魔法の危険性
まったく今井といい八巻といい、どーしてこうも極端に強力な魔法を使うかねー………
俺は八巻の風魔法で突如発生した竜巻にのってフライハイしながら、そんなことを考えていた。
「きゃあああああ!」
魔法を使った八巻本人すら、空中で悲鳴をあげている。
「うぎゃああああ!」
「きゃあああああ!」
巻き添えをくった委員長や湊が、なんか不憫だ。
八巻が作った竜巻は、図書館の中央の吹き抜けの中を一直線に巻きあがり、天井を破壊した。しかしそれでもまだ力が衰えた様子はない。
………どうしよう。
このまま落ちたら普通に怪我するぞ。
どうやってこの竜巻から離脱しようか考えていた時に。
「ヴェナール、ウィンディ!」
竜巻の外側からそんな声が聞こえて。
ビュオッ!
断末魔のように最後に一層大きな風音をたてて、荒れ狂っていた竜巻が嘘のように消えてなくなった。
「まったく………」
俺たちの背後には真中がすっぽりなくなった図書館があった。
中庭に無事着地した俺、湊、八巻、委員長は芝生の上に正座させられていた。
他の教室にいる生徒たちの好奇の視線が痛い。
そして目の前には竜巻を消した張本人、桃ちゃんが仁王立ちしていた。
心なしかツインテールが逆立っている気がする。
「なんでこんな危ないことしたんですか!」
「「ひいぅっ!」」
巻き添えをくっただけの湊と委員長が、その剣幕にすくみあがる。
ちなみに犯人の八巻は、下を向き表情が前髪で見えなくなっているが、微動だにしていなかった。
「魔法は使い方を誤ったら非常に危険だってこと知ってるでしょう!? 偶然私が近くにいたからよかったものの、あんなのすぐに消さなきゃ今ごろあなたたち大怪我ですよ!」
うあー………珍しく桃ちゃんが普通に怖い。
変なところで過保護だよな、桃ちゃんは。
「湊ちゃんですか! あんな大災害作ったのは!」
「い、いえいえ!」
この場であの竜巻が唯一作れそうな湊に目線を向けるが、湊はぶんぶんと首を横にふった。
「あー、あのですね桃ちゃん」
「魔ーくんですか!」
ぎろん、と桃ちゃんににらまれる。
「………半分アタリで半分ハズレです」
俺はヒートアップしている桃ちゃんをどうどうとなだめる。
図書館の地下室のことなど、今までのことをかいつまんで説明した。
「………あそこに入ったんですか」
桃ちゃんは困ったように頭を押さえた。
「なんなんですか、あそこは」
「この図書館の書庫みたいなものです。
例えば唱えただけで相手を死においやる呪文を記した魔導書、なんてものがあったら取り扱
いに困るでしょう?」
「………そんなものがあるんですか」
「ええ。そうしたあっては困るけど捨てることもできないような本や武器があそこにしまってあるんです。
………隠しボタンと暗証番号、ついでにブービートラップまでしかけたのでそう易々とあそこに入れるわけないんですが…………」
「………偶然入れてしまった、と。そういうとこは普通にカギかけましょうよ」
「あそこは学園の重鎮しか知らないような秘密の場所ですから、おおっぴらにカギなんて作れませんよ。
それに作れたところで今のご時世、カギなんてすぐ複製されてしまいますから。
ですが………すみません、今回はこちらにも落ち度がありましたね」
桃ちゃんは落ち込んだ様子だったが、どうにか怒りはおさまったようだ。
鬼神桃ちゃん。できれば2度とおこすまい。
「あそこのセキュリティはもう誰も入れないようにこちらで強化しておきます。みなさんはこれからお昼を食べて、午後からのフラグ争奪戦に備えてください」
それに………と頬をぽりぽりかきながら言った。
「せっかく枝理ちゃんが初めて魔法を使えたんですから。これ以上お説教するのはさすがにいけませんね」
「え………」
今まで下を向いてた八巻が顔をあげた。
………あ、微妙に目が赤い。
どうやら責任を感じて半泣きしてたらしい。
「おめでとうございます、枝理ちゃん。これであなたは立派な魔法使いですよ」
「あ…………」
「これからも精進してくださいね」
桃ちゃんは微笑むと、半壊した図書館の処理をしに走り去っていった。
次回! B組とD組のフラグ争奪戦スタート!