不可解な威力
「ちょ、なんであんなに強力なのが………」
「んー………」
下手したら先ほどエルが出したものより大きな竜巻を前に、俺はぽりぽりと頬をかいた。
竜巻はエルが出した氷とカマイタチをいとも簡単に吸い込むと、さらに膨張して勢いを増した。
「魔ー! 魔力のガス抜きできてるから大きいのは出ないって言ったのアンタだよね!?」
八巻が焦った風に俺に聞く。
「八巻の魔力はガス抜きが出きてるんだろうが………」
「じゃあなんで?!」
「俺が多少お前に魔力を分け与えたのも原因なんだろうな」
さっき八巻の肩に触ったときに、ちょっとな。
「んなことしてたのか! てかこれアンタのせいじゃない!!」
「半分はそうだな」
俺は生返事をした。
いくら魔力を与えたと言っても、魔力の練りがうまくいかなければこんなにでかいのが出るわけないのだが……………
今井といいこいつといい、大した実力もないのになんでこんなにでかいのが出るんだか。
「興味深い現象ですね」
「「桃ちゃん!」」
そこには自分を覆い隠すような巨大なシンバルを持った桃ちゃんがって………!
ジャアアアアアアン!
「「………!」」
鼓膜がしびれる。
近くで思いっきりシンバルを叩かないで欲しい。
桃ちゃんはいかにも「これ、一度は思いっきり叩いてみたかったんですよ〜!」みたいな満足な顔をして。
「タイムアップですよ〜!」
呑気にそんなことを言った。
………あー。もうそんな時間か。
時計を見ると、13時ちょうどになっていた。
「くっ」
少し離れた場所で、エルが悔しそうに地団駄を踏んだ。
………あーよかった。痛手はくらったが、それでもとりあえず乗り切ったな。
「んで? なんででかい魔法が出たか桃ちゃんわかります?」
俺は理屈で説明できない現象は、わりと気にする人間である。
「仮定でしたら話せますが………」
桃ちゃんはちらりと、血で赤く染まった俺の腹を見た。
「それより怪我の看護が先ですね。もとの空間に戻って、補助科E組の方たちに治療をしてもらいましょう」
「……了解」
感覚が麻痺してるのか正直あまり痛くないが、まあ治療してくれるというのなら普通に嬉しい。
「クロワイエ!」
桃ちゃんが手をかかげてそう叫んだ瞬間。
カァッ!
周囲に光が満ちた。
光が収まると、瓦解していた校舎は元通りになり、B、D組の生徒たち以外の生徒たちの気配もし始めた。
早いな。もうもとの世界に戻ったらしい。
「E組のみなさん〜! 治療を頼みます!」
『はーい!』
事前にこの時間に戻ってくると知っていたのだろう。中庭の辺りで控えていたE組の生徒たちが、争奪戦で傷ついた生徒たちを治癒し始めた。
「大丈夫?」
八巻たちの友人、E組の飯田千恵が駆け寄ってきた。
「ちょっと頭がくらくらするけど、私は大丈夫よ」
「そう、よかった」
「それより俺を………」
血が出っぱなしなのはあんまりいい気分じゃないんだが。
「麻衣ちゃんは?」
「どこにいるかは知らないけど、要注意人物のエルさんたちは私たちが相手してたから、たいした怪我はしてないと思う」
「そっか」
なんか無視されてる?
「おーい。重病人がここにいるんだぞー」
「じゃあ他の人たちの治療してくるね」
「………意地悪しないで魔ーを治療してあげれば?」
「……………」
飯田はちらっとこちらを見ると、プイッと顔を背けた。
「………おーい」
治療はー?
「………魔ー、千恵に何かしたの?」
「知らん」
ほんとに、何かした覚えなんてないし。
しばらくそっぽを向いていたが、ちらりとこちらの怪我を見ると、しょうがなさげに手元から救急箱を取り出した。
「………いや、魔法使えよあだっ!」
「治癒魔法は身体の自然治癒力をあげているだけですから。魔法に頼らない方が本当はいいんです」
しれっとそう言いながら、傷口に消毒液をあてる。
「あでっ!」
………さっきまでよりめちゃくちゃ痛いんだが。
俺の痛みなんかどこ吹く風で、普通に治療を続ける飯田。
「………ま、いっか。それより桃ちゃん」
八巻がため息をつきながら桃ちゃんの方を見た。
「何ですか?」
「あんな大きな魔法が出た理由を教えてくれませんか?」
「んー、あくまで推論なんですけど」
桃ちゃんはどこから出したのか、しぼんだ風船を取り出した。
「魔法をこの風船に例えますと、このしぼんだ風船全体が呪文で、息を吹きかけることが魔力を入れることです」
そう言って、ふーっと風船を膨らませようとする。
………ちょっとしか膨らまなかった。
「………」
若干泣きそうな顔で俺の顔を見る桃ちゃん。
……一応俺、怪我人なんですが。
「………私がやりますよ」
隣の八巻が、桃ちゃんの代わりに風船に息を入れ始めた。
……まあ、それはともかく。
「ありがとうございます、枝理ちゃん。この膨らんだ状態が魔法が発動した状態だと考えてください」
桃ちゃんはぽんぽん風船をもてあそびながら言った。
「魔法にどれだけ魔力を練り込めるか、つまりこの風船にどれだけぎりぎりまで息を入れられるか、それが魔法の強さを左右すると今まで考えられてきました。それは正しいですし、否定する要素はありません」
が、と言いながら懐から別の風船を取り出した。
八巻がため息をつきながら、また膨らませる。
「今までは同じ呪文であれば、誰でも条件は同じ。つまり風船自体はみな同じだと考えられてきました」
八巻が風船を膨らませ終える。
その風船は、先ほどの風船と同じデザインだったが、さっきより一回り大きかった。
「しかし私の仮説は、例えば普通の人の風船が私の持ってるこれだとすると、八巻ちゃんの風船は八巻ちゃんの持ってるそれかもしれない、ということです」
「………つまり?」
「同じ呪文でも、誰が唱えるかによって魔力を練り込められるキャパシティが違うかもしれない、ということですよ」
つまり、同じ呪文でも、人によって全然威力の違うものになりえるってことか。
うわ、なんか卑怯くさ。
「魔法のセンス、というものですね。この世にはもしかしたらそういうものが存在するのかもしれません」
「魔法のセンスか………」
俺にはまるっきり縁のなさそうな言葉だな。
「あ、そうだ」
そう言うと、桃ちゃんはくるりと踵を返した。
「どこ行くんですか?」
「図書館です。あなた方が入ってしまった地下室のセキュリティを強化してきますよ」
意地でも誰にも入れないようにしますよーと桃ちゃんは笑っていた。
……おまけに言うと。
優勝者は俺たちでもなくエルたちでもなかった。
いつの間にか旗を8つも持っていた、今井麻衣のチームだった。
「………えーと、なんで?」
俺たちがエルたちを相手している間に、他の一般生徒たちからフラグを奪ったからだ。
漁夫の利である。
………なんか無理矢理まとめた感がしますが。
とにもかくにも次からはいよいよ全クラス対抗籠城戦! ………の前のちょっとした小話に入る予定です。