サイド 堀内洋児
AM1:46 日野市某コンビニ前。
三流雑誌記者である堀内洋児は、
徹夜明けの疲れを感じながら買ったばかりの缶コーヒーを開け、空を見上げた。
(今日は曇りか・・。)
雲模様から雨はないだろうと判断し、そのまま家に向かって人気のない道を歩き出した。
元々この時間になれば少ない人気は、連日続く「白コートの不審者」事件により更に減っている。
人気のない場所で、一人でいる人間に執拗に名前を教えろと迫る白いコートを着た謎の人物。
実害こそないが不気味なこの事件は、未だ明確な犯人像さえ分からず野放しになっている。
愉快犯。
思想犯。
流石に14件も続くと、あちこちから憶測や噂が出始めている。
中には人間でない化け物の仕業だと騒ぐものもいる。
(もうじき、ウチでも扱うかもしれない・・・なっ!?)
あまりまとまらない思考で歩いていたため、気付くのに遅れてしまった。
目の前には、白いコートを着た長身の人物。
その姿を見て思わず動揺してしまう。
顔が見えない。
深夜な上、加工しているのだろう。
妙に眩しく、チラつくせいで顔の部分を判別できない。
白いコートの不審者は、こちらが認識したのを確認すると口を開いた。
「名前ヲ教エロ・・」
「ひっ・・・」
思っていたより不気味な声色に情けない声を出してしまった。
しかし、それにかまわず続ける。
「名前ヲ教エロ・・答エロ・・・名前・・・名前・・オ前ノ名前ハ何トイウ?
答エロ・・・教エロ・・名前ハ?名前ハ?名前ダヨ!名前!名前!
オ前ノ名前ダ、オ前ハ誰ダ!?何テ言ウノダ!!?」
段々じれったくなってきたのか、どんどん語尾が強くなってきている。
よく見れば何かを手に持っている。
知らずと汗がにじんできていた。
(どうする・・?どうする・・?)
距離は近いが、仕事柄走りには自信がある。
それに、この道は毎日使う勝手知ったる場所だ。
更にいえば相手はこれまで実害を与えてきてはいない。
逃げようと思えば逃げれる。
だが、堀内はそうしなかった。
これはチャンスだ。
彼にはそうとしか思えなかったのだ。
ずっと日陰者だった自分が、三流記者と言われ続けてきた自分が、認めてもらえるチャンスだと。
「オイ・・聞イテイルノカ!!?オ前ノ名ハナンダ!!?」
苛立ちを隠せなくなってきている白コートに向かって声を出す。
「やぁ、落ち着いてくれ。私は――」