魔法の相性
「あ………」
ぽん、と俺は手を叩いた。
「……何よ」
「相性の問題かもしれん」
「相性?」
首を傾げる八巻。
「なぜかはわかってないがな。人間誰しも魔術の基礎である4大元素の内、なぜかそいつにとってすこぶる相性のいい元素と、悪い元素があるんだ」
「………もしかして」
「うむ」
いやー、すっかり忘れてた。
「たぶん八巻は火と相性が悪いんだろ」
「それ早く言いなさいよ!」
鬼の形相(周りが暗いし多分だが)の八巻が迫る。
「まーくんうっかり。てへり」
「ふざけるな!」
おー、怖い怖い。大迫力だ。
「………ま、この状況でフレア以外の魔法が役に立つとは思えんが」
土や水、風を発生させたところでここから脱出できるわけでもなし。
「う……」
言葉を詰まらせる八巻。
「………ま、やるだけやってみるか」
地、水、風の初級呪文を八巻に教えることになった。
―― CASE 1 初級地術『ノーム』
「ノーム、クェイカリズン!」
ご………
「おー、やったな。できたぞ」
「こんな震度1ぐらいの地震起こしたところで何になるっていうの!」
うむ、ごもっとも。
―― CASE 2 初級水術『ウォーティ』
「コンヴァージュ、スーリィ!」
………ぴちょん。
「おー、また成功したぞ。すごいなお前」
「水滴1滴なんかどうするの! 汗かいてる方がまだいいわ!」
またしてもごもっとも。
………が。
「わからんぞ。これが実はものすごく役に立つかもしれん」
「………例えば?」
「目薬になるかも」
「いるかっ!」
―― CASE 3 初級火術『フレア』
「………は、わかりきってるから飛ばすとして」
「…………ウィガムディセルミア(ぼそり)」
………………………
「はい出なーい」
「うるさいっ!」
―― CASE 4 初級風術『ウィンド』
「………………」
「どうした? とっととやれよ」
「黙りなさい。精神統一してるのよ」
「焼け石に水だと思うが」
八巻はその場に座り込んで、そのままじっとした。
………………
5分ぐらい経過。
「………んで、いつまでやるつもりだ?」
「………いいでしょ」
八巻は聞こえるか聞こえないかぐらいの声でぼそりと言った。
「これが失敗したら、私、ほとんど魔法が使えないってことになるのよ。ちょっとぐらいの緊張は当然じゃない」
「それ言ったら今のB組の生徒たちほとんどがそうじゃねーか」
「彼らはまだ魔法習ってないでしょ? 私はこうして習っても使えないのよ」
ふー、と八巻が息を吐く音が聞こえた。
「このまま一生使えなくなったって、不思議じゃないの」
「考えすぎ」
なんですか、この頭が固すぎる真面目くんは。
「魔ーが考えなさすぎなの………ひゃっ!」
八巻がいきなり驚いた声をあげた。
……ま、俺がヤツの肩に手を置いたからなんだが。
「い、いきなり何するのよ!」
「お前は肩がこりすぎだ」
もみもみ、と八巻の肩をもむ。
「やっ………う………」
びく、と肩を振るわせる八巻。
……本当に肩こってるし。
「才能あるって言ったろ?」
「あ………」
「だから大丈夫だ」
最後に、ぽん、と頭を叩いた。
「ほれ、頑張れ」
「あ………うん」
八巻は素直に頷いた。
「魔―って意外と………」
「なんだ?」
「い、いやいや。なんでもないわよ!」
ぶんぶんと首を振る八巻。
「わかったわよ! やってやろうじゃん!」
八巻は勢い良く立ちあがった。
「ヴェナール、ウィンディ!」
瞬間。
この狭い空間の全てが崩壊した。
―― とある図書室の会話(午前11時の時点。記録者不明) ――
「「ぷはぁ〜………(お茶をすすった後の息)」」
「なー、委員長」
「なんですか、谷口さん」
「おらんなー、魔ー」
「いませんねー、八巻さん」
「「ずずず………(お茶をすする音)」」
「逢引かねー」
「逢引でしょうねー」
「この場におらんもんねー」
「しかも2時間近くもドロンしてますからねー」
「エッチやなー」
「不謹慎ですねー」
「「ずずず………(またしてもお茶をすする音)」」
「……めっちゃ虚しいな」
「……虚しいですね」
「こんな時は、突然。世界を破壊したくならん?」
「なりますねー」
ずごごごごご………
「「ん?」」
ボカアアアアアン!!!
「「うぎゃああああ!」」
「「きゃあああああ!」」
世間ではバレンタイン一色に染まってますが………私にとって2月14日は………「『パニカル!』連載一ヶ月記念!」です! 頭の片隅にでも入れておいてくださればとても嬉しいです!