ぽかぽかした昼前、春の陽気に包まれながら。
俺と桃ちゃんは平和な顔で、のほほんとお茶を飲んでいた。
「緩みきってますねぇ……」
管理人の野原さんが苦笑しながら、こぽこぽと俺たちのお茶のおかわりをしてくれた。
「この時が、俺は一番生きていると実感できるんです」
セリフの割には頬を緩ませたままの俺。
「お茶がおいしいのがいけないんです〜」
「………まあ、悪いわけではないんですけどね」
笑ってバツが悪そうに頬をかきながら、テーブルについた。
「「ただいま〜!」」
ソフト部の練習帰りの今井と八巻が、玄関のドアを開けた。。
今井は元気そうに、八巻は若干疲れ気味に。
「おかえりなさい」
野原さんは椅子から立ち上がると、近寄って2人をねぎらうように言った。
「お疲れ様」
「うん、疲れたよ〜!」
表情からはまったく疲れた様子もないくせに、今井はそう言った。
「ほれ、魔ー、どけ」
「なんでだ」
顔はにっこりしたままで、今井がいきなりケンカをふっかけてきた。
「私は疲れてるの。だからどきなさい」
「や。ていうか座りたいなら他の椅子使えよ」
「そこが一番日が当たって気持ちよさそうじゃない」
確かに窓際だから日があたって気持ちよくはあるが。
「早い者勝ちという言葉を知らんのか?」
「譲り合いという言葉もあるわよ?」
「「………………」」
俺は無表情で、今井はひたすらにっこりしたまま見つめ合った。
周囲の気温が若干冷えてきてる気がする。
「………はいはい、麻衣ちゃん。今回はあなたが悪いんだから諦めなさい」
八巻がため息をつきながら言った。
「この場所は魔ーなんかにはもったいないと思うの」
「………それでも。変な争いで余計疲れたくないでしょ?」
「………ぶー」
今井は表情をいきなり不機嫌なものにすると、うらめしそうにこちらを見ながら他の椅子を取った。
「いい子ですね〜。争いは何も生み出しませんよ〜」
傍観していた桃ちゃんは、さっきから1つも変わらない緩みきった顔でそう言った。
………いや、そんな顔で言われても。説得力皆無ですよ。
『………』
平和なはずの休日の午後が、微妙な空気になっていた。
「あ、そうだ! これから夕飯の買い物に行くんだけど………」
野原さんが妙に明るく、若干目が泳いだ状態でそう言った。
この空気を払拭させようとする意図が丸見えである。
「何か夕飯のリクエストない?」
桃ちゃん、俺、今井、八巻が順に野原さんに視線を向けた。
「ハンバーグ!」
「サンマ」
「カレー!」
「………特に何でもいいけど」
みな好き勝手リクエストした。
「あう………」
冷や汗を流しながら、言葉をつまらせる野原さん。
「その中の1つにしぼってくれるとありがたいんだけど………」
「今日はジュージーなハンバーグがもの凄く食べたいんですよ!」
はいはい! と元気よく手を挙げながら全身で自己主張する桃ちゃん。
「日本人ならサンマです」
なんとなくサンマが食べたくなった俺はそう言った。
「スタミナつくのが食べたい! だったらカレーに決まりでしょ!」
今井がかみつきそうな勢いでそう言う。
「……けどさすがにみんなは無理でしょ」
唯一野原さんを気遣っている八巻が、呆れて肩を落としながら言った。
「無茶言わずに1つにしぼりなさい」
「ハンバーグ!」
「サンマ」
「カレー!」
「少しは譲り合うという努力をしなさい」
八巻は片目を瞑りため息をつきながら、じゃあ、と提案した。
「じゃんけんでもすれば?」
「「「いや!」」」
「………なら何か勝負でもして決めるとか」
「「「そんなの疲れるから論外」」」
「こなときだけ息合わせるんじゃない!」
あーもー! とやけくそのようにがりがり頭をかきながら言った。
「そんなに文句言うなら自分で作れ!」
「「「………」」」
俺たち3人は顔を見合わせる。
………自分で作る、か。
俺はそこそこ料理ができるし、自分の力を見せるという意味でも………結構面白そうかも。
他の2人はどう思ったのかは知らない。
だが、にやりと笑った。
「たまにはいいかもですね〜!」
「………そうですね」
「決まり〜!」
俺たちは一斉にその意見に賛同した。
「……こういうノリだけの突発企画、好きですねぇ」
野原さんが諦めたようにそう言った。
「え?」
八巻だけが呆然としていた。
そんなこんなで。
急遽料理大会が始まったのだった。
最近パニカルすぎたので、お休みです。