普通の学校生活?2
近年、突如として現れた魔法、そしてそれを可能とさせる道具、宝剣の存在。
そしてその存在を世に知らしめ、魔法使いを現代の日本に浸透させるための学園。
私立荒田学園。
この学園の2年生である俺、三河正志や友人(?)の上野洋太は、日々、普通の学園では考えられないような訓練を受けていた。
現在午後1時前、2年B組の教室。普段なら楽しい楽しい昼休みのはずが、先ほど2年B組のクラス担任、桃ちゃんから受けたシゴキにより、
「だめだぁ〜………三途の川が見えるぅ………」
とか言う洋太みたいに、教室にいる全員が筋肉疲労にもだえていた。
俺は洋太の隣にある自分の席で、のんびり昼飯を食べていた。
洋太の隣で床に寝そべった格好で、洋太のギャグ友、沢木龍二が息も絶え絶えに言う。
「隊長……自分は、自分はもうダメであります……」
「沢木二等兵……汝はよくやった………だが、どうやら我が軍はこれまでのようだ……ごほぉっ!」
「ああっ、たいちょーっ……」
がくっ、
という感じで二人ともその場に崩れ落ちた。
「………んな体調でコントするなよ」
俺のつぶやきと同時に、洋太の机の横に立てかけてある槍の形をした洋太の『宝剣』が、カラン、と音をたてた。
***
『宝剣』
剣の姿に限らず様々な形をしたこの武器は、使用者の体内に魔力を送り込み、一時的に体力を増加させる。
だが、そもそも魔力を使うことに慣れてない人間の身体はその魔力を拒絶してしまい、慣れるまではその身体能力強化はさほど大きな力となりえない。
しかしこれこそが『宝剣』の使用の基礎であり、これがうまくできなければ、後の魔法もへったくれも無いのである。
「おじゃましまーす……」
クラス全体にどんよりムードが漂う中、苦笑いを浮かべながら他クラスの生徒が入ってきた。
たしか……飯田千恵、だったかな?
「まいー……って、うわぁ」
「ううう……」
会いに来た友人が床に寝そべって唸っているのを見て、飯田は思わず口を押さえた。
「ちょっと……大丈夫?」
「う……マジありえないんだけど………あつつつつ………」
いつもは騒がしい飯田の友人、今井麻衣はセミロングの茶髪で自分の顔を覆い隠すような格好をしていた。
「おーい、しっかりしてー」
飯田がちょこんと今井の肩を触ると、びくぅっ!と今井の肩が震えた。
「あつぅっ! ちょっ、触んないでよ、千恵!」
「ご、ごめん……」
さっと手を引く。その間今井は「あだだだだぁ………!」と小さく悲鳴をあげていた。
「おばあさんだな、今井」
「うっさい! ってあいたー!」
くくく……馬鹿な奴め。
俺は筋肉痛で痛がる今井を密かに笑った。
……心配?ナニソレタベラレルノ?
飯田は予想以上の友人の壊れ具合に「あう……」と困ったような声を出すと、雰囲気を変えようと、平気そうな俺に声をかけた。
「魔ーくんは平気そうだね」
「ああ。てか魔ーくん言うな」
魔ー。
俺の名前、三河正志の『ま』の字を『魔』と読んで伸ばしただけという、失礼極まりないあだ名が俺にはあった。
なぜかは知らん。気づいたらこのあだ名で呼ばれてた。
「えと、どんな訓練だったの?」
「60km走った」
詳しく話すのが面倒だったため、簡潔にそう答えた。
「60km……うわ、それは大変だったね」
「………ダッシュでね」
痛い痛い言ってた今井が、飯田の発言の後でぼそっとそう付け加えた。
「え………」
飯田が絶句する。
「よ、よくできたね」
「………自分を褒めてあげたいわ」
「ま、宝剣の身体強化能力があるからな」
じゃなきゃ普通は死んでる。
「………こんなんで月末の籠城戦勝てるのかな?」
籠城戦とは、毎月30日にある、クラス同士の戦闘訓練のことである。
月末の定期試験みたいなものだ。この結果いかんで、学校のだいたいの成績が決まる。
「め、めげちゃダメだって!頑張れ!」
「ううう……」
また痛い痛い言い出す今井。
正直なさけなく見えるが、それでもこいつは途中で脱落せずちゃんと60km完走したのだ。頑張った方だろう。
しかし、荒田学園の現実は常に生徒たちに厳しかった。
キーンコーンカーンコーン………
「あ、予鈴だ」
午後からの魔術の勉強の時間、スタート五分前の合図が響き渡った。
「うそぉー………」
もぉやだぁ〜……と今井が微かな悲鳴をあげた。
とりあえず1日1話のペースで更新していくつもりです。