第五話 奴隷市場
リンフレッドに奴隷市場に辿り着けるかどうかを不安視されていた頃、兵真は無事に奴隷市場へ辿り着くことが出来た。
「……正直迷ってどこにいるかもわからなくなるかと思ったが、やっぱエロのパワーはすげえな……」
飛び出してからしばらくして聞いたのが方角だけであった事に思い至った兵真だったが、兵真の中の何かがいつの間にやらこの場所まで導いていたのだ。
「さーて、それじゃあめっっっちゃくちゃ美人で可愛くて従順そうな女の子を探すとするかなぁ!」
兵真は自身の股間の第六感に感謝しながら、奴隷市場の中へと足を進める。
純粋に不純な動機を持った今の兵真は、むしろ輝いてすら見えた。
「あれ……見たことあるのがいっぱいある……」
星のある場所より更に上だった兵真のテンションは男性の奴隷の見るや否や奈落の底へと落ちていく。右も左も檻の中に入れられた屈強な男達がほぼ裸同然の服装で座っていた。
見たことのあるナニがいっぱいあるのかはさておき、兵真は近くを通りかかった見張りらしき男に声をかける。
「な、なあおっちゃん。もしかしてここって男の奴隷しか売ってないの……?」
「あ? なんだぁ……ああ、そうかそうか」
落胆した兵真の顔を見た男は優しい微笑を見せて、解っている、と言いたげに頷いてみせる。
「入り口手前のエリアは力仕事なんかの為に男手を欲しがってる層向けでな。兄ちゃんの目当てはあっちの奥のエリアだぜ」
親指で方向を示すと男は兵真の肩を叩き、いやあ若いっていいねぇと言いながら去っていった。
「ありがとな、おっちゃん……。最高にエッチな……じゃない、最高に頼れる仲間、見つけてくるよ」
兵真は男に敬意を表し、決意も新たに歩き出した。
その間、ずっと鼻の下は伸びっぱなしだった。
「うおお……すげえ……!! 見たことないのがいっぱいある……!!!!」
男性奴隷売り場とは分厚いカーテンで仕切られていたその先には、女性の奴隷が檻の中に入れられていた。衣服はやはりほぼ裸同然であった。
やはり見たことのないナニがいっぱいあるのかは触れずにおき、兵真は一人一人を舐め回すようにじっくり見ながら品定めを始める。
兵真に見られている事に気付いた少女の奴隷はそのあまりの鼻息の荒さに怯え、また別の女性の奴隷は恥ずかしそうに体を手で隠す。
兵真はその一挙手一投足に興奮し、もうどうしようもないくらいに興奮してこのままでは体のどこかが爆発するのではないかという所まで来てしまった、だが。
「…………ふう、いかんいかん。こんな状態じゃまともに見て回れやしないな。落ち着こう、俺」
太陽もかくやというほど熱をあげていた兵真だったが、一週回ってクールダウンした。目先の情報に惑わされずにもっとしっかり見なくては。
冷静な目で見てみると、どの奴隷も見た目だけであれば十分兵真は満足できるだろう。しかしどれもこれも華奢であった。
一応、兵真は魔王を倒すためにこの世界に来たのだ。エッチな事をしに来たわけではない。それをようやく思い出す。
「かといって男はなぁ。やっぱかわいい女の子がいいなあ。……でもかわいいだけだと困るし、魔法とか使えそうな子いないかなあ」
独り言を呟きながら改めて兵真は奴隷を見て回る。そもそもただ見ただけで魔法が使えるかどうかなどは分からないので見るだけでは無意味なのだが、一応自分は勇者なのだし何かしらビビッとくる相手がいるのではないかと真剣に見て回る。
そうやってしばらくじっくりと見て行ったが、ふと、ある奴隷の前で立ち止まり兵真は驚くような声を上げた。
「……六実?」
兵真がそう呼んだ奴隷は、肩にかからない程度の額で切り揃えられた黒髪が特徴的な、兵真と同じくらいの歳の少女だった。
少女は自分の事を呼ばれているとは思わぬ様子で俯いていたが、檻に手をかけて兵真が覗き込むように見ている事に気付き顔をあげた。
「……わたし?」
「えっ、そりゃあ当然……いやいや違うか。ここ異世界だったもんな」
困惑するように兵真を見る少女を見て、忘れていたと兵真は首を振る。
兵真が口にした六実と言う名は、兵真の初恋の相手だ。今目の前にいる少女にうり二つだったのでつい声をかけてしまったが、本人のわけがないのだ。
「なんでもない忘れてくれ。ちょっと見覚えのある顔だったからつい……」
「そう……」
少女はそう言うとすぐにまた膝を抱えて俯く。兵真も檻から手を離し、別の奴隷を見て回ろうかと歩き出そうとしたが、ちょっと待てとすぐに止まる。
ここにいるのは兵真の恋した相手とは別人であった。しかし、それはもう非常によく似ていた。思わず声をかけてしまうほどにだ。
魔法が使えるかどうかはやはりわからなかったが、これはこれで運命の出会いというやつなのでは。そう思い始めた兵真の足は奴隷商を探し始めた。
すると少女の檻からさほど離れていない位置で見つける事ができた。
「いらっしゃいませお客様。どうです、何かお気に入りの者は見つかりましたかな?」
「ああ。買いたいのが一人いるんだ」
「おおありがたい事です。さて、どちらの奴隷をご所望でしょうかな」
兵真が奴隷商を連れて少女の前まで行くと、奴隷商は難しい顔をした。
「この子なんだけど」
「うぅむ、こちらでしたか……。健康状態に問題はないのですが、前の持ち主に随分と楽しまれていたようでして、そのせいか多少反抗的な所がありまして」
「気にしないよ。俺はこいつに決めたから。で、いくらすんの?」
「それはこちらとしても有難い。女の奴隷の中古品というのは中々買い手が付かないものでして、お値打ち価格でお譲りいたしましょう」
奴隷商に掲示された金額を皮袋の中から渡す。金貨二枚というのが高いのか安いのか兵真には正直分からなかったが、多分安いのだろうと納得する事にした。好きだった子そっくりの女性が金で手に入るのだから実際安いだろう。
鍵を開け、檻の中から出てきた少女はやはり俯いている。少女の首と繋がった鎖を奴隷商から手渡される。
お買い上げありがとうございます、と丁寧に礼をしてくる奴隷商に兵真も軽く返事を返し、奴隷市場を後にした。




