第四十二話 勇者、さいごの戦い
「ぐっ、貴様……! ……ッ!?」
吹き飛ばされたルシールは仮面が割れ、半分に砕かれていると気付く。
そしてすぐ近くに落ちていた片割れを拾いあらわになった顔に当てると、再び気付く。
這いつくばった姿勢のルシールの首にナナフサが剣を添えていると。
完全に包囲され、もはや逃げるも攻めるも叶わぬ状況にあると。
「今度こそ、完璧に終わりだ、ルシール」
兵真が持ち、突きつけているのは今までの剣ではない。吹き飛んだ時、取り落とされたルシールの剣だ。
今のルシールにはもう、何もできない。一言一句違わず、ルシールは終わった。
仮面の向こう側から兵真を睨むルシールに、リンフレッドが問う。
「最後に聞かせろ……魔王。なんでスタールを襲い、ラジエルの恋人を殺した? なんで、魔王なんかやってんだ? 答えろ」
「さてな、私の方が聞きたい。なぜ私はこんな事をしていたと思う?」
「お前……!!」
「待てリン!」
とぼけたようなルシールの返答に激怒したリンフレッドを抑える。兵真にも気持ちは分かるが、もう勝敗が決した今は冷静になるべきだ。
「……分かってる、ヘイム。こいつが何を考えてたにしろ、もう終わりなんだ。俺達は勝ったんだもんな」
リンフレッドはすぐに平静を取り戻す。
そうだ、勝ったのだ。兵真達は魔王ルシールに勝利した。これで、きっとこの世界は平和になる。
だが、そんな想いをルシールは嘲笑う。
「ああ、お前達は私に勝った。そして私も終わりだ。だが、その程度では何も変わりはしない」
「どういう意味? まさかアナタの死さえもアナタのシナリオ通りだとでも言うのかしら」
レイニーの疑問に、ルシールは首を横に振る。
「いいや、私はそこまで考えていないさ。だが、お前達の終わりは、未だ変わらん」
「うるせぇッ! 減らず口を叩くんじゃあねぇ! お前はもう負けたんだよ、認めろ魔王!」
「だから認めているだろうリンフレッド。だが私が負けようとお前達の未来が変わりはしないと言っているんだ」
「だからッ! それがどういう意味かって――ッ!」
リンフレッドの怒号が飛ぶ中、ルシールは跳ねるように立ち上がり、兵真が持つ剣を奪い取る。
……いや、それは叶わなかった。ナナフサの剣がルシールの胸を背から貫き、あと一歩のところで止まったから。
「そんなもんが、お前の最後の賭けだったってか。残念だけど、やっぱり未来は変えられなかったな」
「ああ、変わっていないさ、お前達の未来は、未だ」
前に歩き、突き刺さった剣を自力で引き抜く。
そして最期の言葉を残し、ルシールはうつ伏せに倒れる。
「……最期まで意地張りやがって、この野郎」
リンフレッドの言葉を、ルシールは聞いたかわからない。
だが、こうして勇者兵真の最後の戦いは静かに幕を下ろすこととなった。




