第三十四話 決着! 四天王グランハンド
そこからのグランハンドは、まさに嵐だった。
右からも左からも暴風と化した殴打が蹴撃が、一撃必殺の攻撃が雨あられの如くにリンフレッドへと襲いかかる。
見切ることだけに徹すればリンフレッドに避けられない速度ではなかったが、背中から血が流れ落ちるたびに動きは精細さを欠けてゆく。
徐々に徐々に、リンフレッドと死の一撃との距離は近付いていった。
「うおっ……!」
ガクン、とリンフレッドの膝が落ち、バランスを崩す。血が流れすぎたのか、一瞬だけ意識が消えてしまったのだ。
グランハンドとてそれを見逃しはしない。貰ったとばかりに振り上げられた踵がリンフレッドの顔面へと迫る。
だが、ここで終わるわけにはいかない。必ず追いつくとヘイムに約束したのだから。リンフレッドは無理矢理片足のみで後方へと飛ぶ。
「ぐうッ!」
踵の直撃は避けられたが、背中の時と同じように砕けた床が凶器となってリンフレッドを襲い、胸に腹に突き刺さる。
痛い。だがこれも死にまでは至らない。首や脳天にブチ当たって死んだよりはマシだったとリンフレッドは耐える。
しかし、背中への傷と今の傷。もうこれ以上動き回ってグランハンドの攻撃を避けることはできないだろう。
リンフレッドは、覚悟を決める。
「おっと……悪ぃな、俺だけ飛び道具使っちまったみてぇでちょいと卑怯だったか」
「……構わねぇよ、こんなもん卑怯の内に入らねえ」
「助かるぜ。そう言われると俺も気が楽だ」
「それから、先に言っておく。今ので俺はもうお前の攻撃を避けたりできないはずだ。もう気付いてるだろうが」
「だから死ぬ前に遺言でも残させてくれってか? いいぜ、あのヘイマとかいうヤツに必ず届けてやる」
「違う。……もう気付いてるだろうが、俺もお前も次で最後だ」
「俺も、だぁ? 何言ってやが――」
言葉の真意を聞き返そうとグランハンドが口を開くと、グランハンドの全身から血が噴き出る。
何がおこったのか分からず、グランハンドは一瞬呆然とした。
「な、何だぁこりゃあッ!?」
「お前の攻撃を回避する際に、実は反撃を入れさせて貰っていた。お前も今の俺と同じくらい、ダメージ受けてるはずだぜ。もう気付いているだろうと思ってたんだが、その反応を見るにそっちは俺のスピードを見切れなかったみたいだな。つまり」
リンフレッドはニヤリと笑った。
「次で最後なのは、お前だけだな、グランハンド」
リンフレッドの反撃を見る事ができていなかった。その事実に呆然としていたグランハンドだったが歯を食いしばり、リンフレッドを睨む。
「やりやがるぜぇ……! こんだけやられてたぁなんざ気付きもしなかった……! だが、だがなぁ! リンフレッド! お前だってもう動けねぇってんなら、一発でも入れりゃあ俺の勝ちだぜぇ……ッ!」
「そうだな、俺の体じゃあどれだけ十全でもお前の拳なんざ受けられないだろうさ。だが今の俺とお前のダメージは互角。互角なら、俺の方がスピードが速い。間違いなく、俺の拳がお前を打ち抜くぜ、グランハンド」
「やってみろやぁ、リンフレッドオオオオオオォォォォッ!!!!」
激昂したグランハンドは弾けるように飛ぶ。最初と同じ構えの一撃で勝負を決めにかかる。
「ウオアアアアアアアッ!!!」
迫るグランハンドの拳は確実にリンフレッドの頭を打ち砕くコースだ。
瞬きすらも間に合わぬ時間でリンフレッドの頭髪に接触する。そして、その直後。
拳は止まった。リンフレッドの髪に触れた瞬間にビクリと動かなくなった。
宣言どおりに、リンフレッドの拳がグランハンドの胸を貫いたのだ。
「チッ……マジ、かよ」
信じられない。グランハンドは呟く。だが、その声には敵対的なものは無く、とても優しい声だった。
「俺より強ぇヤツと戦って、死ぬ。俺の夢だったぜ。やっぱり、アイツについて行って正解だったぜ……」
グランハンドは後ろに下がる。そしてリンフレッドに清々しい表情で口を開く。
「行けよリンフレッド。そんで、ヘイマのヤツと一緒にいってやれ」
フッっと笑い、一拍遅れてグランハンドは仰向けに倒れる。
そして、もう二度と起き上がる事はないだろう。
「……グランハンド、お前、結構いいやつだったのかもな。お前が魔王の四天王なんかやってなけりゃ、いい飲み仲間になれた気がする」
拳を交えてリンフレッドには分かったことがある。グランハンドは決して根っからの悪人ではない。
ではどうしてそんな男が魔王の仲間なんてものをやっていたのだろうか。
「まあ、俺はまだ未成年だけど」
考え始めたが、今は兵真達に追いつかねばならないのだとすぐに思い出し、兵真達の進んだ方へと走る。
他の皆は無事だろうかと思いながら、今はただ合流を目指す。




