魔力のコントロール
スパァッ!
切れ味のいい刃が、体育館を結界やバリケードごと斜めに切った。
いやもう綺麗さっぱりと。
「………うわ」
一応約40人分の結界とバリケード(ついでに体育館)を、10人にも満たない人数で破壊できるとは。
………女って怖い。
『おわあああああああ!』
体育館の中では阿鼻叫喚が広がっていた。
結界は破れ、体育館は地震時の欠陥住宅みたいに崩れ落ちて行く。
ズドオオオオン! という体育館の断末魔と共に、粉塵が巻きあがる。
「………あれ、まずくない?」
「だよねぇ」
今井と八巻が口に手を当てながら言った。
すると今井の手の中にいたキツネの着ぐるみを着たミニ桃ちゃんが言った。
「コノ争奪戦ノ参加者ハ皆、カンイ防御魔法ニ守ラレテルカラ大丈夫!」
いつもの桃ちゃんの声よりさらに高い声で、機械音声みたいだった。
「………タブン」
「ちょっと不安なんだけど!」
ミニ桃ちゃん(キツネver)の言葉に、不安そうに粉塵につつまれた体育館を見る八巻。
……だが。
「バカな! 俺たちが数時間かけて作り上げた結界やバリケード(ついでに体育館)を、こうもあっさり!」
「連邦のモ●ルスーツは化け物か?!」
存外元気そうな声が、崩れ落ち瓦礫となった体育館の中から聞こえた。
……さすがにしぶといな。この学園の生徒は。
「バカ言ってる場合!? いいからもう少しもたせなさい!」
さらに瓦礫からひときわ元気な赤毛ツインテールが、どかんと現れた。
「どうやってですか!」
「身体はれ!」
「んな無茶なあああああ!」
とあるD組女子に足蹴にされ、半泣きしている男たち。
……なんか不憫に見えてきた。
「ふふ……」
エルは持っていた杖を掲げ、凄絶な笑みを浮かべた。
「ヴェナール、ウィンディ!」
『うわああああああ!』
神速のカマイタチが、生き残っていた男子生徒たちに襲いかかる。
「ぐふぅっ!」「ぎゃあああ!」とかカマイタチをくらった生徒たちがそこらかしこで悲鳴をあげる。
しかし見たところエルは全員気絶させるだけ、大事には至らせていない。
威力だけでなく、魔法のコントロールがいい証拠だ。
「よく見とけよ〜。あれが正しい魔力コントロールだから」
「「うぐっ」」
まだまだそこら辺が下手な今井と八巻が声をつまらせた。
「やっぱうまいなーエルっちは」
『風と踊る男子生徒たち』みたいな名前になりそうな地獄絵図を見ながら、湊がほへーっと感心した。
「ウチが『ウィンド』を使うても、適当な大きさの竜巻にしかならへんのに」
「ま、湊があれを使えるかどうかは、これからの努力次第だろうな」
初級呪文も、使い方によっては千差万別に変わる。
この『ウィンド』を例にとれば、八巻や湊が出す竜巻やエルの使っているカマイタチの他に、大風や圧縮した風の塊なんかも出せる。
ようはコントロール次第ということだ。
これは魔力の総量や回復力みたいな才能が左右するものではなく、どこまでその魔法を使ったか、という経験が問われる。
エルもただのお嬢様に見えて、魔法の習得に関しては意外と努力しているらしい。
「鈴木よ……お前の死は無駄にしない」
洋太がなむなむと念仏を唱えながら、中にいるD組男子の1人に向かって手を合わせた。
「ノーム、クェイカリズン!」
初級地術『ノーム』によって、男子生徒たちの前に巨大な土の壁ができあがった。
ことさら元気だったD組女子の赤毛ツインテールが作ったのだ。
「助かったぁ!」
壁の向こうで、男どもがほうほうの呈でその女子にすがりつこうとする声が聞こえたが……
「ええい! 役に立たない男どもね!」
「ひどぶっ!!」
……なんか余計にひどい目にあわされているようだ。
なむ。
「ヴェナール、ウィンディ!」
エルがいとも簡単にその壁を風で破壊する。
その先には、男たちを足蹴にしながらふんぞり返っている女がいた。
「おー、杏子やん」
「別名2−Dの炸裂弾!」
顔なじみらしい湊と宮西が楽しそうに言った。
「エル!」
杏子とやらが右手に持ったスキュアの杖をエルにつきつけた。
「しょうぶおわっ!」
前口上の途中でエルが『ウィンド』を杏子にぶつけた。
「危ないじゃないの!」
「隙だらけでしたので」
エルは悪びれた様子がまるでなかった。
「さすが外国人。『変身中は隙だらけでも決して攻撃をするな』という日本の雅をまるでわかってないな」
「………それ、日本の雅とちゃうやろ」
湊がなんかつっこんできたが、無視。
そうこう言ってる間に、エルが出した無数のカマイタチが杏子を襲う。
「ノームクェイカリきゃあああああっ!」
あー。
呪文詠唱の途中で、杏子はエルの風に飛ばされた。
「……いっつもあーやって飛ばされて負けとるんよ」
「へー」
杏子はそのまま体育館の中心部分にまで飛ばされたが………その瞬間。
カァッ!
そこで強力な魔力光が発生した。
なんか最近、キーボードの調子が悪くて困ってます。