最終話 勇者誕生! 異世界へ!
日も沈み始めた夕方、一人の少年が家路を急いでいた。
車の往来もまばらとなった路上を沈みゆく明かりを頼りに行く少年は、どこかで転びでもしたのか酷く服が汚れている。
よく見れば汚れだけではない。所々破れ、転んだにしては不自然な箇所に怪我もしている。
「クソ、あいつら……いつか絶対見返してやる」
誰に聞かせるでもなくそう呟き、少年は何度も目尻を擦る。どうやら傷も汚れも誰かとの喧嘩か何かで出来たものらしい。
小さな復讐を誓う少年は怒りに任せて歩き続けてきたが、ようやく冷静になったのかその足取りは段々と重くなっていく。
親に何と言い訳しようかと考えているのかその足は少しずつ遅くなる。だが立ち止まりはしなかった。どれだけ遅くとも歩みだけは決して止めていない。
しかし、目の前に人がいることに気付くと少年は立ち止まってしまった。考え事にふけっていたとはいえ突然現れた人物に驚いてしまったらしい。
「話は聞いてたぜ。復讐かあ、いいよな復讐。……でも、そのためには力が無いとなぁ」
「だ、誰、ですか……?」
空の色は橙から黒に変わり始めているのと、顔をフードで隠しているのもあって少年には話しかけてる人物が男だとしかわからなかった。
「俺が誰かは気にしなくっていい。多分お前にとっては神様か悪魔みたいな存在だと思えるようになるってコトだけ覚えておけ」
「は、はあ……」
「さて、それはともかくとして本題だ。お前、復讐したいヤツがいるんだよな?」
男の言葉に少年は頷いた。それを見て、男は心底嬉しそうな声で続ける。
「そうかぁ、それは丁度いい。きっと素晴らしい経験を得られるだろう。……実はな、こことは違う世界で魔王が暴れているんだよ」
「……はい?」
「お前には、そいつを倒して世界に平和を取り戻して欲しいんだよ。もちろん、その後はお前がそこで手に入れた力も仲間も何もかも、この世界にそのまま持って来られるようにしてやるぞ?」
男の話に少年は何度も首を傾げて聞き返す。
それを見て、やっぱりかと男はため息を吐いた。
「なんだ、こういうのはあんまり素直に信じてくれる奴って少ないもんなのか? まあいいや、疑うなら色々と証拠を見せてやる」
そう言うと男は懐に手を突っ込み、少年の世界には一目見れば存在しないと分かる様々な品を見せていく。
それらを見た少年の目の色が変わるのを確認すると、男は改めて少年に問う。
「そんなワケで、この世界とは別の世界が今ピンチなんだ。助けに行ってくれる奴を今探しているんだが……」
「や、やりますっ!」
「おぉ、いい返事だな。そう言ってくれると俺も嬉しいよ。……さて、それじゃあ改めて聞こうか――」
再び、劇の幕が上がる。一つの世界を救う度、一つの世界が窮地に陥る、どこまでも無限に続く旅。
この救世の物語に終わりは無い。きっと彼らは、いくつもの世界を救う事となるのだろう。どこかで綻びが生じない限り、永遠に。
そんなものが本当に生まれるのかどうか、いつかその物語に終止符は打たれるのか。
それらは皆、神のみぞ知る。
「異世界を救う勇者になってみたくはないか?」




