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無限の異世界救世譚  作者: カイロ


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第九話 四天王、グランハンド

 その後兵真たちは順調にアイロネスへと近付いていった。

 道中何度か魔物との戦闘にもなったがムツミとレイニーが積極的に魔法で先制してくれたおかげで兵真たち前衛三名が怪我をする事にはならなかった。

 ムツミの使う攻撃魔法は光の槍を飛ばす物で、守りを無視して容易く魔物を貫いていった。

 レイニーのブラストマジックも味方を巻き込む可能性があるだけあって強力で、誤爆さえしなければ心強そうだと兵真は思う。

 そして自分達のパーティの構成を見返してみれば前衛が3、後衛が1、そして回復役が1のだいぶバランスの良い編成だ。

 徐々に全員との連携も取れるようになり始めているので、ひょっとするとこの調子で強くなっていけばもう魔王も対して強く感じないのではないだろうか。

 そんな事を思いながら視線を上げれば、もうアイロネスらしき町がすぐそこまで見え始めていた。


「あれがアイロネスかぁ。結構ボロっちい感じなんだな」


 兵真が見る限り建物のそこらじゅうがボコボコに穴が空いており、正直言って治安が悪そうに見えた。


「んん? おっかしいなぁ、聞いた話じゃあもっと小奇麗で活気があるトコだったはずなんだけど……」

「その辺の魔物でも入ってきたんじゃないの?」


 ムツミにそう問われてリンフレッドは首を振る。


「いや、そうだとしてもアイロネスは強力な剣を求めていつも凄腕の剣士が大勢集まるって話だ。ここらの魔物が束になってかかったって一瞬で片がつくはずだ」

「なるほどねぇ。それじゃ強いコが集まっても敵わないようなとんでもなく強い魔物が出てきたとか?」

「いやぁ、流石にそれは……」


 レイニーの言葉にまさか、とリンフレッドは否定しようとしたが、ふと先程から落ち着き無く動き回っているナナフサが目に入りもしかすると、と表情を引き締める。


「それは、まあ、無い方が俺らとしては楽なんだろうけど、もしかするとは考えた方がいいのかもな。……ヘイム、ナナフサの様子が変だ。慎重に行こう」


 リンフレッドの言葉に頷きを返し、兵真たちは周囲を厳重に警戒しながら町の中へと進んでいく。

 あたりを見回せば人っ子一人見当たらない。活気などという言葉とはとても遠い光景だった。


「おい、どうするよリン。なんかナナフサめっちゃキョロキョロしてるんだけど」

「……何かヤバイのがいるのかもな。いつでも戦える状態にした方がいいかもしれないぞ」


 唸りをあげながら四方を見回すナナフサを見て、兵真たちは武器を構え臨戦態勢で進む。

 すると、町の広場に一人の男が立っているのが視界に入る。


「ん、あそこに誰かいるみたいだ。行くか? ヘイム」

「そうしよう。敵って事もあるかもしれないから、みんな、出来るだけ慎重に」


 兵真の言葉に皆が頷きを返し、男の方へと近付いていく。


「ハァッハッハッハッ!! どうしたどうしたァ!? もう俺と戦りてぇ奴ぁいねぇのか!?」


 広場にいたのは大柄でたくましい体の、自慢の筋肉を見ろと言わんばかりに上半身裸で褐色の肌をした、白色の短髪の男だった。

 兵真たちが広場へ入るとどうして町がこんなにも静かだったのか理解できた。男の周囲に幾人もの戦士が倒れ伏しているのだ。

 誰も彼も歴戦の勇士と見える面構えであるが、愉快そうに大声で笑う男以外は皆一言も発さず目を閉じて動かない。そんな彼らの存在に兵真たちが気付くのと同時に、男は兵真たちへ向き直った。


「さて、そこの見慣れねぇ格好の兄ちゃんとそのお仲間も、俺と一戦交えてぇって事でいいのか?」

「まっ待てって! 俺らはまだこの町に来たばっかで、これがどんな状況かもわかんねぇんだけど!? とにかく最初に説明をしてくれないか!?」


 拳を構え、いますぐにでも襲い掛からんとする男を兵真は制し、説明を要求する。

 話が通用しない相手である可能性もあったのだが、どうやら男は話せば分かってくれるタイプであったようだ。構えを解いた。


「おぉ、そうかい。ま、そうビビらんでいいさ。俺ァただこの町に強ぇ連中がわんさかいるって聞いてな、ちょいと力比べをしとっただけよ」

「あ、じゃあ別に死んだりとかはしてないって事、でいいのか……?」

「おうとも。っつっても、どいつもこいつも歯ごたえが無くってよぉ。どっかの骨でも折れてそのまま心も折れて、戦士としての心が死んだりしてねぇかまでは俺ぁ知らんがな!」


 そう言って男はガハハと笑う。言われて見れば手足がおかしな方向に曲がっている者は多数いるが命を落とすほどの傷は負っていないように見える。


「ははは……。そ、それじゃあ俺たちはこれで失礼しますんで」

「おうおうそう遠慮しねぇで一戦拳を交わしたりしてくれてったっていいんだぜ?」

「い、いやいや俺たちには魔王を倒すという大事な使命があるんでちょっと……なあリン?」

「そ、そうだな、うん。あんまり怪我とかして今後の旅に支障を来すわけにもいかないし……」

「おう、そうなのか。それじゃあ駄目だな」


 そそくさとその場を去ろうとする兵真たちの言葉を聞き、男は残念そうに首を振る。


「アイツを倒すつもりとあっちゃあ見逃すわけにいかねぇくなっちまったな」


 男の言葉にビクリとして兵真たちが振り向くと、男は既に拳を構えていた。

 アイツ。恐らく魔王の事だろう。この男はどうやら魔王の配下だったようだ。兵真は自らの迂闊な言動を酷く後悔した。


「……ごめん、リン、みんな。何なら俺がここに残るからみんなで逃げてくれても……」

「馬鹿言うなよヘイム。こんなことくらいでお前を見捨てたりなんかしねぇよ。むしろこの前のムカデの時の借りを返す時だ。俺も付き合うぜ」

「ウォン!」

「アタシもあなた達に付いてくって決めたし、ご一緒しようかな」

「みんな、頑張って。私も回復で支援するから」


 兵真が残り仲間達の逃げる時間を稼ぐべきかと提案したが、皆兵真と共に戦う事を選んでくれた。

 リンフレッドは兵真と並び立ち拳を構え、ナナフサは剣を抜き放ち、レイニーは三名の後ろに立ちいつでも魔法が使えるよう準備している。ムツミはかなり離れた位置で喋っていたので正直何を言っていたのか兵真たちにはよく聞こえなかった。


「おう、逃げねぇで立ち向かってくれんのは嬉しいねぇ。逃げ回る背中に殴りかかるって卑怯で好きじゃねぇからなぁ。……さて、アイツに付き従う四天王が一人、このグランハンドが相手をしてやるぜぇッ!」


 グランハンドと名乗った男が大地を強く踏むと、突如として現れたすさまじい衝撃波が兵真たちを襲う。その場で踏ん張ってなんとか耐え切ったが、周囲の建物は跡形も無く吹き飛ばされてしまった。

 とんでもない威力だったが、耐えた。兵真はニヤリと笑った。


「グ、グランハンドって言ったっけか……。残念だったな、初手より奥義で決めるつもりだったみたいだが、俺らはまだピンピンしてるぜ!」

「奥義? オイオイ兄ちゃん俺ァただ軽ぅく地面を足でポンと叩いただけよ。まだまだ奥義どころか技のわの字も使っちゃいねぇよ」

「そっか。……やっぱ逃げてもいい?」

「そんな反応されるようじゃあ俺としては逃がしてやりてぇトコだが、アイツを害するのが目的と聞いちゃあそうもいかねぇのよな。諦めて精一杯抵抗してくれや」


 グランハンドは申し訳無さそうにそう言い、ゆっくりと兵真たちへ向かって歩いてきた。


「グウゥッ!」


 あまりの実力差を見せ付けられ動けなくなっていた兵真に変わり、ナナフサが飛び出した。

 その振り抜かれた剣はやはり一撃で全てを決するべく喉元へと放たれるが――。


「おおっと」


 グランハンドは軽々と片手で弾いて見せた。そのままナナフサは吹き飛ばされて地面に激突した。


「ギャン!」

「ハッハッハ、元気のいい犬っころだなぁ。ま、そうあからさまに首を狙われりゃあ簡単に防げちまうんだがな。……で、飼い主のお前らは見てるだけかい?」


 気を失ったのかナナフサは口から剣を離して起き上がろうとしない。そしてグランハンドは再び兵真たちへ向き直った。


「リン、やっぱ俺があいつの相手を……」

「何言ってやがる。今更んな事したらナナフサまで置き去りじゃねぇか。それにたった一人であんなの相手しちゃあ10秒と持たねえよ。……同時に仕掛けよう。レイニーさん、手伝ってくれ」


 リンの言葉にレイニーは頷きを返した。ムツミはもう米粒程度にしか見えない距離で様子を窺っている。

 そのまますぐに作戦を決めた。レイニーが視界を奪い、兵真が突撃。不意を付いてリンフレッドが奇襲をかける。


「よし。……いくぞグランハンド! この俺の底力、見せてやる!」

「おう、面白そうじゃねぇか。ドーンとぶつかって来いやぁ!!」


 グランハンドは胸を大きく張り、どこからでもかかってこいと受けの姿勢を見せた。

 それを見て兵真は雄たけびを上げて突っ走る。それと同時にレイニーのブラストマジックが大地を破砕し、グランハンドの視界を遮った。

 舞い上がった石と土の中へ闇雲に突っ込み兵真は剣を振り抜くと、何かにぶち当たった。

 グランハンドの腹だ。しかし、服を纏ってもいない横腹に剣が叩き込まれているというのに傷一つついていない。


「マジかよ、冗談だろッ!?」

「ヘッ、そう驚くなよッ! 鍛え上げられた肉体ってぇのは鉄より硬ぇのよォッ!」


 そう言ってグランハンドが力を込めると、剣は弾かれ、兵真も後ろへよろめく。そして兵真へと拳を振りかぶるグランハンドの姿が見えた。

 ノーダメージなのは予想外だったが、問題は無い。兵真は陽動、本命はグランハンドの背後で拳を振りぬいたリンフレッドなのだから。


「もらっ――」


 貰った。そうリンフレッドが口にするより早く、グランハンドの拳がリンフレッドを横殴りに打ち抜いた。

 横に回転しながら大きくバウンドし、やがて大の字になって地面に倒れる。

 あっけなくリンフレッドも倒されてしまった。いや、兵真もそうなるかもしれないと薄々は感付いていた。最初に力の差を見せ付けられた以上倒す事など不可能だとわかっていた。あくまでもこれは一矢報いる事ができるかどうかの戦いだったのだ。

 その一撃が届かなかった以上、次は自分の番か。兵真が覚悟を決めて襲い来る衝撃に耐えんと歯を食いしばると――。


「……はぁぁ、もうヤメだヤメ。アホくさくなってきやがった」


 ため息をついてグランハンドは兵真の横を通り過ぎて行った。


「俺に傷も付けらんねぇような雑魚にアイツが殺せるわけねぇわな。俺もう行くわ。帰って寝る。まあ魔王退治とやらでも頑張ってくれや兄ちゃんたち」


 ポンポン兵真の頭を叩きながらそう言って、グランハンドは本当に帰って行こうとする。


「え、お、俺ら、助かるの……?」

「まー元からちょいと小手調べぐれぇのつもりだったんだが、弱すぎて話になりゃしねぇ。特にそこの青髪」


 死ななくて済むのかと兵真が安堵していると、グランハンドが倒れているリンフレッドを指差す。


「お前は特に駄目だ。俺と同じく拳で勝負ってぇのは男らしくていいが、そんなヒョロい腕じゃあさっきのパンチも当たってたって砕けたのは俺の頭じゃなくお前の腕だったろうよ」


 もっと筋肉を付けろ、と気を失ったままのリンフレッドに言うと、グランハンドは本当に去って行った。

 それと入れ違いにムツミが現れ、レイニーと協力をして倒れたままのナナフサとリンフレッドを運んできて治癒魔法を使い始めた。


「グランハンド……とんでもない強さだ。四天王とか言っていたって事は、あんな強い奴らがまだ三人も居るのか……?」


 殺すつもりも無かったとは言え弱すぎるから途中で飽きて帰ったというのは兵真は少しいらっとしなくもなかったが、弱いのは事実。グランハンドにかすり傷も作れなかった。

 魔王の配下である以上、またいつか戦う時がくるのであろう。次に出会う時までにもっと力を付けておかなくては。兵真はもっとみんなと共に強くならなくてはと心に決めた。

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