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パニカル!  作者: タナカ
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弾丸の雨


―― 委員長SIDE ――


 『やってみる』


 自分がこの言葉を発する時は、誰もやりそうにないことに対して、お節介にも自分がやろうと言い出すときがほとんどだった。

 こういう時は、少し面倒だとか、言ってみたけど達成が困難だとかいう理由で、浮かない気分になることがほとんどだった。

 しかし、先ほどこの言葉を自分で言って、かなり驚いた。

 自分が今までになくわくわくしていることに。


 ……流れ弾の処理なんて、普通に考えたら無茶苦茶だ。

 ルミナスの剣で確かに身体能力は強化されるけど、それでもやはり身体は弱い人間の僕のままなのだ。

 弾丸を処理するなんて、視力などさまざまな身体能力がついていかない上に、怖い。

 これですくまない方がおかしい。

 そうだ。怖いんだ。

 ……だけど。

 さっき「どうにかなる」と言われて。

 それで本当にどうにかなるかもしれない、と思ってしまった。


「………はは」


 らしくないなぁ。

 そう感じながらも、僕は心が沸き立つのを感じていた。











 廊下のT字路の影に、俺たちは隠れていた。

 目の前を弾が降りしきり、教室の壁は無残にもでこぼこ穴が開いている。

 そしてドガガガガガガ! とひっきりなしにうるさい銃声が聞こえてきた。

 ……ここ、本当に学校だよな?


「ぐはははは! いけぇ弾丸よ! わが夢をのせて!」

「坂木! なんか狂ってるぞ!」

「坂木と呼ぶな! 長官と呼べ木村二等兵!」

「なんでだ!?」


 みたいな会話も混じって聞こえたが。


「よっしゃ! いくでー!」


 湊は元気よく言うと、背中からスキュアの杖を取り出した。

 どちらかというと小さ目の杖なのに、湊が持つと巨大な杖に見えた。 


「クロワシリエ、モンティコル!」


 湊は宝玉がついている杖の先端を地面に向けるとそう唱えた。

 その場から人間大の光の結界がにょきっと出てくる。


「おっしゃ!」


 いい出来だったのだろう。ガッツポーズをとった。

 ……まぁ四六時中元気なヤツは置いといて。

 俺は委員長と八巻のいる方へ向き直った。


「銃は魔力をほとんど帯びてないから、結界が完全に破壊されることはないだろうが……。

 穴は開くだろうな、普通に」


「………これってどれくらいの強度なの?」


 八巻が不思議そうに結界を見ながら言った。


「湊がこめた魔力の量によるが、恐らく警官隊が持ってそうな盾と同じくらいだろ」

「……これさえもつらぬくの、あの弾」


 八巻はげんなりとしていた。


「エアガンを改造しまくってるみたいだからな。それに無意識だろうが、弾丸にも多少魔力が入れこまれてる」

「ねぇ、魔ー。これもう少し強化できない?」

「無理だ。これしかないんだからしょうがねーだろ。それと他人事(ひとごと)みたいに言ってるがな、八巻にも協力してもらうぞ」

「え?」


 八巻はぽかんと口を開けた。

 完全に傍観する気だったな、コレは。


「湊の作った結界はあのままじゃほとんど動かねーからな。『ウィンド』で湊の結界を押し出してもらう」

「ウィンドで………………いや、けど」


 八巻は僅かに顔を伏せた。 

 背中にある剣を右手で少し触る。 


「前みたいにとんでもなく大きな竜巻が出たら……」


 ……うーん。確かにその心配も多々あるんだが。


「1度でかい魔法を出してるからな。ガス抜きができて、今度はあんなに大きな魔法はでないだろ。それに魔法をきっちり使いこなし、コントロールできてこそ魔法使いだろうが」 

「うぐ」


 悔しそうに言葉をつまらせる八巻。


「ま、どうにかなるだろ」


 それにどうにかならなくても、勝てませんでした、ドンマイ。で終わるしな。 

 八巻は俺を半眼で見据えた後、苦笑している委員長の方を向いた。


「……委員長」

「え、なに?」

「怪我したら絶対、魔ーに治療費と慰謝料払ってもらいましょうね」


 目がマジだった。


「………そ、そうだね」


 委員長はひきつった笑いしか返せなかった。  











「へいへいへい! ピッチャーいったるで――!」


 無意味に野茂みたいな投球フォームでかっこつけながら、湊は杖を結界に向けた。

 結界はずずず、と僅かに動くと、壁にぴったりとくっついた。

 スライドして廊下に出易いようにするためだ。


「5秒数える」


 俺は3人に計画を説明した。


「湊は0と同時に結界を廊下に出せ。八巻はそれと同時にウィンドを放て。委員長はウィンドと同時に結界の後ろから追随。あたったらこいつらみたいになるから気をつけろ」


 俺は床に転がってのびている生徒(たぶんB組)を指差した。


「俺らには防御魔法がかかってるらしいから重傷にはならんだろうけど、たぶん骨の1,2本はいくぞ?」

「き、気をつける!」


 気を震いたたせようと、委員長はけなげに拳を握りしめた。 


「それじゃ、いくぞ。5」


 「え、もう?」と委員長が慌てながらも構える。


「4」


 八巻がルミナスの剣を片手に、ごくりと喉をならす。


「3」


 湊がスキュアの杖を上段にあげ、構える。


「2」


 八巻が廊下を見ながら「ヴェナール……」とウィンドを唱え始める。


「1」


 3人の顔が強く緊張を帯びた。 


「0!」


 瞬間。

 全員が一斉に行動を開始した。

 








 それは一瞬のできごとだった。

 湊の結界が弾の飛び交う廊下に出る。

 そして「ウィンディ!」と叫んだ八巻の手から、竜巻状の風が銃を乱射している奴らに向かう。

 その風が結界を彼らに向かわせ、同時に後ろから委員長が疾走する。

 その間に2発の弾が結界を貫通。委員長に襲いかかった。

 1つは頭に、1つは胸に。


「……!」


 委員長はほぼカンだけで頭に来た1発目をよけ、2発目はとっさに剣をひきよせて刀身に弾をあてた。


 チュガァン!


 耳ざわりな音が聞こえた。

 しかし、到達した。


「な……!」 


 そしてそのまま驚き硬直している、名もなき4人の生徒たちに向かって、剣を振り上げる。


 ドガッ!


「ぐっ……!」


 小さな悲鳴をあげ、彼らは昏倒した。



 





順調にフラグゲット!

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