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無限の異世界救世譚  作者: カイロ


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第四十一話 魔王との戦い

 辿り着いた。

 また会おうと約束をしたとはいえ、ここまで来るのに一人になってしまった。正直に言うと、兵真は少し寂しい。

 黒い大扉が眼前にある。そしてこの向こうから強い力を感じる。間違いなく、ルシールはこのすぐ先にいる。

 ようやく魔王とのご対面だと扉へ手を伸ばすが、少しだけ止まってしまう。本当に一人で挑むのかと。

 しばし待てば仲間達が合流するだろう。約束したのだから。


「いやいや無いよな。流石にそれはカッコ悪いし」


 ここは一人で戦うべきところだ。臆病風にでも吹かれたか後ろ向きな考えが浮かんだが兵真はそれを振り払った。

 改めて扉に触れると、押してはいないのに重々しい音を響かせながらひとりでにゆっくりと開いていく。

 そしてその先の部屋には予想した通り、映像で見たルシールがいた。仮面の魔王は部屋奥の玉座に座り、その傍らに黒い剣を突き立てている。

 だが、その部屋は魔王の間という割には、これまでの部屋とさほど変わりのない殺風景なものだった。


「来たか、勇者」


 扉が完全に開かれ、二人は対峙した。玉座に座ったままのルシールが待っていた、と言葉を漏らす。

 お互いを認識し、もはや後には退けない。兵真は扉をくぐりぬけ、ルシールの元へと歩み出す。


「ああ、来たぜ魔王。勇者、尖崎兵真がお前を倒してこの世界に平和を取り戻してみせる」


 剣を抜き、兵真がそう名乗りを上げると、ルシールは小さく笑う。

 仮面が覆い隠しているせいでその表情までは図れなかったが、それはどこか嬉々としたものを感じさせる。


「フッ、世界に平和を、か。懐かしいものだな。聞くのは二度目だ」

「二度目……? まさか俺達以外にも魔王を倒そうとしたヤツがいたのか!?」


 剣先を向け、ルシールの言葉に抱いた疑問を問うとすぐに回答が返ってくる。


「ああ。お前と同じような台詞を吐き、勇敢にも魔王へ挑んだ人間が他にいることを、私は知っている」

「……それなのにお前が生きてるってことはつまり、聞くまでもないか」

「そうだな、お前の考えているように、失敗したさ」


 既に魔王に挑んでいた者がいた。初耳だ。兵真の知る限りではそんな話一度も聞かなかった。

 彼らがどれほどの力を持っていたのかも知らないが、なおさら油断のできない戦いになりそうだと兵真は気合を入れ直す。

 そしてついにルシールも動き出す。立ち上がり、黒剣を引き抜き振り払うと、その剣と全身に黒いオーラが立ちのぼる。


「さて、お喋りはこの辺りで終わりとしよう。そしてヘイム、この先に待つ運命を受け入れるがいい」


 まだ互いの距離は十分に離れている。決して一瞬で詰められない間で、にらみ合う。

 見たところルシールは剣しか持っていない。魔法を使う可能性は捨てきれないものの、おそらく接近戦タイプだろうと兵真は踏んでいる。

 だが、なぜか安心できない。あの強そうに見えるオーラのせいか、危機感があった。ここは危ないと、油断してはいけないと。


「私の『黒焔』で、お前の全てを焼き尽くしてやろう」


 そして、その危機感は正解だったと即座に知る。

 ルシールが剣を振るう。互いにその場から動いていないのに、だ。

 通常なら何の意味があるのかと首を捻ったところだろうが、予感めいたなにかを感じていた兵真はすぐに飛び退いた。

 そして、そのすぐ横を熱い物が通り過ぎる。

 見れば、ルシールの言葉通り。黒い色の焔が、一瞬前まで兵真のいた場所を燃やしていた。


「ほう、勘が良いではないか」

「なるほどな、その剣に何かしらの魔法が宿ってて黒い炎を光波のごとく飛ばしてる、って感じか。剣一本で遠近両対応ってかなりずるいな」

「魔王だからな。大なり小なり卑劣さがあってもいいだろう?」

「ああまあ倒すのに躊躇いは薄まるかなッ!」


 兵真は走った。ルシールとの距離を詰めにかかる。

 剣と剣だ、近付けば危険は増すが離れたとて安全ではない以上、こうせざるを得ない。一方的にやられるなど兵真は好きではないのだ。

 当然その間もルシールの黒焔が放たれる。剣閃の軌道に沿って繰り出されるそれは大変な初見殺しであるが、来るとわかれば回避はそう難しくなかった。

 あっという間に射程距離まで接近した兵真は自身の剣を叩き付ける。


「うおらぁッ!」


 スピードを乗せて撃ち出した一撃だったが、難なくルシールの剣で受け止められる。

 しかしまだ兵真は諦めなかった。そのまま剣に体重を預け、押し切ろうとするが――


「あっ、熱っちぃ!?」


 ルシールに体を近づけた途端、体から立ち込めていた黒い炎が兵真を襲い、溶岩地帯にでも踏み込んだかのような高温で肌が焼かれる。

 その途端に驚愕が勝り、兵真はルシールから離れてしまう。


「見掛けだけと侮ったか? この黒焔の鎧が放つ煌きは飾りではない。剣の放つ黒焔と等しきそれは、不用意な肉薄を許しはしないぞ?」

「離れても近付きすぎてもダメとか、やっぱずるいよお前……」

「まあ、魔王だからな。今はその賞賛も心地良い」


 楽しそうにルシールは言うが、兵真には愉快ではない。

 遠ざかれば黒焔とやらで一方的な攻撃を受け、ならばと仕掛けた接近戦も逆にこちらがダメージを受けてしまった。

 素早く後退したおかげかまだ戦闘は継続できる程度の火傷のみで済んだが、再び攻めに回るのは難しそうだと唸る。

 先の一撃は防がれてしまったが、隙が全く無いというわけではなかった。ダメージを与えること自体はできるだろうが、それまでに間違いなく兵真はあの炎に焼かれる。

 あの鎧が放つ炎をどうにかしなくては。さもなくば、兵真に勝ちの目は無い。


「さて、いつまでたった一人で抗い続けられるか見せてもらおうッ!」


 再び、黒焔が来る。

 振り上げられた剣の軌道に立たぬよう慎重に動かねばと兵真が魔王の剣に注視すると――


「一人じゃあ、すぐに限界が来るでしょうね」


 ルシールの手から剣が吹き飛ぶ。

 突然の事に両者は一瞬放心するが、兵真の方が先に状況を理解した。剣を撃ち抜いたあの光には、見覚えがあるから。


「ッ! ムツミ、みんなッ!!」


 大扉の前に、リンフレッドが、ナナフサが、レイニーが、そしてムツミが、兵真がこれまで共に戦ってきた仲間達が集結していた。

 誰一人欠けることなく、ここまで辿り着いたのだ。


「約束通り、追いついたぜ! ヘイム!」

「ウォン!」

「アタシが来たからにはもう安心よ!」

「みんな、無事だったんだな……!」


 また、仲間と再会できた。

 途中、誰かはやられてしまうのではと不安に駆られた時もあったが、今ここに兵真の全ての恐怖はかき消された。

 そして、再会に涙する兵真とは逆に、ルシールは悲しみを押し隠すように震えた声を上げる。


「……そうか。ここに、お前の仲間が揃った、ということは」

「ああ、俺の仲間達の勝ちだルシール。前にお前に挑んだヤツがどこまでいけたかは知らないが、その時よりは追い込まれてるんじゃないか?」

「ふっ、まさか。これならばまだ筋書き通りさ。お前達の結末に変わりは無い」


 まだ秘策があるのか、単なる痩せ我慢か。ルシールは問題ないと吐き捨て、吹き飛ばされた剣を拾う。


「この程度では覆せはしない。決して変わりはしないッ! お前達の、終わりはッ!!」

「いいや、絶対に負けないッ! 俺達の絆でッ! ルシール、お前を打ち倒すッ!」

「そうだろうな、そうだろうともッ! そうだったッ! ならば抗ってみせるがいいッ! かつての勇者のようにッ!」


 ルシールの剣を、全身を包む黒焔が勢いを増す。もはや近付いただけで骨すら焼き焦がされてもおかしくは無いだろう。

 今までが全力でなかったのか兵真が何かに火をつけてしまったのか、先刻以上の火力でもってルシールは吠え叫ぶ。

 その姿はまるで、炎の塊が獣と化したかのようであった。


「まずい、あの鎧が放つ炎を何とかしないと俺達じゃ戦えないッ! ムツミ、レイニーさん、頼んだ!」

「よし、頼まれたッ!」

「任せて!」


 接近戦ができない今は、兵真達三人は囮を引き受け、ムツミとレイニーに解決を任せる。


「リン、ナナフサ! あいつは剣から黒い炎を飛ばして攻撃してくるッ! 離れてるからって油断するなよッ!」

「おう!」

「ウォン!」


 三人で前に出る。いくら飛ばされる黒焔を回避しようとも近付きすぎれば鎧の炎で焼かれてはしまうが、それでも遠距離攻撃専門の二人から目を逸らさせるために付かず離れずを維持する。

 そして、ルシールが剣を振った瞬間を狙い、ムツミの光の槍が再び剣を撃ち抜く。


「ぬぅんッ!」


 しかし、二度も同じ結果とはならない。発射されたそれに気付き、剣で床に叩き付けるように光の槍を迎撃する。


「でも、ここで終わりではないのよねッ!」


 光の槍は叩き潰され、進路を変えて床を撃ち砕いた。

 そして、砕かれた床の欠片が宙を舞い、それはまたルシールの周囲にも。


「その通りッ! 次はアタシの出番よッ!」


 舞い散る欠片が爆砕される。レイニーのブラストマジックで砕かれたそれはより小さなものとなるが、威力はむしろ強大なものとなる。

 そして、ルシールは無防備にその全てを受ける。飛び交う礫が雨となり、その身を守る鎧へ叩き付けられる。


「ッ……! 私の鎧をッ!?」


 ルシールを鎧う黒焔は、その姿を小さくしていく。

 ブラストマジックで打ち込まれた破片が鎧を砕き、またそれに込められた魔力さえ撃ち砕いてみせたのだ。


「そのインチキ鎧、壊してやったぜ! 覚悟しろ魔王、ここからは五対一だッ!」

「ッ!! いや、構わんさッ! 依然変わらんッ! お前達は、終わるのだッ!!」


 黒焔の守りは失われた。今もなお弱まり続ける火勢はもはやいかなる攻撃へのカウンターとしても機能しないだろう。

 だが、ルシールは叫ぶ。終わらないと、抗ってみせると剣で薙ぎ払い、兵真へと黒焔を飛ばす。

 それは避けるまでもなく、霧のように消えてなくなった。ムツミの光の槍と衝突し、対消滅を果たしたのだ。


「……フレーシスと、同じ系統の魔法ってワケね。ならさっきよりちょっと速いけど、もう使えないと思った方がいいわよ」

「……ッ!!」


 ムツミの言葉など意に介さず、ルシールは再び黒焔で兵真を狙う。

 しかしフレーシスとの戦いで飛び道具の無効化に慣れたムツミにはやはり通用しない。同じく黒焔を無効化し、ほぼ封印したと言ってもいいだろう。

 もう隠し玉は無いのか、ルシールは怒りに震えている。もはや、敗北したも同然の状態と兵真には見える。


「なあ、ルシール。もうやめないか? 俺達はなにもお前を殺したい訳じゃないんだよ。お前が負けを認めるってならもう、これ以上は」


 兵真は、手を差し伸べた。雌雄は決した、これ以上の戦闘は無意味だと。

 兵真が見る限りルシールの状態は負けが確定している。無駄に犠牲を増やすことなく平和的に解決できれば、と思っての行為。

 こんな提案を受け入れるような相手には見えなかったがそれでも、という問いかけ。


「認めるわけが無いだろう。お前に殺す理由が無くとも、私にはある」

「……まあ、そうなるよな」


 兵真の予想と同じ答え。だろうな、とため息を漏らす。

 そもそも兵真達はルシールの仲間を倒してここにいるのだ。首を縦に振るはずも無かった。


「私はもう死以外では止まらん、止まる訳にはいかん。私の仲間の命、お前達の命で償わせなくてはならんッ!!」


 ルシールは駆ける。他の誰にも目をくれず、兵真の首を落とさんと。

 黒焔による遠距離攻撃を封じたとはいえ剣自体は傷すら無い。まともに打ち合いをしていない兵真にはその実力はわからないが、構える。


「死ねヘイム。貴様は、私がこの手で――ガァッ!」


 兵真に襲い掛からんとしていたルシールは、突如後方へと飛んでいった。

 いつの間にか追い付いたリンフレッドの拳が、ルシールの顔面を仮面ごと殴り抜いていたのだ。


「……いっけねぇ、忘れる所だった。魔王は俺が直接ぶん殴るって言ったもんな」


 思い出したようにリンフレッドは呟く。鎧の黒焔はほぼ消え、叩き込んだ拳にダメージは無かったが、リンフレッドはその手をじっと見つめていた。

 仇への一撃だというのに、その表情はなぜか暗い。


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