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パニカル!  作者: タナカ
28/98

できない







「思わず出てきたな、暇つぶし」

「何言ってるのよ」


 目の前に開けた、正体不明の地下階段をさあ行こう! としたところで八巻に止められた。


「先生に報告するに決まってるでしょ」

「うわ、夢なさすぎ」


 あんまりにも現実的すぎる発言に全米がひくわ。


「子供じゃないんだから。下手に入って出られなくなったらどうするの?」

「そうゆう後ろ向きなことを考えない、いつまでも前向きな心って大切だと思います」

「バカ言わない」


 八巻は俺の手を掴むと図書館の入り口までひっぱって行こうとして………


 ツルッ!


「は?」

「え?」


 八巻がまるでバナナの皮を踏んづけたかのように、いきなり足を滑らせた。

 え?

 いきなり背中越しに倒れ掛かってくるのはさすがに対応できなかった。


「おわ!」

「きゃああああ!」


 俺は八巻もろとも地下階段の中に落っこちた。


 ギイイイイイ………………


 誰かが入ってきたのを感知したのか、地下への扉となっていた棚がもとの場所に戻った。












 そこは今までの階とは明らかに違っていた。

 ほとんど何も見えない暗闇が辺りを支配していた。背中に冷たくて固い感触が伝わる。床はどうやら石らしい。

 そして長年誰も入ったことの無い場所らしく、ひどく埃っぽかった。

 ついでに八巻の髪が目の前にあってうっとうしい。


「ケホ」


 俺にのしかかった状態の八巻が乾いた咳をした。


「………なぜ何もないところで転ぶ?」


 どけと言う前に、俺はまずこれを聞きたかった。


「し、知らないわよっ!」


 八巻が焦る。


「そしてとっととどけ。重過ぎる」

「そこまで重くないわよ! バカ!」


 ゴスッ! 

 

 と八巻は俺の頭を殴る。

 そして俺の胸に手を置くといきおいよく立ち上がった。


「ぐっ」


 心臓マッサージされてるみたいで微妙に痛かった。


「もう! どこよここ?」


 そんな俺の痛みも知らないで、怒りをあらわにしながら言う。


「知るか」


 ぼんやりとしか周りが見えない。  

 ぎりぎりで八巻のシルエットがわかるぐらいだ。

 八巻はしばらくきょろきょろしていたが、胸に手をあてると、すーはーすーはーと深呼吸をした。 


「………よし」


 そう呟くと、さっきより大分落ち着いているように見えた。


「こうなったら仕方ないわ」

「お前のせいだけどな」

「………半分はこんなところを見つけたあんたのせいでもあるでしょ」


 いつも通り、冷ややかな言葉が返ってきた。

 ………ちっ。本気で落ち着いてるらしい。 


「とにかく、出口を探すわよ」


 八巻は手を前に突き出しながらふらふらと歩き出した。

 ……見てて非常に危なっかしい。


「あ、そこなんかあるぞ」


 八巻の前に巨大なシルエットが見えたので、一応そう言う。


「え……きゃ!」


 遅かったらしく、八巻は思いきりそいつに頭をぶつけると、ぺしゃりとしりもちをついた。


「あたた……そういうことはもっと早めにいいなさいよ」

「わりー」


 殊勝な言葉とは裏腹に適当に答える俺。


「……ていうか魔ー。この暗闇で周りが見えてるの?」

「ぎりぎりな。八巻とそう大差ないよ」

「……けど、少しは見えてるんでしょ? だったらもっと積極的に出口を探そうとしなさいよ」

「十分積極的だぞ。失敬な」

「………どの口がそれ言ってんだか。…………あ、そうだ!」      


 八巻はさぞ名案を思いついたという風にかん高い声を出した。


「魔ーって『フレア』が使えるでしょ!? それを照明にしましょうよ!」

「無理」

「は?」 


 口をあんぐりと開けている八巻に、俺は簡潔にそう答えた。


「嘘でしょ? まためんどくさいとか言うんじゃないでしょうね?」

「さすがにこの状況でそんなこと言うか。本当に使えないんだよ」


 俺は魔力はあっても呪文は使えないのだ。それが例え『フレア』みたいな初級火炎呪文でも、だ。


「なんで? 前、私たちに『フレア』を教えてくれたじゃない?」

「やり方は知ってるけど使えない」

「それこそなんで?」

「どうでもいいだろ、そんなこと」


 言いたくもないことだったので適当に言葉をにごす。


「………とにかく、使えないと」

「そうだ。だからフレアを使いたかったら」


 びしりと八巻に指を突きつけた。

 ……見えてないだろうが。


「お前がやれ」

「え?」


 八巻は長い間、口を開けたまま動かなかった。  












「ヴィガム・ディセルミア!」


 ルミナスの剣を片手に声をはりあげる八巻。


「ダメだダメだ! 魔力の練りが甘すぎる! 声が小さい! 発音もイマイチ! 最近ダイエットなんて不健康なことやってるからだぞ!」

「うっさい! 最後のは関係ないでしょ! てかなんでそんなこと知ってんのよ!」


 無機質な石の部屋に俺たちの声が反響した。


「あんた遊んでない!?」


 ちっ。バレたか。


「………とまぁ冗談はさておき」  

「真面目にやれ!」


 ……遊び心のないヤツだ。


「お前はスジがいいからな。魔力の総量も回復量もB組の中じゃ5指に入るぐらいだし」


 俺がパッと見で出した推測だが。


「ほんと? じゃあなんで出ないのよ」

「知らん。俺に分かるのはフレアが出るまであと一息、ってことぐらいだ」


 魔力の練りもいい。今も八巻の手には大くの魔力因子が集まっていた。

 ……だが、なぜか出ない。


「ヴィガム・ディセルミア!」


 しばらく、八巻の声だけが響きつづけた。

 だんだんと声がせっぱづまったものに変わっていく。

 だが八巻の必死さにもかかわらず、ちょっとした火も出なかった。


「………くぅ」


 悔しそうに歯噛みする。


「……とりあえず落ち着け」

「落ち着いてるわよ」


 嘘つけ。声が震えてるぞ。

 無機質な空間で、ただできないという無機質な現実が広がる。


「………!」


 バンッ!


 いらついた八巻が、近くのものに向かって拳を叩きつけた。

 








なんであれできないって嫌ですよね。

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