魔ーの反撃
キアアアア! と嫌な音を立てて氷と風の刃が迫る。
……………やば。
視界を埋め尽くす氷の礫と不可視の風が同時に襲ってくるのだ。
さすがに対処不可。
キィン!
とりあえず巨大な氷の固まりだけは刀で破壊し、残りは身体をひねって避けようとするが……
ズブッ
「ぐっ………」
みぞおちにカマイタチが突き刺さった。
そして全身に擦り傷ができる。
痛みで剣を持っていられなかったため、カラン、と手からルミナスの剣が地面に落ちた。
氷と風の刃はコンクリートの道路をえぐり、街路樹を切り裂いてようやく止まる。
「あと5分ですよ〜!」
校内放送で桃ちゃんの呑気な声が聞こえた。
……あと5分もあるのか。
俺は身体をくの字に折り曲げ、ぽたりと腹から流れる血を腕で止めるので精一杯だった。
「せめて楽に気絶しなさいな」
ふわりと飛び上がったエルが、大陽を背にとどめの一撃を放った。
ズアッ
俺に向かって木の杖が振り下ろされる。
……これ以上痛手をくらってたまるか!
「え……」
俺は一歩踏み込むと、血だらけの右手をエルに向かって突き出した。
バクンッ!
魔力により肉体強化した俺の拳が、エルの腹に刺さった。
「く……は…………」
ざまーみろ。慣れてねーくせに接近戦なんてするからだ。
こっちの腹の痛みを少しでもわけてやる!
「お嬢様!」
すぐさまメイドが飛んでくる。
「大丈夫」
腹を押さえながらエルはこちらを睨んだ。
「はぁっ!」
今度はメイドが変に曲がった東洋風の剣を片手に襲いかかってきた。
だが、このメイド。
スピードやパワーは十二分にあるのだが、ぶっちゃけ攻撃が単調で避けやすい。
つまり怪我しててもこの程度の攻撃、どってことはない。
「く………この!」
ビュン! と当たったらかなり痛そうな風音が俺の横すれすれで聞こえた。
そして同時に。
ビリッ!
「………は?」
妙な音が聞こえた。
危機感を覚えて思わずバックステップする。
「ふ、ふふふふ………」
そこには何かキレた表情をして、体中に電撃を帯びているメイドがいた。
……なるほど。あの宝剣の能力は電撃か。
なんと危ない能力だ。
「ふっ!」
電撃を帯びて、電球みたいに明るくなった状態で襲いかかってくる。
ビリィッ!
避けると、聞きたくなかった凶悪な音が耳元で聞こえてきた。
「はぁっ!」
気合いと同時に刀を降ると、
「うわっ!」
チュイイイイイイン!
レールガンのような一撃が俺を襲った。
かっこ悪くしゃがんで避けると、電撃が後ろにあった校舎に当たる。
ビキバキィ!
と音を立てて校舎に大穴が開いた。
「………おいおい」
俺、下手したら死んでたのでは?
教訓。メイドを怒らせてはいけない。
………じゃなくてだ。
メイドこわ! どーしよ。
「………」
メイドは微かに溜飲を下げたらしく、薄く笑うと後ろに下がった。
………このパターンはなんか嫌な予感がする。
「………げ」
遠目でエルの方を見ると、やっぱりというか。呪文の詠唱をしているのが見えた。
さすがにあの中級呪文をもう一度くらったら、ただですむ自信がない。
「………あ」
ちらりと俺の視線の隅に、壁に手を当て頭をくらくらさせながらも、ふらふらこちらに移動している八巻が目に入った。
いーところに来た!
俺はダッシュで八巻に近づいた。
「ヘルプミー」
「え、きゃあ!」
俺は八巻の肩に手を置き背中に回ると、強引に身体をエルたちの方に向けた。
「フロイズトルネスト!」
呪文が完成したらしく、先ほどの中級呪文が俺たちに向かって発射された。
巨大で鋭利な氷礫がカマイタチと共に襲いかかってくる。
「ちょ………あああヴェ、ヴェナールウィンディ!」
戸惑い混乱しながらも、八巻はルミナスの剣をそれらに向けてウィンドを唱えた。
瞬間。
ヒュオオオオオオオ!
目の前を巨大な風の渦が支配した。
「「な!?」」
エルとメイドの驚きの声と同時に、氷とカマイタチが竜巻に吸い込まれていく。
「あ……」
唖然としながら八巻がそれを見上げた。
それは図書室を半壊させた、あの巨大な竜巻であった。
次でフラグ争奪戦終わる予定です!