第三十三話 再戦! 四天王グランハンド②
グランハンドは己の右拳を振りかぶった体制でその場に留まっている。それを見てリンフレッドもまた静止する。
アイロネスで見たあの力。瞬く間に決した勝敗の記憶が残っているリンフレッドには、その一見隙だらけに見える体制に攻撃を加えるつもりにはなれなかった。
恐らく、グランハンドは力を溜めつつこちらの初撃を誘い、そこにカウンターを叩き込み先制と決着の両方を狙う算段なのだ。
こちらからは動けない。リンフレッドはただひたすらにグランハンドの初動を見逃さぬように集中し続ける。
「……」
「……」
静寂に包まれる広間でどれほどの時が流れただろうか。
彫刻のように動かなかった両者だが、先に痺れを切らしたのはグランハンドだった。
瞬きの間にワープしたかのような速度でリンフレッドに迫る。既に拳の射程距離だ。
「ぬぅおらああッ!!」
振り下ろされた鉄槌は、見えない。
そう、あの時のリンフレッドなら、この一撃を見切れずに頭から粉砕されていただろう。
「ッ!」
回避できた。豪腕にかすりすらもせずにリンフレッドはグランハンドの初撃を見事にかわす。
そして、飛び退いた場所を拳が粉砕し、床が砕け散り巨大な穴を開ける。
「おぉ、まずは口だけじゃあ無かったってぇ所か。やるじゃねぇか」
「へっ、スピードは中々だったが今の俺に見切れないほどじゃないぜ!」
賞賛を受け、リンフレッドはニヤリと笑って返す。
「拳はな……」
そして続けざまに聞こえないよう小さく呟く。
リンフレッドの背中からは血が流れていた。グランハンドの拳が打ち砕いた床の破片がリンフレッドを襲ったのだ。
致命傷ではないが動きを鈍らせるには十分だろう。次は避けられないかもしれない。そんな不安がリンフレッドの脳裏をよぎる。
だが、幸いな事にグランハンドにはまだ背中の傷は見られていない。今は気合で押し隠す。
「強気な事で結構だぜ。だが今のは小手調べ、俺の力はまだまだこんなモンじゃあねえぜぇッ!」
今度はグランハンドの蹴りが来る。振り上げられたその斧のような一撃を体をかがめてかわし、隙を見せた脇腹に右フックを叩き込む。
「うおおおっ……!?」
するとグランハンドは驚くような声と共によろめき、リンフレッドから距離を取る。
「いいパンチじゃねぇか。初めてあった時たぁまるで別人みてぇだ」
リンフレッドの打ち抜いた場所を押さえ、グランハンドは実に愉快そうに口を歪める。
「どうしたよ、まさか今ので参っちまったってか?」
「いやいや嬉しいんだよ。俺に傷一つ付けられずにブッ倒れたお前が俺にダメージを負わせられるだけの力を付けてんだ。お前だって嬉しいだろうがよ」
剣で攻撃して傷すら付けられなかった相手に己の拳でダメージを通せたのだ。喜びはある。リンフレッドは素直に頷く。
「ああ。やれるかどうか不安だったけど、正直かなり嬉しい」
「そうだよな。俺もそうだった」
グランハンドは一瞬だけ優しい笑みを見せると、すぐに凶悪な顔付きを取り戻した。
「さぁて対等に殴り合えると分かったトコで仕切りなおしだッ! 今まで以上のフルのフルパワーでいくぜえぇッ!!」




