悪魔の姉
「………………」
面倒くさいと思いながら、俺はしぶしぶ闘技場に降りて行った。
闘技場にはロングの銀髪を持った女の子が立っている。
………ババア?
とか一瞬思ったが、近づいてくるにつれそいつが若い女だということが分かった。
背は少し高め。真っ白な肌と真っ白な髪を持ち、その中で特徴的な深紅の瞳が光って見えた。
本当にコイツ日本人か?
沢木雹。
双子の弟である龍二いわく「悪魔…………」だそうだ。
見た感じ変わったヤツだということは分かるが。
雹は服装は普通の制服だが、変わった宝剣を持っていた。
杖だ。樫の木らしき質素な形をした杖の先っぽに、大きな青色の宝玉がでんとついていた。
A組及びB組は戦術科であるため、ほとんどの生徒が学校から支給された、西洋の刀を模した宝剣を持っている(一部例外はあるが)。
にもかかわらずこいつが杖の形をした宝剣を持ってるってことは、あの宝剣は自力で手に入れたものだってことだ。
………何の特があるのかは知らんが。
雹の正面に立つ。
「………………」
周囲からはB組連中の「やっちまえ魔ー!」とかA組連中の「雹様がんばって―――!」「せめて1勝―――!」とかそんな騒がしい声援が聞こえる。
そんな中で、静かで無機質な目線が俺を見据えた。
………なんだコイツ。
何も考えていないような、生気の無い眼。
「さあて! いよいよ始まりました! 大将戦! ……ってあれ? 龍二は?」
「『姉怖い。僕帰る』………だそうだ」
「龍二―――――!」
復活した洋太のあほアナウンスが響く中、俺はぐるぐると思考をめぐらせた、
………なんだろう。
何かが、頭の隅にひっかかる。
沢木雹と会うのは今日が初めてだ。
だが、俺はこの視線を以前から知っているような気がした。
………なんだ?
「………これから、大将戦を始める」
頑張ってるけど結構背中がすすけてる森元教師の声が響いた。
「A組代表、沢木雹」
「………………」
「B組代表、三河正志」
「………………」
「なんかしゃべれぇ………」
あ、余計に肩を落とした。
「………ええい! 互いに礼!」
「「よろしくお願いします」」
やけっぱちになった森元教師の大声だったが、俺と雹はしっかり礼をした。
「ってあれ?」
あれとはなんだ、あれとは。やっぱり礼節はきちんとしないとな。
………まぁ、森元教師をからかおうとする気持ちが無かったとはいえないが。
ただ、雹が声を出したのは驚いた。武道を習っているといっていたから、それでだろうか。
「「………………」」
ま、後はひたすらだんまりみたいだが。
「で、では!」
ひたすらうろたえる森元教師だった。
「はじめぇ!」
必死の大声が響く。
「「…………………」」
「はじめろぉ!」
森元教師は本気で泣きそうだった。
***
………さて。コイツに対しての疑念は置いとくとして。
とりあえず適当に戦って適当なところでギブアップするか…………ん?
さっきから突っ立ったままの雹の長い銀髪が、ふわりと少しだけ浮いた気がした。
「……………ってうお!」
ガガガガガガガガガガ!
いきなり足元からつららみたいな氷柱が突き出る。
「っぶね」
「うおっ! 魔ー避けた―――!」
ぎりぎり横っ飛びで避けると、さきほどまでいた場所に地面から突き出た刺状の氷柱が、キィーン! と耳鳴りがしそうな音をたてながら立っていた。
………うん。飛んでなかったら今ごろ串刺しだったな。
俺は回れ右をすると、闘技場の隅っこで審判をしている森元教師に向かって
「ギブアー……」
ドガガガガガガガガガガ!
ギブアップを言おうとしたらまたしても氷柱が襲ってきた。
「って!」
俺はまたしても横っ飛びでその攻撃をかわす。
が。
ガガガガガガガガガガガガガ! ガガガガガガガガガガガガ!
雹を見るが、1歩も動いておらず、呪文を唱えている様子もなかった。
「氷の柱が面白いようにぼこぼこ生えてくる―――! だが雹選手に呪文を唱えた様子は無い! これがあれか!? 噂の無詠唱魔法というヤツですか!?」
ちなみに魔法と詠唱は常にセットだ。無詠唱魔法というのは今のところ見つかってない。漫画以外では。
「解説の黒部さーん! 何がどーなってるんですかー!?」
「………分からん」
「解説――――!」
「説明しましょう!」
「おわっ!」
いきなり桃ちゃんの声が聞こえた。
俺が必死で氷柱攻撃から逃げ回っている間に、アナウンスが面白いことになっているらしい。
ちくしょう。呑気な。
「あれは宝剣の能力です!」
「なんですって!?」
えー。宝剣って肉体強化と魔法を使う媒体ってこと以外能力なかったんじゃ。
「皆さんが常時使っている宝剣についている宝玉は光っていて、強いて言えば真っ白な色をしていますよね?」
「ええ」
俺、ちょっとかっこよくウ○トラマンみたいにロンダートで氷柱から逃げる。
「この宝玉はルミネス、日本では別名『光楼球』といいまして。この種の宝玉は持っていれば肉体能力の強化をしてくれます」
「なんと! この宝剣の能力、肉体強化は宝玉が『光楼球』だったからなんですね!」
俺、かっこ悪く後ろを向いてひたすら走って氷柱から逃げる。
「そうです! そして雹ちゃんが持っている宝玉はグレイス、別名『氷麗球』と呼ばれてまして。肉体強化能力はありませんが、水の魔法と非常に相性がよく、そして念じるだけで氷を操ることができるという恐るべき能力を持っているんです!」
「なんてこったぁ!」
解説ありがとう、くそったれ。
突っ立ったままの雹に近づけない。
まるで工事現場の音と黒板を引っ掻いたときの音を合わせたような大きな音を立てて氷柱がひっきりなしに現れる。
大きな音。
つまりギブアップと叫んでも審判に聞こえない。
………ギブアップできない。
盲点だったよちくしょう。
「………しゃーない」
逃げ回るだけの俺は、怪我しない方向で1つ策を考えていた。
いつも書いてる小説と同じくらいの分量なのに………小説は書けてレポートは書けない。orz