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パニカル!  作者: タナカ
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放課後の1シーン





 夕方の教室に、キーンコーンカーンコーン、と放課後のチャイムが鳴る。

 桃ちゃんは教壇の横(桃ちゃんより教壇の方が高い)で教鞭代わりに、小刀の形をした宝剣を振り回しながらにこやかに言った。


「はい! それではホームルームはここまで! 皆さん、明日までにはきっちり体力と気合を回復させといてくださいねー!」


 その声を皮切りに2−B生徒ほぼ全員がどたどたどたっ!と崩れ落ちた。

 気力と体力の限界が来たらしい。


「2年B組〜………ふぁいっ……」

『おおー………』


 洋太が机にもたれかかりながらそれでも根性で言ったおふざけに、同じくへたり込みながらノリよく、しかしへとへとで答える生徒たち。


 ま、なんというか、ごくろうさん。


「失礼しま〜す……………………うわ」


 2年E組所属、苦労人、飯田千恵が教室に入ってきた。

 昼休みのときよりさらにグレードアップした2−Bの空気の悪さに、入った途端に顔を引きつらせる飯田。

 それでもおっかなびっくり教室の中を移動して変わり果てた親友、今井麻衣の傍に立った。


「あの………麻衣……………?」

「……………」


 今井のアホ毛が力なく垂れ下がっている。ただの屍のようだ。


「あう……」


 飯田は手を胸のあたりに当てたままオロオロしている。

 ………しばらく待ったが、飯田が今井に話しかけられる様子は無かった。


「………はぁ。どうした?」

「あ、あのね!」


 ぱあっ! と表情を明るくすると、背中に背負ってあった杖を取り出した。

 それは杖の形をした、飯田の宝剣だった。


「今日、補助系呪文の初歩として、『リフレ』を習ったの」


 ここで補足説明をしておくと、俺たちはクラスによって学ぶ授業が違う。


 2年A組とB組は戦術科。

 C組とD組は魔術科。

 そして飯田のクラス、E組が補助科である。


 戦術科は直接的な戦術、つまり戦闘訓練を中心に学び、魔術科は文字通り魔術(ただし攻撃魔法中心)を、そして補助科は回復呪文を中心とした魔法や、魔法道具の習得だ。


 そして『リフレ』は回復系呪文の初歩、つまり……


「まだ習いたてで未熟だけど、リフレで麻衣たちの痛みを癒せたらなぁって………」


 飯田は途中で言葉を止めた。

 いや、正確には止めさせられた。


「………回復呪文?」


 ぴくりとも動かなかった今井が、ふらりと起きあがったからだ。


「おお、奇跡だ」

「痛みが………消える」


 俺のちゃかしにも反応せず、今井はゾンビのように飯田に近づく。


「ひぃっ………!」


 飯田は喉から小さな、しかし本気の悲鳴をもらすと、今井から遠ざかるように後ずさりした。

 しかし。


 ドンッ!

 

「え………?」


 コツン! と杖を落とした飯田は、背中に衝撃を覚えて振り返った。


「………消える」

「きゃあああ!」


 そこにいたのは、後ろでくくった長い髪を前に垂らし、ぶつぶつ「消える……痛み……」と呟きながらホラー映画さながらの雰囲気をかもし出している女子、八巻枝理だった。

 そしてその後ろには、男女入り乱れた、明らかに正気を失ったまま立ち上がっているゾンビ一同。20人ほどいるだろうか。

 さらに飯田が今井のほうに振り向けば、そこにも20人かそこらのゾンビたちがいた。


 すげー。ゾンビ祭だ。


「消える―――…………!」


 ずおっ! とすごい勢いで飯田に襲い掛かるゾンビ八巻。

 そろそろか……そう思った俺はその瞬間、


 パシッ


「え………」


 八巻の足をはらった。

 バランスを失った八巻はそのまま倒れ、その八巻に続くように後ろの20人ほどのゾンビ軍もドミノ倒しのごとく倒れていく。


 がたたたたた!


 八巻を筆頭にしたゾンビ軍団は倒れ、今度こそ力を使い果たした。

 しかし忘れてはいけない。


「おおおおおお!」


 もう1組ゾンビ軍団がいるのだ。

 ………が。


 コツン


「お?」


 ゾンビ軍団先頭の今井は足元にあった飯田が落とした杖に足をひっかけ、


「おおおおお!」


 どたたたたたたたた!


 ………自滅した。


「………ふっ。虚しい勝利だった」


 残ったのはぴくぴくとするだけでもう動けない生徒たちと、倒れた机の山だった。

 しばらく呆然としていた飯田は、その虚しい山々を見回し、そして慌てて


「た、大変……!」


 ほとんど動けないゾンビたち、特にモロにその下敷きになって顔だけ出ている今井にかけよった。


「ふ、ぬぬぬう………」


 懸命に今井をひっぱり出そうとするが、ぴくりとも動かない。


「ほっとけって」

「………!」


 その一言に、飯田は俺を睨みつけた。


「大丈夫だろ。そいつら無駄に頑丈だし、死にゃしない」


 今井と八巻は特に。


「で、ですけど………放っておくのはかわいそうじゃありません?」

「襲ってきた相手に情けをかけてどうする?」

「………」


 飯田からじとーっとした目で見られた。

 その目は「そういう問題じゃないでしょう」とか言っていた。

 俺はふうっと息をはき出すと、目を回している茶髪娘(今井)を指差す。


「それならほら。動かなくなったぞ」

「………?」


 意味がわかってない様子で、?マークを浮かべる飯田。


「とっととリフレ使ってやれって」

「あ………!」


 ハッとした表情をすると、急いで落とした杖を拾い上げ、ドミノの下敷きになって一番ダメージを受けているであろう、今井に向かって杖を向けた。

 真剣な表情で呼吸を整えると、目をつむり呪文を唱える。


「ソレイユ、サネスペルミナ、ホワールトゥルファティー、エーコルストラ、レイ、ナキリティ!(光の精霊ルミナよ、疲れた身体にやすらぎの光を与えたまえ!)」


 ほわ……


 目を回している今井の身体を光が包みこむ。

 その光は薄暗くなった教室をほの明るくした。


 へー………

 回復呪文は初めて見たが、対象者が白い光に包まれる様子はなかなか綺麗だなと感じた。

 そしてその光は電球ぐらいの明るさから、少しずつしぼんでいった。


「……………あれ?」


 さっきまで目を回していた今井が、不思議そうに声をあげた。

 そして自分に多数の人間がのっかかっているのに気づき、


「うわ! 重!」

「麻衣! 一緒に引っ張りあげるからね!」


 ふんぬー! と二人して気合を入れて、今井は人の山から抜け出すことができた。 


「大丈夫、麻衣?」

「あ、うん」


 飯田が今井を気遣うが、今井は心ここにあらずという風に、自分の身体のあちこちをさわり出した。


 足をさわる。


「お?」


 腕をさわる。


「おお?」


 そして自分の全身をさわりまくって


「おおおおおおお!」


 思わず飯田がびくっ!としてしまうほどの歓喜の大声を出した。


「すごい! すごいすごいすっごーい!! 痛くない! それどころか身体軽っ!」


 ぴょんぴょん跳ねた後、


「ありがと―――!」


 と勢いよく飯田に抱き着いた。

 最初は戸惑っていた飯田だが、


「よかった……」


 と、やがてほっとした笑みを浮かべた。














 ここから先は決して見てはいけないよ?














 おお………なんたる感動的シーンか!

 俺は目じりを拭うふりをしながら、制服にボタンみたいについている小型携帯電話(最新モデルらしい)の電源を入れた。

 ぴっ

 ぽっ

 ぱっ


「もしもし警察ですか!? た、大変です! 今教室で乱闘騒ぎが……!」

「「今ごろ通報するな!」」


 二人の息の合ったつっこみをくらうのだった。













 最後の行動、書こうか書くまいか本気で悩みました。

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