団結された!
「本日は、まずは前菜としてホタテ貝の……」
いつの間にかエルの傍にはメイドが現れ、給仕をしていた。
「………湊さんも召し上がればいいのに」
「いやー、ウチには野原さんが作ってくれたお弁当があるから」
湊とエルは中庭のど真ん中で、どこぞのイギリス貴族みたいな食事をしていた。
そんな中で俺は呆然として傍でつったっている。
「………いろいろつっこみたいことはあるがとりあえず1つ。どっから出した」
なんだか本当に全部が全部どっから出したって感じだ。テーブルとか明らかにおかしいし食い物なんか一瞬で出てきたにしては作りたてのような雰囲気すらある。おかしすぎるだろ。
「お静かになさってくださいません?」
エルは紅茶を片手に飲んでいた。
「いやだけど無視していいことじゃないだろ」
「メイドの特殊能力ですわ」
「……それ、説明になってない」
「まーやん。せやから、気にしたら負けやって」
「俺の常識が音を立てて崩れていってるんだ。せめて納得できる説明をくれ」
「ヨルフェ………いえ。この者は、ですね」
エルは近くで恭しく控えていたメイドに目線を向けた。
「代々続く歴史あるメイドの家系である、スーヴァイト家の者です。スーヴァイト家は代々メイドとしての能力を極限まで高め、通称『メイドのたしなみ』という技術まで確立した由緒ある家柄ですの」
「なんだそれは」
常識はどこに行った? メイドのたしなみ? 率直過ぎてわけ分からんぞ。
「……と、そういうことですわ」
「いや説明になってないから」
「つまり私が行う全ての技は、このメイドのたしなみに則っているわけです」
傍に立っていたメイドが補足した。
「メイドは主人が欲すなら何でも行うことが慣わしです。例えば旅先で主人がお腹をすかせてしまったとき、食事の一つも準備できなくて何がメイドですか。ですから、このような真似など朝飯前なのです」
「……いいのか。それで本当に常識が曲がってしまっていいのか」
「メイドとは、そういうものなのです」
まるで当然だといわんばかりだった。
………心底なんなんだ、メイドって。
そうこう言っていると、俺も腹がすいてきた。
「物は相談だが………」
「ダメです。これはお嬢様の食事ですから。あなた様はご自分が持ってきたお弁当でも召し上がってください」
「…………」
メイドにすげなく断られた。
……………ちっ。まあいい。
野原さんの弁当の方がおいしいし。
そう結論づけると、俺は弁当を取りに半壊した図書館まで歩いて戻った。
――― 谷口湊 SIDE ―――
あー、まーやん。微妙に背中がすすけとるなー。
「……あの方と同じチームなのですか?」
「ん? 一応そやけど」
私は首を傾げると、エルっちは持っていたティーカップを置いて、こっちを見た。
「湊さん」
「……ん、どした?」
「私と手を組みませんか」
「え……?」
思っても見なかった言葉に、ウチは2、3度目を瞬かせた。
「なんで? エルっちやったら、別にウチと手を組まんでも……」
エルっちはD組では群を抜いて優秀だ。
魔術科の厳しい精神修行の中でも、1人だけ涼しい顔して受けていた。
胸おっきいし尻はぷりっぷりやし、からかうと結構おもろくて、ウチの前では超かわいいん
やけど……
「………実はですね」
エルっちはため息をつきながら話し始めた。
――― 八巻枝理 SIDE ―――
「体育館で立てこもり?」
「そう!」
2−Bの教室で麻衣ちゃんが米粒を飛ばしながら言ってきた。
「しかもB組とD組の約半数が!」
「アハハ! すっごいよねー!」
D組の友達でチア部の、宮西鞠乃がのんきに笑っていた。
頭の片方をくくってて、エビ尻尾みたいでかわいいんだけど……。
ちょっとノーテンキなのが玉に傷だったりする。
「笑いごとじゃないよ!
体育館の入れそうなところは体育道具とかの物理的バリケードや結界で中々入れないようにしてるんだよ!
どうしろっての!」
「根性だよねー!」
「だから笑いごとじゃないって!
でね、それを破るために一時共闘したいんだけど……」
「それは構わないけど………」
確かにそこまでの生徒たちに団結されたら、こちらも団結しなければ手はないけど………
「やったーありがと!」
「みんなアメリカに行きたいか―――! おー!」
「うるさい! てかわけわかんないよ!」
「………どうしてそんなことに」
鞠乃と麻衣がぎゃいぎゃい騒いでる中で、私は1人思案した。
午後からのフラグ争奪戦に備えてだろうけど………
普通は勝ちたければ情報収集をするか訓練するか、とにかく自軍のチームを強化した方が効率的だ。
確かに団結すればそれだけ勝率は上がるだろうけど、今回勝つのはただ1チームだけ。
ゆえに団結して仮に生き残れたとしても、その後の仲間の裏切りが一番怖い。
そのリスクを犯してまでも、半数の生徒たちが団結した………
「……なんでそこまで」
「そこまでして学食1年間食べ放題券をゲットしたいんだよ!」
麻衣のチョークスリーパーにびくともしてない様子で、鞠乃が笑った。
「………そこまでしているものかな? あれ」
いつも私たちは野原さんのお弁当で慣れきっているため、目の色変える理由がわからなかった。
「学食利用の生徒たちにとっては、まさに垂涎の一品だね!」
「………あ、そう」
そういうものかしら。
「それに、私たちD組には化け物がいるからね!」
「化け物?」
麻衣が不思議そうに聞いた。
「そう、あれはまさに化け物! あれに勝とうっていうのは並大抵のことじゃないよ!」
「……誰よ?」
私が聞くと、ふっふーん、と鞠乃は自慢するように言った。
「エル・フォルセティアさんって言う人なんだけど。フォルセティアグループ会長の愛娘にして、その実力は将に天下一品!」
「へー………」
フォルセティアグループか。
石油や鉱物などの天然資源や新技術の開発で大当たりしたグループだ。確か。
「その別名がね………」
うふふふ………と鞠乃は不気味な笑いをした。
「『風神』っていうの」
「………なんだろう」
なんか置いてけぼりくらってる気がする。
「どうしたの、魔ー?」
「いや別に」
俺は半壊して風通しのよくなった図書館で、坊主委員長と2人で寂しく弁当をつついていた。
いやーやっぱうまいね野原メシは。
「………物は相談だけど」
委員長はうらやましそうに俺の弁当を見た。
「野原メシはやらんぞ」
「うっ………」
委員長はがっくりと肩を落とした。
パニカル! 掲載してから一ヶ月記念――!
ということでみてみんに、真面目少女八巻枝里のイラストをのせました。
下記URLよりアクセスできます。
http://108.mitemin.net/i406/
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