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パニカル!  作者: タナカ
11/98

麻衣の過去




 ――― 今井麻衣SIDE ―――


 私は神殿のような部屋の真中で、女の子座りをしていた。

 周囲は古びて(こけ)の生えた石畳で覆われていて、石柱のくすんだ灰色と、天井の隙間から見える澄み渡った青い空の色が対称的だった。

 そして私が座っている床には、血のように(にぶ)い赤色の大きな魔方陣が描かれていた。


「あの〜………先生?」

「ん、何かな?」


 私は、この部屋の隅っこの石柱にもたれかかって本を読んでいる、この学校の保健医、山本修平先生に話しかけた。


「えと、いつまでこうしていればいいんですか?」


 朝のHRの時に桃ちゃんに呼び止められた私は、保健室に連れてこられた。

 そして一見どこにでもありそうな普通の保健室の隅に、地下通路への隠し扉がなぜかあった。

 うぉい! と思わずやった私のつっこみに桃ちゃんは「皆には内緒ですよ?」とだけ言って、その怪しげな扉から地下に下りて………ついたのがこの部屋。

 そして朝からずーっと、この部屋の真中で座っているのだ。

 何時間経っているのか知らないが、いい加減飽きたし疲れた。


「ん〜……ごめん。あと少しだって言うのは分かるんだけど……」  


 山本先生は困った様子で頬をかいた。

 ………優男風の先生だけど、こういう困った表情は本当、似合ってる。

 なんかこう……いじめ心が刺激されるというか………………ああああ! ダメだって、私!


「とにかく西村先生に指示があるまで君をそこに座らせといてってことだったから」

「………私、監禁されちゃったんですね」

「え!?」


 焦ったようにわたわたする先生。あああ、大人のくせにすっごくかわいい!


「一生日の目を見ることができなくなった私は、これから先生に○×(ピー)で△■☆□(ピーピー)なことを……」


 ちなみにピーは18歳未満禁止の音! 良い子は聞いちゃだめ♪


「そ、そんなことしないって!」

「でも………」


 しばらくこんな感じで私は先生で(・・・)遊んだ。


「ぜーっ、ぜーっ………」

「ありゃ」


 羞恥で顔を真っ赤にしながら肩で息をしている先生を見て、ようやくやりすぎたか、と思いなおした。


「すみません。からかいすぎちゃいましたか?」

「まったく……もう」


 怒った様に見えながら、先生はどこか嬉しそうに笑った。


「一途なところはお父さんそっくりだと思ってたけど……そういうからかい好きなところはお母さん似だね」

「え………」


 不意に出た両親の話題に、思わず目を見張った。


「父と母を………知ってるんですか?」

「僕は2人と同じ大学に通っていてね。同じ研究室にいたんだけど、魔法の研究にとても熱心で………いい先輩だったよ」

「………………ありがとうございます」


 私の両親は……もうこの世にはいない。

 お父さんは私が生まれる前に魔法実験の事故で死んだって聞いたし、お母さんも私が3つの時に交通事故で死んでしまった。

 お母さんのことはほとんど覚えていないけれど、ただ一つ覚えていることがあった。

 ……………いつか、この世界が魔法使いたちにとってもっと住みやすい世界になったときに。

 あなたは世界一の魔法使いを目指しなさい。

 あなたにはそれができる、だってあなたは私と………誠司さんの娘なのだから。


「………今井さん?」

「………っと」


 しまった。感傷に浸りすぎていたみたいだ。


「ごめん。辛いこと思い出させちゃったかな?」

「い、いえいえ! そんなこと無いです!」


 本当に辛いとかそんなこと無かった。

 父のことは覚えてないし、母のことだってほとんど覚えてないのだから。悲しいとか思いようがない。

 それに、私は2人に近づく方法を知っている。

 そう………私は魔法使いを目指すんだ

 それが、2人に近づくことができる、たった一つの方法だから。


「そうだ! 父と母と知り合いだったんでしょう!? でしたら2人のこと、もっと教えてくださいよ!」

「…………うん。そうだね」


 先生が笑顔になって、2人のことを教えてくれようとしたときに………。


「アラート〜! アラート〜! 緊急出動です〜!」


 ………何か緊張感のない警報が邪魔をした。







***







 2戦目、副将戦に出ることが決まっている者がいる。

 桃ちゃんがそう言ったので、俺たちB組生徒たちはしょうがなく黙ってその者が誰なのか分かるまでじっとしていた。

 が、相手さんはそう思ってくれないらしく。


「くぉらああああ! とっとと次の相手出てこ―――い!」


 闘技場の真中でA組、副将戦代表者、五木春雄、通称ゴリオ(命名、洋太)の雄たけびがあがった。

 洋太の言った通り、短気な奴らしい。


「ああんもう、うるさいわね……」


 八巻枝理が忌々しそうに闘技場の方を見た。

 いらいらしているのはゴリオや八巻だけでなく、額に青筋を浮かべたA組担任、森元教師が桃ちゃんに詰め寄っていた。


「西村先生! 副将はまだ決まらないんですか!?」

「んん〜……もうちょっと待ってください」

「そう言って、もう30分以上たってるんですよ!?」

「アラート〜………アラート〜………」

「聞いてるんですか!」


 ちっ。短気な先生だ。30分ぐらい我慢しろよ。


「もう少し〜……もう少し〜……」


 そう言いながら、桃ちゃんはさっきから闘技場の周辺をぐるぐる廻っている。

 ………何やってんだ?


「ん………?」

「お………!」


 闘技場の中心で(わず)かに魔力が集まってくるのが感じられ、俺と桃ちゃんは声をあげた。

 そして、次の瞬間。


 シュバァッ!


 突如現れた大量の魔力の光が、周囲を縦横無尽に走り去って行った。


『…………………!』


 突然の閃光に皆が目をくらませると、気づいたときには二つの影。

 今井と山本保険医の姿があった。  







***







 突然の今井の登場に皆が呆然としていたが、桃ちゃんは我関せずという風に笑いながら、


「さぁ! 彼女が副将ですよ!」

『えええええええ!』


 生徒たちの驚きの声は耳がキーンとするほど大きかった。


「おいおい………」


 190cmもあるゴリオが、額に青筋を浮かべて言った。


「なめんのもいい加減にしろよ」

「なめてなんていませんよー」


 不良ですらちびっちゃいそうなゴリオのメンチに、桃ちゃんは笑っていなしていた。


「そちらこそ、麻衣ちゃんをなめない方がいいですよ。でないと〜……」


 挑発するようにくすくす笑った。


「一瞬で終わっちゃいますよ〜」

「んだと!」


 キレたゴリオが桃ちゃんに拳を向けるが、


「あはははは!」

「ちょ!先生!?」


 焦った森元教師が叫ぶが、桃ちゃんは無防備にゴリオの拳を受けたように見えて……

 そのまま残像を残して消えた。

 ………おいおい。どこの忍者だ、桃ちゃん。


「さぁ、やるべきことは全てやりました」

「おわっ!」


 いつの間にか、観客席の、俺の隣に桃ちゃんがいた。

 闘技場からここまでどうやって瞬間移動を!?


「後は………」


 目を細めて闘技場にいる今井を見た。


「麻衣ちゃん次第です」











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