第三十話 氷河の迷宮 最終層
崩落した壁の先には扉があった。
他には何もなく、更なる隠し扉があるのではと周りの壁も念入りに調べたがこの扉以外には何も無かった。
鍵はないようだがかなり堅く、兵真が力を込めて押し開くと、重い音を立てながら扉が開いていく。
扉の先には、更なる地下への階段が続いていた。一行は慎重に降りていく。
しかし、いくら進めども終わりが見えない。
まさかこれは魔法的な何かの力で無限に階段が続いていていつまでたっても降りきる事の出来ない階段なのか? と兵真が思い始めた所でようやくの変化が生まれる。
まだいくらか先だが階下から橙色の淡い光が灯っているのが見える。
十分近く折り続けていたのではという所での終点らしき場所に一行は安堵を覚え足早に駆け下りていく。
そのまま何事もなく階段を下り終えた一行たちの前に姿を現したのは、とても小さな部屋だった。
兵真の知る一般家庭のトイレよりも気持ち広い程度の小部屋の中央には台座があり、そこに置かれた琥珀色の宝玉が光を放っていたのだ。
これがこの迷宮の宝なのか、と兵真は思ったが宝玉に手を伸ばすより前に念のため周囲の壁を調べる。
が、やはり何の不審点もなく、この小部屋こそが氷河の迷宮の終着点であると判明した。
「なるほどな、つまり俺達は完全に詰んだわけか」
顎に手を当て、神妙な面持ちで兵真は結論を述べた。他の出口が存在しないとわかった以上、もはや兵真たちにできる事は何もないだろう。
もしかしたら夢追う雪狐亭にたむろする男達が救援にやって来るかもしれない。
彼らを苦しめたのであろうブルータイラントは兵真達の手によって討伐されたし、それが突如迷宮から戻らなくなれば救援に向かう可能性はあるかも知れない。
しかし、だからと言って彼らに刻まれたトラウマは消えない。未だにその傷の癒えぬままにこの場所にやって来る事はないかもしれない。
仮に救援が来るとしても食料が心元ない。念のために二日分ほどの食料を持ち込んではいるが到底もちそうにない。
そんな兵真の諦めの混じった詰み宣言に、仲間達の顔も陰る。
「魔物とか相手だったら無敵だったんだけどなあ、俺ら」
「進むのも戻るのもできなくなっちゃうってのは力だけじゃあどうしようもないものねぇ」
「クゥーン……」
重い空気が漂い始める中、ムツミだけは未だに信じられない様子で声をあげる。
「ちょ、ちょっと……みんなまたそういう冗談はいいからさ、早く解決策を教えてよ。ちゃんとあるんでしょう? は、早くしないとわたし泣くかもしれないんだけど」
「……」
だが、その言葉には誰も返さない。返せない。
リンフレッド、レイニー、ナナフサ、そして最後に兵真と順に視線を向けるが、誰もが皆すまなそうに顔を伏せるだけだった。
「そ、そんな……こんな事って……」
冗談ではなく、本当にどうしたらいいのか誰もわからないのだとムツミは気付き、絶望する。
だが、ムツミの目から涙が零れ落ちるよりも先に兵真が口を開く。
「うん、確かに今はどうしようもない。でも誰かが助けに来てくれたりだってするかもしれない。だからさムツミ、そんな希望を今はまだ捨てずにいようぜ?」
「気休め言わないでよ、無理だよ、そんなの」
「な、泣くなってムツミ。気持ちはわかるけどお前の泣く姿は見たくないよ。……あっ、ほらほら! この宝玉とかすごい光ってて綺麗だしコレ見て落ち着こうぜ!」
「そんなので落ち着くわけが……」
台座に置かれた宝玉に手を伸ばし、ムツミの顔前に持って来る兵真。
そんなもので落ち着くわけがないでしょ、と言い切ろうとしたが、兵真の手にした宝玉が突如強い輝きを放ち、言葉を中断する。
他の仲間達もその光景に目を奪われ、場を沈黙が支配する。
兵真の手にした宝玉はその輝きをなお強め続け……
「な、何、この光……?」
「うおおおおおっ!? な、何だッ!?」
「ど、どうしたヘイム! 何やらかしたんだ!?」
「なっ、何かの罠なの!?」
「ォオオン!?」
その場にいた全員が強烈な光に包まれると輝きは徐々に弱まり、光が収まり元の淡い橙色に戻った時には、そこには誰もいなかった。
一時の喧騒を生み出した小部屋は、再びの静寂に包まれた。




