覚醒の時
カァン! と乾いた音が闘技場に鳴り響いた。
目がね坊主の委員長の持っていた剣が、小柄な女の子、宮内林檎の剣によって跳ね上げられたのだ。
委員長の剣は宙を舞い、闘技場の隅の方まで飛んで行く。
委員長、丸腰。
「委員長避けろ―――!」
洋太がマイク片手に必死で叫ぶ。
宮内の剣が、委員長の頭上に迫っていた。
***
――― 委員長SIDE ―――
まずいまずいまずいまずい!
自分の肩口ぐらいの身長しか無い小さな女の子を前に、僕は焦っていた。
心には、焦り、緊張、その他マイナスにしかなりそう無いものしかなかった。
生来、緊張しやすい性格だった。
劇や発表会、女の子と話すときですら、僕は異常に緊張しやすい性質だった。
にもかかわらず、真面目ででしゃばりな僕は、ついこういう面倒で緊張しやすい世界に進んで入ってしまうことがある。
今回はクラス同士の戦いだ。しかも3本勝負。自分が負けてはクラスの皆に申し訳が立たない。
落ち着け、落ち着け………! そう思うほど、心の焦燥は広がってしまう。
しかも今まで体力トレーニングばかりで、こういう戦闘は初めてだ。
どうせ落ち着けないんだったら、最初から全力で………!
そう思って模擬戦の開始と同時にダッシュで相手を叩き斬ろうとした。
しかしその瞬間に相手も近づいてきたせいで、いきなり大きくなったように見えて………
ヤバイ……! と思う暇も無く、僕の手から宝剣が無くなっていた。
カァン! という音が強く耳に響く。
宝剣には肉体強化能力があるが、それは宝剣を所持していた時の場合だ。
宝剣が無くなれば当然その能力も失われる。
肉体能力が向上した人と、常人との能力の差はおよそ10倍といわれている。
つまり、いきなり戦力が1/10になったのと同じだ。
がら空きになった頭部めがけて、宮内さんの剣が迫る。
「―――――! (避けろ―――!)」
冷や汗が出て、とにかく身体をのけぞらせて避けようとしたら………
ヒュッ
乾いた音が顔面すれすれで通過して行くのがわかった。
避けれた。
瞬時にそう理解した僕は、とにかく距離を取ろうとしてバックステップした。
……………あれ?
追撃はやって来ない。そしてそのことを理解すると同時に、一つの疑問が頭を掠めた。
……………動ける?
***
「委員長なんとか避けた――――――! マグレか!? てか危ね――――――!」
「―――――――――――! (必死で耳を抑えている沢木龍二)」
「………………………うるさい(同じく耳をふさいでいる解説、黒部一郎)」
どこからかアナウンスをしている、ハウリングしそうなほど馬鹿でかい洋太の声が響いてきたが、俺はそれが気にならないほど混乱していた。
委員長………?
「特訓の成果ですねー!」
隣から、のんびりとした桃ちゃんの声が聞こえてきた。
桃ちゃんを見ると、子どもみたいに観客席に乗り出して笑っていた。
視線の先には、再び宮内の剣戟を避ける委員長の姿があった。
「あれ……、やっぱり宝剣の力じゃなくて……」
「ええ。委員長自身の力ですよー!」
「………なんでですか?」
「宝剣は人間の中の魔力を引き出す、補助器具にすぎません。ちゃんとした訓練をつんで、魔力も十分にあれば宝剣が無くてもあれぐらいの力は出せますよ」
「けど、なんでいきなり………あ」
俺は桃ちゃんを見ると、イタズラがばれた子どもみたいな表情とぶつかった。
「委員長には『魔法の飴』をあげましたからね。あの飴は、ある程度魔力を回復させる作用がありますから」
委員長の口に無理やり押し込んだあの飴か。
「おおっと! 委員長よく攻撃をさばきます! しかし委員長、やはり丸腰では劣勢か!?」
タイミングよく、洋太の声が聞こえてきた。
「さあ、ここで問題です」
授業の時によくやるように、桃ちゃんは人差し指をぴっと立てた。
「おおっとおおお! 林檎ちゃん魔法だ! 魔力の光が林檎ちゃんを包んでいるぅ!」
「そして初対面の宮内さんをいきなり名前でちゃん付けできるとはさすが隊長!」
「………どうでもいいが、委員長まずくないか?」
かしましい3人男の声をBGMに、桃ちゃんはマイペースに言葉を続ける。
「誰にでも10倍の力を引き出してくれる道具があるとします」
「委員長! 吹っ飛んでいた刀を拾ったー!」
委員長が、飛んでいた自分の宝剣を手に取った。
「力が10の人は100にしてくれます。では、力が100の人には?」
今まさに詠唱を完成させようとする宮内に向かって、委員長の神速の剣が迫った。
***
委員長の剣が、宮内の宝剣を跳ね上げた。
開幕直後の委員長とまるで同じことをさせられた宮内は、呆然とした様子で頭上に迫る委員長の剣を見ていた。
……ここで補足しておくと、模擬戦の場合、対戦者にはあらかじめ防御魔法が付与されており、よほどの威力で無い限り剣で相手を直接傷つけることはできない。
それでもある程度の衝撃はくるが。
ゴン! と景気のいい音がしたのと同時に、宮内はその場に倒れ、そのまま気絶した。
「林檎ちゃんノックアウトオオオオ! カウント入ります!」
「いや、入れてどうするん?」
「…………入れる必要もないみたいだしな」
コントアナウンスが流れる中、森元教師が軽い脳震盪を起こしているのだろう宮内を抱きかかえて「早く! 救護ー!」と叫んでいた。
「ふふっ………敗者の末路ですねぇ」
「………………」
桃ちゃん………さっきまですっごくいい教師っぽかったのに。
黒いオーラでボソッと黒いことを呟く桃ちゃんはとりあえず見なかったことにした。
勝ち名乗りを上げた委員長は、未だに信じられないといった風にとぼとぼとこちらに戻ってきた。
………甘い。甘すぎるぞ委員長。
こんな時にそんな戻って来たりしたら………
『よくやったあああああ!』
「………うわ!!」
興奮したB組生徒たちによって押しつぶされるに決まってるだろう?
「はいはい。そんなにしたら委員長がぺっちゃんこになっちゃいますよ?」
ぱんぱん、と手を叩いて皆の注目を集める桃ちゃん。
「まずは委員長。お疲れさまでした。本当によく頑張りましたね」
「あ…………は、はい!」
ようやく実感がわいた、というように委員長は嬉しそうに返事をした。
「それで、早速で悪いですがこれから第2戦目が始まります。あと1回勝てなければ、私たちは………!」
桃ちゃんはぐっと手を握った。
「焼肉が食べれません!」
『…………………』
どうやら、勝ったら相手の組に焼肉をおごらせるつもりらしい。
食い意地はってるな、桃ちゃん。
「そんなことのために……?」「いや、けど焼き肉はすてがたい……」「太るー!」
との生徒たちの叫びを無視して、桃ちゃんは話しを続けた。
「ですが、第2戦目は誰が出るかもう決まっています」
『へ?』
ほうけた顔をするB組生徒一同に、桃ちゃんはにっこりと微笑むだけだった。
10話達成―――!同時に第一戦目終了ー!
今までこのような稚拙な作品を見てくださってありがとうございます。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします!
ここで一つ、報告です。
『みてみん』というサイトで、この作品一性格の濃い先生、桃ちゃんのイラストを描いて掲載してみました(顔の絵だけですが)。
下記URLで見ることができるので、よければ見てください。
http://108.mitemin.net/i223/
リクエスト等あれば受け付けます。
……評判がよければ、次も描くかもしれません。