第三十九話 再戦! 四天王フレーシス
「久しぶりね、ヘイマ、ムツミ。元気だった?」
魔王ルシールの元へと向かう、おそらく最後の広間。そこには二人の予想通り、仮面を付けた人形を抱いた少女、フレーシスが待っていた。
二人の姿を確認したフレーシスは口角を上げて愉快そうに話しはじめる。
「私はね、大変だったよ。フロステールに魔導障壁を出させて私達を封じ込めてた岩を闇の手でちょっとずつ砕いて、掘り進めて、そしたらまた崩れて、振り出しに戻って、また砕いて……。すっごくね、出てくるの大変だった」
「いや、それは」
「気にしなくっていいよヘイマ。私だって自分が殺されそうになったらそれくらいするし。私達だってヘイマ達を殺すつもりだったんだし。おあいこ。……ところでさ」
そこでフレーシスは兵真からムツミへ視線を変えた。
「ムツミ、あなたはあれからヘイマの事、好きになったりしたの? 私そこが気になってたの」
「…………。別に、その、教える必要とか、ないでしょ」
酷い目に会ったという話からの唐突の話題転換。ムツミは咄嗟に対応できずしどろもどろになってしまった。
というか、そんなん本人の前で聞くな、とアイコンタクトを試すがわかったのかわかっていないのかフレーシスは頷く。
「……うん、まあそうだよね。私は教えてもらえてももらえなくてもどっちでもよかったけど、できれば聞いておきたかったのよね」
だって、と一息置き、
「二人ともここで死ぬんだから、今しか聞く機会、もう無いんだもの」
直後、魔術によって呼び出された二つの闇の腕が迫る。
兵真とムツミを掻き抱くように左右から襲うそれは、二人を引きちぎるよりも早くはじけて消えた。
「……チッ、そうだったわ、そうだったわよね。お前そういうことできるんだったもんね」
「ヘイム! 行って!」
「分かってるッ! 死ぬなよムツミ!」
第一射をムツミが光の槍で相殺し、その隙に兵真はフレーシスを迂回して先の扉を目指す。
「行かせるわけ無いでしょッ!!」
フレーシスは叫び、一枚の壁のように隙間無く展開された闇の手が兵真を押し潰さんとする。
ちらりと目を動かしそれを見た兵真だが、恐怖で止まったり後退することはしなかった。ただ前を見て、走る。
このままでは兵真の頭部は間違いなく闇の手によって握り潰されて死ぬ。だが、兵真は信頼しているのだ。
その信頼に応えるべくムツミの放つ光の槍が一つ一つ闇を照らし、砕いていく。
「やらせるわけないでしょッ!」
放たれた闇の手は一つ残らず消え、そのまま兵真は扉に手をかけた。
進ませてなるものかと鬼の形相となったフレーシスは更に闇の手を繰り出す。今度はムツミに妨害されないよう、射線上に自身が重なる位置からだ。
しかし間一髪。扉を開け、入り、閉めて防御した兵真にそれは届かない。扉の一部を削りとると闇の手は消えた。
兵真を追うべくフレーシスは行こうとするが、一歩目を踏み出すと同時に光の槍が頬を掠める。
「……そんでもってあんたの言った言葉、そのまま返すわ。行かせるわけないでしょ」
それ以上先にフレーシスは進まなかった。その場で止まりゆっくりと、くるりと回りムツミに向き直る。
一瞬前までは恐ろしい顔をしていたが、今はこの広間で出会って最初に見せていたような優しい少女の顔に戻っていた。
「…………まあ、いいんだけどね。私の、私達のルシールがたった一人相手に殺されるわけないんだし。それでも、もしかしたらってあるかもしれないって思ったからここで殺しておこうとしただけだし、ヘイマだったら、進ませてあげてもいいかなって思っただけ。いいよ、付き合ってあげる。時間稼ぎがしたいんでしょ?」
「そうね。できればついでに死んでくれると助かるんだけど」
「ふふっ、それはダメよ。だってここで死ぬのはムツミの方だもん。後でヘイマの死体も持ってきていっしょにしてあげるから、楽しみにしててよ」
笑って言うと、闇の手がムツミに襲い掛かる。が、合わせて放たれる光の槍がそれと対消滅する。
「それは多分無理だしできないわね。わたし達は御覧の通り魔法の力は互角だし、せいぜい相討ちってところじゃない? それに、後でヘイムになんでもしてあげるって約束もしてるしわたし死ぬわけにいかないのよね」
「あら、二人はそんなに仲良くなったのね。良かったわ。それならあなた達の死体を使っていろんなことさせてあげるから安心して死んでいいわよ」
「そうね、何がなんでもあんたを殺さないといけないみたいね」
かくして、光と闇が合わさっては消えていく壮絶な魔法合戦が幕を開ける。




