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ネームイーター  作者: 河内三比呂
第一章
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サイド 朝倉康平

 AM10:30 日野警察署内。


 生活安全課の新米刑事・朝倉康平(あさくらこうへい)は、思わず溜息を吐いた。

 彼が見ているのは、近頃頻発している「白コートの不審者」に関するデータベースだ。

 7月現在、すでに通報件数は14件を超えており、そのいずれにも共通点がある。

・被害時刻が深夜二時前後

・被害当時一人で行動していた

・被疑者は犯行時白いコートを着ている

・被疑者は執拗に名前を知りたがっていた

 幸いにも実害報告は出ていないが、これだけでも市民に不安を与えるには十分すぎている。

 警察としても不審者を捕らえるべく巡回を増やしたり、注意喚起をしたりと対策は行っているのだが

(どういうわけだか、捕まえられないんだよねー)

 思わず朝倉は顔を歪めた。


 尻尾がつかめない。それどころか、犯人像すら浮かんでこない。

 その理由は、大きくわけて三つあるといえる。

 まず情報の問題。

 確かに通報件数は多く共通点もあるが、それらはすべて状況だけであり、

 被害者自身に関していえば、

 年齢・性別・住所・職業・容姿に一切の統一性が見いだせない。

 更に不審者に関しても「白いコート」を着ていた以外証言が一致しない。

 中年だったとか若かったとかいうものもいたが、ほとんどが「白いコート」以外出てこない。

 次に練度の問題。

 ここ日野市は、隣接する各都市に比べ治安が良く、

 一部では東京都内でもっとも犯罪率が少ないのではないかともいわれているが、

 裏を返せば犯罪に対する経験が少なくノウハウがないということでもあり、

 全くと言っていいほどうまく立ち回れていない。

 そして最大の問題が、14件全てにおいて「名前を執拗に聞かれた」以外何も起こっていないということだ。

 つまり、実害のない軽犯罪な上に情報もノウハウもないがために後手に回っていて手詰まり状態なのである。

「ま、もっとも『軽犯罪で実害もないけど僕たちじゃ解決できませーん』なんて他署に泣きつくなんて、状況的にもプライド的にもムリだよねぇ」

「ほう?言うじゃないか朝倉?」

 口をついて出た言葉に思わぬ返答が来て、慌てて声の主である課長に視線を移す。

「いいか朝倉!

 我々日野警察署員は、治安が良いことを誇りに思って職務に当たっている!

 そして、それを揺るがさないことこそが誉れであると信じている!

 故に、恥じることなど何もない!」

 あまりに強い口調に敬礼を返し「はっ!」と勢い良すぎる返事をする。

 その様子を見て課長は満足そうにうなずくと朝倉の背中を叩き出ていった。

 予想以上の衝撃に思わずせき込む。

「ゲホッゲホッ!ひっどー!パワハラだっつーの!!」

 しかし、今度はちゃんと誰もいないことを確認してから誰にともいわず宣言する。

「僕が犯人を捕まえて、ぜーんぶまるっと解決してやるよ」

 クックックッと警察官がしてはいけない顔をしながら、彼は立ち上がり捜査へと向かった。

 全ては己の手柄のために―。

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