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パニカル!  作者: タナカ
12/98

『フレア』




「え? え? ちょ……」


 今井は自分を置いて勝手に進んで行く事体に、ただただ混乱するばかりだった。

 ………本当に大丈夫か、あれ。


「さあ! いよいよ登場しました真打! 今井麻衣!」


 洋太の馬鹿アナウンスが響く。


「その華奢(きゃしゃ)な身体で、体力バカゴリオにどこまで通用するのか! 見物です!」

「だあああ! そのあだ名で呼ぶな上野――!」


 ゴリオがほえる。

 だが、


「ゴリオやっちめー!」「林檎ちゃんの(かたき)ー!」「けど顔は攻撃してやるなよゴリオー!」「胸だ! 胸を狙えゴリオ――!」


 と、もはや同じ組のクラスメイトにすら、ゴリオと呼ばれていた。


「………………」


 あーあー、青筋浮かべて。不憫な。

 そしてその怒りを観客席に向けても(らち)があかないと思ったのか、キレた表情で今井を睨んだ。


「あ、ちょ、あの〜……先生?」

「ん、なんだね?」

「………ここはどこで、私はこれから何をすれば良いんですか?」


 分かってなかったんかい。

 森元教師はしばし呆然とした後、こめかみを押さえながら答えた。


「ここは魔法で作り出した闘技場で、君はこれから始まるクラス対抗戦の副将として模擬戦をやらなければならない」

「え!」


 驚いた表情でたじろぐ今井。


「理解したかね?」

「え、いや〜……でも………………マジっすか?」

「………まぁ、君の担任の先生が何を考えているかは知らないが……少なくとも、この状況は冗談では無いな」


 ボルテージの上がっている会場の様子に当惑している様子の今井を見て、森元教師は一つ提案を持ちかけた。


「………試合放棄するかね?」

「え?」


 今井の顔には「いいの?」と描いてあった。


「何も知らされておらず、心の準備もできていないのだろう? それではいきなり試合をするのは酷というものだし、幸い君のクラスは私のクラスに一度勝っている。ここで試合を放棄しても、さほど問題にはならないと思うがね」 

「あ……う………」


 目の前で睨みつけてくるゴリオ、自分に視線を向けている生徒たち、そして森元教師を見て、ぐるぐる混乱している今井。

 あーあーもー。あの馬鹿。


「借りるぞ」

「え? ちょっと……」


 俺は隣にいた八巻から問答無用で筆箱を借りると、それを勢いよく振りかぶって……


 ビュンッ!

 バコッ!


「きゃっ!」

「ああああああ!」

「おおおっとぉ! 何やら味方席から今井選手に向かってフデバコ攻撃が! あれは痛い! ほんとに痛い! とっとと始めろというクレームか!?」

「実感こもってるっスねー、隊長」


 いろいろと声があがるが、無視。

 頭を押さえながら涙目でこちらを睨みつけてくる今井を、俺は睨み返した。

 ぐだぐだ悩むな。とっととやるだけやって砕け散れ。 

 そういうつもりで睨んでやったら、今井はこちらに向かって舌を出すと、勢いよく森元教師の方に振りかえった。


「やります!」


 やけっぱちのようにそう叫んだ。


『分かったわよ! アンタ後で覚えときなさいよ!』 


 俺に向かって今井がそういう意思表示をしているように見えた。


「あ、ああ……しかし………いいのかね?」

「いいんです!」


 宝剣を握り締め、開き直った表情でゴリオを見据えた。 

 ……そうそう、そっちの方がお前らしい。

 そう思いながら椅子に腰掛けると……


「……………魔ーぁぁああぁああ!」

「あ……」


 鬼神のごとき殺気を発している八巻と目が合った。







***







「では! これより第2戦目を始める! まずはA組代表、五木春雄!」

「………………」


 返事無し。ただひたすら今井を睨んでいる。

 ただ、A組の生徒たちからは「林檎ちゃんの仇ー!」とか「ゴリオやっちめー!」みたいな物騒な声は嫌なほど聞こえてくるが。 


「B組代表! 今井麻衣!」

「はい」


 宝剣を中段に構え、こちらも静かにゴリオを睨んでいる。

 そしてこちらも「麻衣ちゃんいけ――!」と俺にウメボシをくらわせながら声を張り上げる八巻を筆頭に、盛り上がっていた。


「さぁ! これからいよいよ第2戦目が始まるわけですが! 解説の黒部さん! ずばり! この戦いはどちらが勝つのでしょうか!?」

「………順当にいってゴリオだが、今井は今朝から桃ちゃんが連れ出して何かやらせたみたいだからな。それがどう影響するか……」

「なるほど! ぶっちゃけ分からないってことですね!」

「隊長ぶっちゃけ過ぎっスよ!」


 ………アナウンスがごちゃごちゃうるさいが。  


「互いに礼!」


 そして両者共に礼をして、


「では! 始めぇ!」


 森元教師の声が闘技場に響き渡った。







***







 ゴリオの実力はよく分からないが、それでも体術だけならさきほどの委員長より何倍も上なのは確かだ。

 生徒を片手であしらったとか噂があったが、その噂を信じるに足るだけの体格と、全身から発せられている大量の魔力がある。

 ………ただ、だからこそ。今井のやることは一つだ。


「ヴィガム(炎よ)」

「ん?」


 開始早々、今井は宝剣をゴリオに向けて初級、火炎呪文、フレアの詠唱を始めた。

 初級というだけあって、フレアは詠唱だけなら誰にでもできる。

 ただ、それを成功させるために重要なのが、魔力の練り。 

 それで呪文の成功の可否や、威力が決まってくるのだが……


「ディセルミア(あれ!)」


 詠唱の終了と同時に、小山のような炎の塊がゴリオに向かって発射された。

 周囲の酸素を食いつくしながら暴虐な破壊の力はゴリオを瞬時に呑みこむ。


「ん……ぬぅ!」


 突然の攻撃に回避行動をとる余裕も無く。


『…………………』


 突然の大火球の発生に、驚きで闘技場中が静まりかえる。 

 打った本人ですら、呆然としていた。

 ………何あの危ない大火球?






次回は長かったA、B組対抗戦の終幕(予定)。

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