エル
「そろそろ昼飯か」
中庭で、真上に来ている太陽を見ながら俺はぽつりと言った。
腹減った。つかれたから余計に、だ。
「そういやウチもお腹すいたなぁ」
湊は腹をさすっていた。
「お茶飲んで、丁度おやつを食べよ思うたところに、どーんときたからなぁ」
「私は麻衣ちゃんたちと一緒にお昼するつもりなんだけど………」
そういう八巻の視線の先には、なぜかじとーっとした目でこちらを見ている今井、その他女子数名がいた。
「一緒に食べる?」
「あー、ええよええよ」
からからと、小柄な身体全体を使って笑った。
「ウチも一緒に食べる友だちおるし」
「へー」
そういやそうだよな。
こいつは結構社交的な性格だし、一緒に昼飯を食べるような仲のよい友人がいたって不思議じゃ………
「ちょ、ちょっと失礼。湊さん」
「「ん?」」
俺と湊が声に反応して呟くと、そこには金髪で長身のやたらと綺麗な人がいた。
きつい印象を与えるつり目を湊に向け、顔は恥ずかしそうにそらせていた。
………誰だ?
「お、エルっち」
おーっす、と湊は親しげな挨拶をした。
「へ? お、おっす?」
エルっちとやらはめんくらった様子で言葉を返した。
………ほんとに親しいのか、コイツら。
「ちょうどええ、紹介するわ」
湊は俺や八巻の方にくるり向くと、嬉しそうに手を広げた。
「ウチの友だちでエルっち」
「え、えーと」
突然友だちとして紹介されたせいか、顔を赤くして慌てていたが、はっとすると2度3度すーはーと深呼吸した。
そしてさきほどの困り顔はどこへやら。にこりと上品に微笑んだ。
「………エル・フォルセティアと申しますわ。皆さまよろしくお願いします」
お嬢さまみたいにスカートのすそを持つと丁寧に頭をさげた。
………さっきまでの慌てっぷりを見てなかったらもう少し素直に綺麗だなとか思えたんだろうが。
今は違和感しか覚えん。
「一緒に飯食おーゆうて誘いに来てくれたんやな! ありがとーエルっち!」
嬉しそうに言うと、湊はがばっとエルに抱きついた。
「ちょ、ちょっと湊さん……あ、あん!」
「ん〜! お肌すべすべや〜!」
なんか顔をすりすりさせたり尻揉んだりとエルにセクハラしだした。
「………湊。自重しなさい。公衆の面前よ」
八巻が恥ずかしそうに注意するが。
「ん〜? スキンシップ〜!」
てな感じで全然聞き入れなかった。
………少しはその親父癖自重しろって。
しかしまあ、本当に友人同士のじゃれ合いにも見えるので無闇に止めることもできず。
湊の荒い息と、ときおり聞こえるエルの喘ぎ声の饗宴が続き。
………5分後。
「ぷはぁ〜!」
「はぁ………はぁ………」
肌をつやつやさせて元気になった湊とぐったりとしたエルがそこにあった。
「はぁ………あたし行くね」
「おう」
八巻が呆れ眼で2人を見ながら、今井がいる教室に行ってしまった。
「んじゃまエルっち。ウチらもご飯にしよか」
「そ……そうですわね」
微妙に声を震わせながら、エルは言った。
………俺も飯食うか。
「おい湊。俺もお前も荷物図書館に置きっぱなしだろ」
「あー、そやな」
「特別に持ってきてやろうか?」
「ご心配には及びませんわ」
エルはさりげなく髪を整えた後、ぱちりと指をならした。
ザッ
………………え?
「湊さん。不調法な場所ではありますが、ここで食事に致しません?」
「んー、そやな」
「………いや待て」
ここ中庭のど真ん中である。
ここで食事をするなら、弁当箱かバスケットでも広げてうふふあはは、がまぁ普通の食事のはずだ。
………が。
エルが指をならした瞬間。
なぜか瞬時に湊の荷物が現れ、そして同時にテーブル、キッチンクロス、ティーカップ、ポットetcが取り出されていった。
………何だこれ。
「…………まーやん」
ぽん、と湊が肩に手を置いた。
そこには何か悟りを開いたような目をしていた。
「気にしたら負けやねん」
「……そうか」
俺はそうとしか言えなかった。
お嬢さまキャラ、エル登場!
湊ともどもよろしくお願いします!